27 恋話をしました
どれも上等な生地をふんだんに使い、繊細な細工が施されている。
一言でドレスを言い表すと「高そう」。
こんな高い服贈られても……素直にありがとうなんていえる度胸はない。
しかし、「貰う義理はない、いらない」というのは簡単だが、仮にも貴族のお屋敷だ。食事一つ取るにもドレスコードがある可能性もある。
それに、使節団としてみっともない格好をして行くわけにもいかないだろう。いうなれば、これも使節団という仕事のための制服ということだと割り切った方がいいんじゃないか。
ドレスは制服、ドレスは制服。自分に暗示をかける。
「あのぉ、こういうの、ありませんか?」
「はぁ?」
暗示、失敗。アジージョさんの着ている服を所望してしまった。
「動きやすい服が欲しいのです。あの、街に出てみたいですし、そもそも私庶民ですし」
「かしこまりました。街に出られるような服ですね。ご用意いたします。では、御召替えを」
アジージョさんの手が、カバンにかかる。
「お世話されるのに慣れていないので、一人でさせてください。困ったらお願いしますから」
「シャルト様から、大切な方なので充分お世話するようにとうかがっております」
アジージョがにんまりと笑う。
「シャルトさんがなんと言おうと、精神的に負担になるので、許してください」
「『さん』ですか」
アジージョがさらににんまり笑う。
うわー、失言。伯爵子息にさん付け聞かれた!気をつけて使い分けてたんだけどな!
「とにかく、着替えればいいんですね?自分でしますから、アジージョさんは街用の服をお願いします」
アジージョさんを追い出し、クローゼットの前でため息をつく。
シャルトに言わなくちゃ。私付きの侍女は要らないって。誰かにぴったり張り付かれたら、おちおちカバンものぞけやしない。
1日中化粧も真っ平ゴメンだ!できれば、城じゃなくって、街の宿に泊まりたいと、頼んでみようか?庶民だからそちらの方が落ち着くし。
いったい何着あるのか分からないドレスの中から、比較的シンプルなものを選んで身に付ける。
カバンをスカートの中に隠し、ドレスに合わせて、簡単に髪をまとめる。
トントントンと、ドアがノックされる。
「どうぞ」
ドアが開くと、シャルトが立っていた。
シャルトの目が真っ直ぐにこちらを向き、また時間をとめている。
「ドレス、ありがとうございました。」
「良くお似合いです。リエスさんは、何を着ても素敵だ」
歯の浮くような台詞にちょっぴり心が痒い。
「使節団として赴くために必要なものとして、ありがたくちょうだいいたしますが、多すぎませんか?」
「いえ、少ないくらいです!どんなに贈っても贈り足りない!」
「そんなに、長く赴くのですか?それとも、1日に何度も着替えるのですか?」
驚いて声を上げると、再びドアがノックされた。
アジージョが頼んだ服を手に部屋に戻ってきた。
「シャルト様、し、失礼しました」
シャルトの姿を見るとアジージョは失敗したという顔をして、慌てて退室しようとする。
何だろう?シャルトと顔をあわせたくなかったんだろうか?
「アジージョ、お茶を入れてくれないだろうか?」
「は、はい。今すぐに」
シャルトに引き止められ、アジージョはお茶の用意を始めた。
向かい合わせでソファに腰掛け、お茶が入るのを待つ。
「リエスさん、まだ使節団の日程のことを話していませんでしたね?」
お茶を出し、退出しようとするたアジージョをシャルトは再び呼び止めた。
「アジージョ、君にも関係のある話なんだ。そこで話を聞いて欲しい」
そうして、シャルトは今回の使節団派遣についての話を始めた。
「ピッチェの王都までは馬車で6日ほどだ。滞在予定は4日。その短い時間でなんとか女帝の気を引かなければならない。そこで、初日の謁見で余興をお見せしようと思う。その余興に、リエスさんの力を借りたい」
大きくうなづき、同意を表す。
「そして、アジージョ、君にも協力してもらいたい」
「わ、わたくしですか?!」
アジージョの声が裏返っている。どうやら、寝耳に水の話だったようだ。
「すまないが、出発は明日だ。詳しい話はレジージョに聞いて、急いで準備してほしい」
出発は明日か。
ここまでの往復で20日、あっちまでの往復で12日、滞在日数などとあわせて、王都に戻るのは大体40日か。思っていたよりも随分かかなぁ。1ヶ月では戻れないみたいだ。
ラトのうどんは足りるかな?
