238 約束を守る男、その名は
ユータさんとの打ち合わせが終わったら、次はカーベルさんのところへ。
サニーネさん一座のことを相談。キュベリア王の婚約者の捜索に、何人かキュベリア側の人間が王都に入ることを言うかどうか悩んだ。
だけど、後で発覚して今後の外交に問題を残すといけないので正直に話すことにした。
「実は、キュベリア王の婚約者が行方不明になっていて、その捜索にキュベリア側が一座と一緒に何人か人を入れたいと……」
「その情報はいったい、どこから?」
カーベルさんの質問に、トゥロンの顔をちらっと見て答える。
「トゥロンも知っている、キュベリアの官吏と偶然会いました。チョビンという者です」
「もしかして馬車持ち一座は銀の羽座?」
チョビンの名を聞いて、トゥロンがからかうような声を出す。
「そうです」
「上手いこと仕事にかこつけて、おっかけてんなぁ」
「チョビンという人物は、信用できますか?」
カーベルさんが軽い口調のトゥロンに尋ねた。真面目な話をしているのに茶化すなと釘を刺したようだ。
「まぁ、悪いやつじゃない。仕事熱心で真面目なやつだ。使節団に選ばれるくらいだから官吏としてそこそこな立場にもあるはずだ」
トゥロンの返事を聞き、カーベルさんが一呼吸。
「聖女様、キュベリアの人間は、婚約者捜索以外何もしないと誓っていただけますでしょうか?王都に混乱をもたらすようなことはしない、王都に何があっても手出しをしないと……」
革命前に問題を起こさないこと。
革命時に陛下側にも革命軍側にも手出ししないこと。ただ傍観者であること。
たぶん、カーベルさんの言いたいのはそういうことだろう。
キュベリア側としても、下手なことして今後の外交に差し障っても駄目だろうから、表立って何かすることは無いと思うけど。
「約束してもらいます。もし約束できないと言うのなら、入国の話は断ります」
「そうだなぁ、チョビンという男は“約束”は守る男だから、心配するなカーベル」
ニヤッとトゥロンが笑う。
うん。確かに。自慢の髭を約束どおり剃っていた。約束は守る男だ。チョビンは。
そんなこんなで、通行許可証やらなんやら、カーベルさんの裏ルート?で用意してもらって、宿の手配やらなんやらもしてもらって、色々と準備が整ったら、サニーネさんとチョビンに連絡することになった。明日にでもまた行かなくちゃ。
うはー。本当やることいっぱいで、目が回りそう。
「どう判断してよいのか、測りかねております」
調査から戻ったウルさんが、神妙な顔つきを見せた。
夕食後、部屋に集まって各々の成果を報告する中でのことだ。
「オーシェと手分けして、海沿いを広く調査した結果、港町以外にも、簡易的ではありますが整備されている場所が何箇所もありました。船が停泊しやすそうな自然の港のような地形に足場が組まれていたり、割と近くまで船が寄れるであろう浜には小船が準備されたりと……」
「えーっと、それって、地元の漁師さんとかが利用する場所とかじゃなく?」
私の言葉に、オーシェちゃんが首を横に振った。
「漁師の格好を真似してたけど、明らかに漁師じゃない人間が何人もうろついてたんですよ。動きの特徴から、兵士だと思います」
わざわざ漁師のふりをしてたのは、戦争が近いというのを隠すためなのかな。
「オーシェの言うとおりです。私が調べた場所でも、兵士や斥候のような動きをする変装した人間を見ました。そして、すべての海岸沿いを調べたわけではありませんが、王都から離れた場所には、そのように整備した箇所は見つかりませんでした」
戦争に向かう兵士の多くは王都から出兵するだろう。
「ウルさんがどう判断していいのか分からないって、何について?もう、それら整備されている場所は、トルニープが買ったウォルフの船が来る場所であろうと予想はついているんだよね?」
「分からないのは数です」
「数?」
