29 オイルクレンジング
城に勤める下働きらしき女性が兵士に連れてこられた。
20代後半に見える双子の女性は、突然兵に連れてこられたため、何が起きたのか分からず真っ青になって震えている。
「どうじゃ、この者たちでも同じようにできるかえ?」
「はい、ですが、お時間をいただけますでしょうか?」
「うむ、そうじゃな。昼食までではどうじゃ?」
「はい」
「楽しみにしておるぞ。シャルト殿、昼食を一緒にどうじゃ?貴殿とともに彼女も連れてまいれ。話がしてみたいでな」
王の間を退出し、サマルーが興奮気味に口を開く。
「実に、実にすばらしい!昼食に誘われることなど初めてのことだ!シャルト殿、これで少し話が進みましたな」
「そうですね。リエスさんのおかげです。ありがとうございます」
喜んでくれるのはいいけれど、この先のことで胃が痛い。一国の女王様と食事って。失礼があったらどうしよう。マナーだって良く知らないのに。と、不安で頭の中がぐちゃぐちゃになりそうな時
「あ、あの、わ、わ、わたくしたちは、いったい、どうなって」
「なにか、レイナールさまの、きに、さわることを、してしまったのでしょうか?」
私以上に不安でぶるぶる震えている双子が口を開いた。
「いえ、大丈夫です。レイナールさまの不興を買ったわけではなく、逆にこれから楽しませるのですよ」
離宮に戻り、お城の侍女に頼んで化粧品を用意してもらった。
「キュベリアから持ってきたものは使わないのですか?」
サマルーの問いに作業をしながら答える。
「ええ、万が一トラブルが起きても、ピッチェの品のせいであれば言い逃れができますよね?」
「そこまで考えているとは。リエス殿は実に聡明ですね」
例え満足のいくメイクができなくても、化粧品が足りなかったと言い訳できるし。「お客さん、いい品ありますよ~」と手をもみながらキュベリアの化粧品を売り込むこともできる。逆にピッチェの方が良い品であれば、情報得ることもできる……とまで考えているというのは知られない方がいいでしょうか?
販売戦略とか、リスク回避とか、競合分析とか、いろんな言葉を学んだ流浪のアラフォー派遣社員とはあたいのことでい!凹。
結局化粧品の質も種類もさほど変わりませんでした。
今回は、20代後半に見える双子、片方が若く見えるメイクを施したところで、先ほどのアジージョとレジージョのような衝撃はないだろう。せっかくの興味が削がれては元も子もない。
姉の方には、色っぽさ全開の妖艶メイク。妹の方には、かわいさ爆発ぶりっ子ロリメイクを施した。なんとか、昼食の時間までにメイクを終えると、シャルトが迎えに来た。
「これはすごいですね。とても双子には見えません」
「二人とも綺麗でしょ?」
我ながら、とてもすばらしいメイクができた。
「ええ、そうですね。あなたほどではありませんが」
ん?最後の方がよく聞こえなかった。まぁいいや。
昼食は広い部屋に、縦に長い机があった。一番奥のお誕生日席に女帝レイナール様。
その手前に、シャルト、その向かいに私は通された。後の席は空席のままだった。ただし、席についていない人は回りにたくさんいる。給仕の人はもちろん、護衛や文官らしき人も。キュベリア側は、レジージョとアジージョとサマルーがいる。
「早速、双子を見せてくれぬかえ?」
女帝に言われて、控えていたレジージョが双子の姉を連れてくる。
「おお、これはまた、先ほどの凡庸な娘が、このような美女になるとは!」
続いて、アジージョが双子の妹を連れてくる。
「なんとかわいらしいのじゃ。双子でも、このように印象の違う顔になるとは、驚きじゃ。そしてどちらも、なんと美しいのじゃ」
よかった、なんとか気に入ってもらえたみたい。
「リエスと言ったかな、どうやったのじゃ?」
「何も特別なことはしていません。こちらで使われている化粧品で、メイクをしただけです」
今回は、オーパーツ未使用なので、本当にメイクをしただけ。
「予が使っているものと同じものとな?」
「そうです。離宮の侍女に頼んで用意してもらいました」
女帝が双子に視線を遣ると、双子は慌ててうなづいた。実際に化粧をしてもらった二人に事実か確認を取ったのだろう。
「では、予も、そのように美しくなれるということかえ?」
「単なる技術ですから、学べばメイク技術は向上します」
「教えてもらえぬか?」
ええもちろん、いいですよという言葉は、シャルトに遮られた。
「陛下、今回リエスの同行はあくまでも余興のためでございます。教えるためには、ある程度の日数が必要となりましょう。今回は残念ながら、それだけの滞在予定はございません。改めて伺うにしろ、技術を伝授するものを派遣してもらうにしろ、検討させていただく時間をいただきたく存じます」
これって、明らかに外交カードにされてない?
「そうじゃな。明後日は舞踏会ゆえ、明日に改めて話し合いの場を設けるが、それでよいか?」
「はい、ありがとうございます」
難しい話はここで打ち切りとばかりに、女帝が合図をすると食事が運ばれてきた。
前菜には、サラダにオリーブオイルのドレッシング。
「おいしい」
素直に声が出てしまった。
「リエス、まだサラダぞえ?お世辞はいらぬ」
と、女帝に変な顔された。
「このドレッシングがとてもおいしくて、今まで食べた中で最高の味です」
現代のオリーブオイルは、安いものは科学薬品で油を無理やり抽出しているらしい。純粋にオリーブを圧縮して取り出して作るオリーブオイルは高価だ。この世界では機械圧搾も、遠心分離もしていないと考えれば、日本では間違いなく最高級品だ。欲しい!売っていたら買ってく!
「そ、そうかえ?特別な材料は使っておらぬと思うが」
不信な顔された。んー、信用回復するにはどうしよう。
「陛下、もう一つ余興をよろしいですか?差し支えなければ、ドレッシングに使われているオイルを少しお願いできますか?」
レイナール様は侍女に合図を送る。程なくして、器に入れられた最高級オリーブオイルが運ばれてきた。
傍に立ち控えていた、先ほどの双子の姉を呼ぶ。そして、オリーブオイルでオイルクレンジング。優しくなでるようにして化粧となじませ、布でふき取る。
「ごしごしと擦ったり、お湯で落とすよりも肌にいいのです。良いオイルであれば、なおさらです。このサラダに使われているオリーブオイルはおいしいだけではなく、肌にもとてもよろしいかと存じます」
女帝はすっかり化粧の落ちた双子の姉を傍に呼び、肌の様子を観察する。
「どんな感じなのじゃ?」
問われた双子の姉は、緊張しながらも、しっかりした言葉で伝えた。
「とてもしっとりした感じです。今まで化粧を落とした後は肌がひりひりとすることもありましたが、まったくそれはありません」
「リエスの知識は計り知れぬな。ますます技術を教えてもらわねばならぬようじゃ」
信用回復成功?
昼食は続き、この世界に来て初めて揚げ物を口にした。オリーブオイルで揚げてある。
キュベリアでは、油は明かりに使うのが専らで、食料用といえば牛脂など動物の脂だ。揚げ物文化はない。
昼食も中盤に差し掛かった頃には、レイナール様とも多少打ち解け、緊張感も緩和した。