使節団は、団長をシャルト、副団長は政府から派遣されている文官。団員として、セバウマ領の人間と国の人間が何名か。護衛がおよそ20人、侍女が4人と私というメンバーだ。王都からここまでよりも、人も物も増えている。
護衛には、トゥロンの姿もあった。
人数も荷物も多いため、今回は私一人で馬車を使うことができるはずも無く、リムジン馬車には、侍女4人と私の5人が乗っていた。政府の文官を差し置いて侍女がリムジン馬車で移動などありえないのだが、女性ばかりの方が安全だろうというシャルトの配慮だ。
敵に襲われたときに、女性を守りやすいように一箇所に固めるみたいな?
休憩時には、侍女達はお茶の準備などで忙しく動き回る。することのない私はずっと座りっぱなしの体を伸ばそうと、外を少し歩いた。
「シャルト殿から今回の計画を聞いて、実に面白いと感じましたよ」
振り返ると、副団長の文官がいた。文官は、名をサマルーシェと言い、非常に身長の高い男だった。190はあるように思う。かなりの猫背で、目も猫目だ。もしかすると、猫舌なのかもしれない。年齢不詳。見た目は35~45くらい。居るよね、そういう年齢不詳の男って!
「そうですか?」
「リエス殿の腕前は、噂で聞いていますよ。今、社交界はマーゴ様姉妹の噂でもちきりです」
マジですか?そんなに噂広がってたら、ラトの耳にも薔薇のリエスの正体ばれちゃわないかな?
「サマルーシェ様、リエスでいいです。殿なんて付けていただくほどの人間じゃないので」
サマルーシェは、片目を少し開いた。
「そうですか?私の名前は言いにくいでしょう?サマルーでいいですよ。ところで、さっきからシャルト殿がこちらをにらんでいるように見えるのですが、気のせいでしょうか?」
サマルーが高い背を縮めて、私の耳元で声を潜める。
言われた方をみると、確かにシャルトが何やら例のピリピリオーラを発している。怖!しばらく近づかないでいよう。
「サマルーシェ様、なかなかいい男じゃない?」
と、レジージョが言い出した。
「えー、そうですか?レジージョ先輩の好みなんですか?」
まぁ、女が5人も集まれば、こういう話にならないわけもなく。当初、侍女達は私がいるということで緊張していたけれど「ただの庶民ですから」を繰り返し打ち解けた。
「っていうか、レジージョ先輩、結婚してるじゃないですかぁ!しかも、ご主人様と全然違いませんか?」
レジージョ&アジージョ35歳に対して、他二人の侍女は18と若かった。どうやら、それくらいのほうが私と話が合うのではという、マーゴ様の采配だったらしいです。
でも、きゃぴきゃぴが、私にはまぶしすぎて。
「いやいや、私じゃなくて、アジージョの好みだろう?」
「ええー、双子でも、好み違うんですかぁ?私、レジージョ先輩とアジージョ先輩って好みは同じたと思ってましたぁ!」
うん、私もそう思ってた。っていうか、アジージョ、マイフレンドだったよ。
ど、く、し、ん!
「サマルーシェ様、お幾つなんだろうねぇ?独身というのは聞いたんだけど」
うわ、情報早いな!
「姉さん、私は結婚する気とかないから、勝手なことしないでね!だいたい、サマルーシェ様だって、もっと若くてかわいい子がいいに決まってます!」
そ、そうだよね。35歳よりも若い子の方がいいよね。と、地味に凹んでみたり。
「リエスさんは?誰が好みですか?」
わっ、さくっと恋話こっち来た~!
「誰って?」
「私は、警護の××さんが好みだなぁ」
「えー、××さん?彼もいいけど、○○さんが素敵~」
誰、××って。誰、△△って。
なんで、君達、警護の人のことそんなに詳しいわけ?若いってすごいなぁ。
「で、リエスさんは、誰が好みなんですかぁ?」
誰と言われても、すいません、顔とか全然覚えてません。
「で、アジージョ、あんたは居ないのかい?良いと思う人?」
レジージョおねーさま、怖い。目が、お見合いおばさんのソレっていうよりも、母親のアレになってる。「あんたもいい歳なんだから、そろそろ良い人見つけて、結婚しないと」っていう、アレに。
次の休憩の時間に、少しだけ気になって警護の人を見てみた。
「どうぞ、おちゃですぅ」と、若い侍女の二人はどうやらお気に入りの人に優先的にお茶を持っていっているようだ。なるほど。
アジージョさんは、サマルーに持っていっていた。何?レジージョさんの言うとおり、やっぱり好みなのか?
そのレジージョさんは、旦那さんに持っていっていたよ!みんな行動力あるね!と、キョロキョロしていたら、シャルトと目が合う。もう怒ってないかな?とりあえず笑っとけと、微笑んだら、シャルトも微笑み返してくれた。
なんだろう、若い子は嫌いじゃないけど、疲れる。




