227 祭りとは楽しむもの
そういえば、吾妻さんは携帯の電波とか何処から得ているんだろう?日本と繋がった空間があるんだよね?
私の鞄みたいに便利な場所とつながってないから電波しか利用できないのか、鞄より小さくて手も入らないから利用できないのか……。
もし、竜咆の森の洞窟みたいに、海の上の空みたいな何も無い空間だったら、電波しか利用できないよね。でも、日本へ帰れる道である可能性は?いや、もしそうなら吾妻さんならすでに試してるんじゃない?でも、もしかして男性の吾妻さんでは通れないけど、女性の私なら通れるとかいう微妙な大きさの繋がりなら?
……。そんな都合のいい話ないか。でも、もしかするかもしれないし、吾妻さんに一応、期待せずに、尋ねてみよう。期待せずに、そこ大事。
宿に戻ると、じゃがいもの仕入れから戻ってきたオージェくんが居た。
「すいません。口が堅くて信用できそうな仕立て屋が見つからなかったので、明日また探してきます」
「ありがとう。しばらく、聖女の炊き出しに私たちノータッチになるから、祭りまでの間の炊き出しようの食料の備蓄もお願いしていいかな?」
んー、仕立て屋が見つからなかったのかぁ。いや、仕立て屋はいるけど、オージェくんの目から見て口が堅くて信用できる人物に値しなかったってことだよね。どうしようか。
さほど難しい形の服じゃないし、自分で作るか?いざとなれば、ミシンでだだだと縫えば……。って駄目だ!頭と手を突っ込んでもフットペダルは踏めない!足が入らない!
オーシェちゃんとか縫い物得意かな?……もし、得意なら探すまでもないですよとオージェくんが教えてくれるよねぇ……。どうしよう。
「馬車に積んであるじゃがいもはどうしますか?」
「ギレン子爵んところにルイスからだって分かるように届けてもらえるかな?オリーブオイルとスライサーは後ほどと伝えて」
オージェくんを見送ってから、カーベルさんの屋敷に向かう。ウルさんは新しい拠点を探してくれてる。今まで以上に宿を出入りし、不審に思われないようにということだ。
確かに、今までは炊き出しの時間はほぼ留守だったのに、急に宿を出入りするようになったら変だもんね。
「リーさん、兄さんはまだ会議中なの。カーベルさんも帰ってなくて……」
カーベルさんの屋敷ではランちゃんが出迎えてくれた。
「そっか……」
カーベルさんには祭りのこと色々聞きたかったんだけど、ランちゃんにも話はある。
「ランちゃん、聖女の影武者の話なんだけど」
祭りが終わるまでは聖女は表に出ないこと。影武者としてというか、イリュージョンの出演者として祭りに出てもらいたいことを話す。
「うん。わかった。今は歌を練習しておけばいいのね?」
いつも聖女の行進で使っているあの歌の練習と、他に何曲か披露してもらう歌を選んでもらうことにした。
「他に、私にできることはない?」
「うーん」
あるかもしれないけど、思いつかない。ちょっと今は頭の中がごちゃごちゃだ。
「楽器は?」
「演奏できるの?」
「歌いながら演奏は流石に無理だけど、舞台で演奏してくれる人の手配とか……。せっかくの祭りだから、皆が心躍るような音楽を聞かせられたらなぁって思うんだけど」
ガツンと、脳天を打たれた気がした。
せっかくの祭り……。そうだ。祭りで奇跡を見せて、陛下に戦争をやめさせるってのは私の都合。
2年ぶりで祭りがあると知った人たちは?楽しみにしてるよね?辛い生活の中、一日だけでも辛さを忘れて楽しもうとしてる人いっぱいいるよね?
そうだよ。祭りなんだから、楽しみたいなんて普通のことだ。なのに、私は全然そんな祭りを楽しみにしている人のこと考えてなかった。
「そうですな。ラン様、是非お願いします」
開いたままのドアの向こうから、声がかけられた。
「カーベルさん」
「立ち聞きするような形になって申し訳ありません。今、城から祭りの開催準備を命じられたところです。しかし、すでに祭りの開催のことはご存知のようで……」
カーベルさんが、私とランちゃんの顔を見る。ははは。公式ルートよりも早く情報入手してりゃぁびっくりするよね。
「女性の噂の伝達速度というのは改めて驚かされますね……」
侍女とかどっかの噂話から漏れたとか思ったかな?まぁいいや。
「ラン様、楽団がそろえられるようであれば、お願いしても?」
「ええ。もちろんです」
「2年前までは、祭りといえばたくさんの芸人達が集まって芸を披露してくださったものですが……。ここ2年の間に、国内の芸人達は姿を消してしまいました。祭りを盛り上げてくれる人をどのように確保するか、頭を悩ませているところです」
そうか。旅芸人の人たちって、大道芸の人たちと同じで、芸を披露してお金を貰うことで成り立つんだもんね。だから、国が荒れて人々が貧困になればなるほど、芸を披露しても実入りはない。となれば、もっと稼げる国へと移動するのも当たり前だ。
「キュベリアのように、国お抱えの馬車持ちの芸人でもいれば良かったのですが……」
「キュベリアから来てもらうなんて出来ないよねぇ……」
ランちゃんの言葉に、カーベルさん首を振る。
「流石に、祭りまでの準備期間が短すぎますからね。何ヶ月かあれば、キュベリアに使者を送り馬車持ち一座への出演交渉も出来たのでしょうが……」
馬車持ちの芸の一座の人たちか……。グランラの使節団として出合った人たちを思い出す。
道中縄跳びとか練習してたなぁ。サニーネさんとはチョビンをギャフンと言わせるために特訓したり……。
「そうだ!カーベルさん、兵士の皆さんで芸を披露しません?運動神経のいい人や、勇気があって思い切りのいい人なら少し練習すればできる芸があるんですよ」
楽しんでもらえることも考えよう。もし、陛下を思いとどませることができなくても、皆が楽しめる祭りになれば、それだけでも意味があったって思えるよね。
芸の披露もそうだけど、祭りといえば屋台だ。祭りでしか味わえない特別感が、なんかあるんだよねぇ。屋台の食べ物って。
「カーベルさん、祭りのことを教えて欲しいんですけど、舞台とか観客の配置、陛下のいる場所、聖女が奇跡を見せる場所やタイミングなど」
「はい。今までの祭りの資料でしたら、すぐに用意しましょう。今回も、ほぼ代わり無い配置で準備します」
「ありがとうございます。それから、あの、舞台以外、祭りって何があるんですか?屋台とか出ますか?」
「そうですね。王都で営業している飲食店が、舞台を中心とした四方に屋台を出します」
そっか、やっぱり屋台が出るのね!
目を輝かせた私とは逆に、カーベルさんの顔は曇った。
「ですが、今回は……屋台が出たとして……」
ランちゃんがカーベルさんの言葉の意図を汲んで説明してくれた。
「あまり裕福では無い子も、一生懸命貯めた小銭を握り締めて1つ2つ買うのを楽しみにするんだけど、今回はきっと、それすら出来ない子もたくさんいるでしょう……」
確かに……。子供だけじゃないよね。大人も、もう日々食べる物にも窮するくらいなのだ。祭りの屋台で何かを買って食べられる人なんてほんの一握りだよね。皆に楽しんでもらうこととは遠いな……。
ギレンがポテトチップスを試食として配るにとにはなったけど、あれは商売につなげるためと唆してあるから、貧乏人にまで配ったりはしないだろうなぁ……。
「カーベルさん、貴族って見栄の張り合いみたいなことにお金かけたりします?」




