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【書籍化】無職独身アラフォー女子の異世界奮闘記  作者: 杜間とまと


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244/303

244 イリュージョン開始

「え?」

 今、何か、変な単語が聞こえましたが?

「えっと、イリュージョンの品は全部揃ってますから、大丈夫です。あと、今のところ順調に予定通り進行しているので、そちらも」

「ああ、分かった。こちらも問題ないよ」

「じゃぁ、また」

 聞き間違いだと思うけど、何と言ったか確かめる勇気はない。もし本当に、ユータさんが私のこと天使なんて言ったとしていたらと考えると身悶えるわ!

 どうしていいかわかんないって。

 女神だとか聖女だとか薔薇の人だとか、散々言われてても、身悶えないのって何も慣れたというよりも、言っている相手がこっちの人だから。

 英語に近い異世界語だし、西洋風の顔立ちの人達だから、なんていうか、リアルな感じが薄い。

 例えるなら「愛してる」よりも「アイラブユー」って言われたほうが軽い感じがする。さらに「ジュテーム」とか「ウォーアイニー」とか意味を知っているだけで、口説かれてる感じしなくない?まぁ、言われたことないんだけども。スワヒリ語なんて「何食ってんだ?」って聞こえるし、アラビア語の「ウヒッブキ」にいたっては……。

 だから、ユータさん日本人だし、日本語だし……だから、本当、照れる。すんごいリアルなんだもん。

 というわけで、しんみり涙も吹っ飛んだ。

 祭、今は祭のこと、考えなくちゃ。

 舞台から、サニーネさんの歌が聞こえ始めた。

 おお、銀の羽座の公演が始まったんだ!見たいな!

 天幕から出て、裏路地を通って広場へ出ようとしたら、数人の男達が走り去っていくのが見えた。

 祭会場ではなく、いったいどこへ向かっているのか?まさか、空き巣とか?

 広場へ出て、ウルさんを探す。

「ウルさん、今裏路地を走り去る男の人を見たのですが、まさか祭の喧騒を狙って犯罪とかじゃないですよね?」

「ああ、私も何人か見ました。動きを見ると、訓練された物のようでしたので、私服警邏ではないかと思います。裏路地をガイルたちが見回りをしてくれていますので、何かあれば連絡が入ると思います」

 そうだ。兵士だけじゃなく警邏もいるし、街の表も裏も知り尽くしたガイルさんたち元荒くれ者もいるんだから、心配しすぎだよね。

「そろそろ準備しますか?」

「そうですね。食事を取りながら最終打ち合わせをして、配置に付きましょう」

 屋台でいくつか食事を買い、白山亭へ向かう。

「はぁー美味しい」

 串に刺さった牛ににた動物の肉をかじりながらオーシェちゃんが満足そうな声を出す。

「チェックは終わりましたか?」

 尋ねると、まずオージェくんから返事が返ってくる。

「はい。舞台裏の民家の屋根、部屋の住人の有無など確認しましたが、大丈夫そうです」

「路地も、聖女の身を守るためという名目で封鎖可能です」

 というエボンさんの次にウルさん。

「ランさんの移動経路や身の隠し場所の確保も問題ありません。何か問題がある場合は、すぐに対応できます」

「予定の衣装も受け取ってきましたよ!」

 ランちゃんが、銀の羽座から受け取ってきた衣装を取り出す。

「じゃぁ、各自準備をしましょう」

 あらかじめ、ランちゃんの分の衣装だけは渡してある。メイクも教えた。聖女は、顔の下半分を隠しているため、メイクは目元だけ注意すればいい。

 他には無い白い衣装に、茶色の髪に、目元が似ていれば、誰も別人とは思わないだろう。一般的にはこの世界にウィッグはない。

「じゃぁ、オージェくん、オーシェちゃんも、着替えてメイクしましょう」

 もちろん、おそろいのウィッグもね。聖女衣装の上から、コートのようなもので服を隠していざ、出発。

 んでもって、私はイリュージョン用の箱の中でスタンバイ。あー、結構息苦しいな。じっとしているのも辛い。

 早く始まれー。

「陛下が到着されました」

 という報告が箱の外から聞こえてきた。

 おお、ついに、聖女のイリュージョンタイムが来たんだ。

「身に来てやったぞ。聖女と名乗る不届き者よ。奇跡とやらを起こすがよい」

 遠くで陛下の声が聞こえる。

 会場はざわりと変な空気に包まれているのが箱越しにも感じ取れる。

 陛下の言葉に逆らおうとする者はいないようだが、聖女を馬鹿にするような発言に怒りをあらわにしている者は多いようだ。

 不満、不平、怒り、負の気の塊みたいなものを感じる。

 あっ。

 その空気が一瞬にして変わった。

 ランちゃんの歌が、会場に響く。

 その歌声が、皆の荒んだ心を清らかにしているのが感じられる。

 やっぱり、生のランちゃんの歌声はすごいよ。”聖女の歌声”と言われても、違和感は全然ない。

 聖女の姿をしたランちゃんは、今舞台中央にいるだろう。

 舞台の左袖に、陛下の席が設けられているはずだ。そして、私が入っている箱は、舞台の右袖に置かれている。

 ランちゃんの歌が終盤に差し掛かったころ、私入りの箱を、エボンさんがそっと押して客席からも見える位置へセットする。

 そのまま、ランちゃんの下へとエボンさんは行き、歌が終わったのを合図に、黒い布をランちゃんにかぶせる。

 さぁ、イリュージョンの開幕です!

 あっという間に、布がへこみ、布の中にいたはずの聖女の姿が消える。

 あちこちから驚きの声が上がる。

 実は、舞台の床に穴が開いていて、そこから下に隠れただけなんだけど。

 そんなことを考えさせる間もなく、左袖の陛下の前に、聖女は姿を現した。これ、オージェくん。舞台に隣接する民家の屋根から飛び降りてきたのね。

 あっと、皆の視線はオージェ聖女に集まる。オージェ聖女は、そのまま私の入っている箱の前を通り過ぎて、舞台右袖へと姿を消した。

 次の瞬間には、舞台中央から声。いつの間にか再び姿を現したラン聖女が歌を歌っているのだ。

 歌が終わったら、また姿を消すラン聖女。そして、現れるオージェ聖女。今度もまた同じかと思った瞬間、オージェ聖女はくるくると舞台中央で回転し、衣装のみを残して姿を消した。

 あ、これも単純なトリックね。衣装は別に用意してあったから、脱ぎながらとかじゃなくて、高速回転することで目くらまししてる間に、舞台の穴からオージェ聖女が姿を隠しただけっていう。高速回転できる身体能力がなければ出来ないトリックですけどね。

 エボンさんが再び舞台に出て、聖女の衣装を拾い上げ、それを宙に投げる。

 すると、再び舞台に聖女の姿が。今度はオーシェ聖女が、民家の屋根から飛び降りてきたのだ。

 まるで瞬間移動でもするかのように姿を消したり現したりしている聖女に、会場の皆は、口をパカーンとしてみている。

「ふんっ。子供だましだな。瞬時に移動したと見せかけておるが、影武者でも使っているのであろう」

 エロキモ陛下の声に、会場がざわめく。

 半信半疑なのだろう。陛下の額には汗が浮かんでいる。だが、易々と奇跡など信じるわけにはいかないと、何とか嘲るような台詞を口にしたようだ。

 うん、でも、正解なの。


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