「船は決して安いものではありません、いくら増税し資金を調達したからといって、さほど大量の船を購入できるとは考えにくいのです。多くとも20と見ていました。しかし、整備された場所の数などから、その倍は船、いやもしかするとそれ以上の数も考えられなくはないのです……」
ウルさんの言葉に、エボンさんが目を見開いた。
「何と!1艘で200~300もの輸送能力があると聞く、ウォルフのガレオン船がそんなに?もし、それが事実だとすれば……。海上から1万の兵に攻め込まれ、陸上からも何万と兵が攻めてきたら……。トルニープがキュベリアと手を組みでもしたら、それこそ……」
エボンさんの言葉に、焦りが見える。
戦地に置いて、予想のはるか上の数の敵が姿を表したら大変なことだろう。正確な敵の数の把握は必須に違いない。
だけど、戦争は起こらないよ。
私は、トゥロンやカーベルさんが主導して行う革命が失敗するなんて思ってない。
すでに、貴族のほとんどと兵たちはカーベルさんについている。トゥロンの王としての資質だってしっかりあるんだもん。ただ、無血革命になればいいなぁっていう願いで、私は祭で奇跡を見せるだけで。奇跡が成功しようとしまいと、革命自体は成功するだろう。
つまり、戦争は起きない。
だから、私の考えることは……。
「戦争に使わなかったら、ガレオン船って、何に使えると思いますか?」
私の質問に、皆の目が点になった。
しばしの沈黙。
何か察したのか、ウルさんが口を開いた。
「やはり、貿易でしょうか」
「そうですよね。船で移動できれば、トルニープからピッチェまでだって、かなり日数が短縮できますよね?」
ピッチェのオリーブオイルや石鹸なんかもトルニープに入ってくるようになるかもしれない。トルニープには何か特産があっただろうか?
そうだ、まだ他のところには伝えてない苗によるさつまいも栽培を広めて特産にするとか?
せっかく、南に位置して暖かい気候なのだから、他の国にはない特産品が何か栽培できないだろうか?九州や沖縄って何があったっけ?
そういえば、沖縄にはお盆用の食べられないパイナップルが売っているくらいパイナップルとかバナナとか南国フルーツが豊富だったよねぇ。宮崎でもマンゴーが有名だ。
いや、だけどリンゴとかに比べてバナナみたいな傷みやすい果物運べないか。日本のバナナはほぼ海外からの輸入だよね。運べるんだよね?青いうちに収穫して、日本で熟成させるって聞いたことがある。あとで調べてみよう。もしかすると、その方法でいける果物もあるかもしれない!祭が終わったら、バナナが無いかも聞いてみよう。一番あるといいなぁって思うのはサトウキビだけどね。無いのかな。甘い草とか。
貿易が盛んになって、国同士の交流が増えてお互いに無くてはならない国になっていけば……戦争とか少なくなるかな?
平和な世界になってくれるといい。
「貿易に用いるとしても、トルニープが多くのガレオン船を手にしているという状況は好ましくありません」
ウルさんの言葉に、現実に戻る。
そりゃそうだよね。いつ戦争に転用されるか分からないのに、一国が大量の船持ってたら、気が気じゃないし。
「キュベリアやグランラやピッチェは船を買ってくれないかな?同じくらいずつ持ってれば、貿易もスムーズになるだろうし、いらない心配しなくていいよね?」
思いつきで口を開く。まぁ、私が国をあれこれ動かせる立場じゃないんだから、言うだけはタダだもん。
「それはいいですね。アウナルスにも売ってもらいましょう」
「トルニープは国を立て直すための資金が手に入ってちょうどいいですね!お姉様さすがです!すばらしいアイデアです!」
と、何故かノリノリだ。えーっと、一応、カーベルさんにも話をしてみようか、な?
でも、この話はとにかく祭の後。祭の準備だけで手一杯だよぅっ。
と、まさか、後々にガレオン船の話を後回しにしたことを後悔することになるとは、その時の私には思いもよらなかった。




