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210 抹殺、幽閉、戴冠

 いや、それは革命後の心配だよね?

 革命前なら?王子が革命前に現れたら?

 王だけじゃなくて、王子も排除する?……最悪、王子の命も……。

「ですが、偽物を王子と担ぎ出して革命を白紙に戻そうとする者の心配は要りませんよ。亡くなったミュイロン王子には、分かりやすい特徴がありました。手の甲にある蝶のような字と、頬の三角に配置された黒子です。二つの特徴をあわせ持ち、年恰好の同じ者などいますまい」

 ああ、やっぱり。

 手の字と頬の黒子……。

 カーベルさんが言うように、この二つの特徴をあわせもって年恰好の同じ者が、他にいるはずないよね。っていうことは……。

 メィロンくんが、ミュイロン王子だってことは確定だ。

 確定したけど、どうしよう。

 カーベルさんの中では「亡くなったミュイロン王子」と言うように、ミュイロン王子はすでに死んでいるという認識なんだ。

「あの、王子が生きていたら、どうしますか?」

 カーベルさんが渋い顔をする。

「考えられることは、3つ。抹殺、」

 えっ?

 それは、もしメィロンくんがこっちの世界に帰ってきても殺されちゃうってこと?だめじゃん。帰ってきたらだめじゃんっ!

「幽閉」

 ゆ、幽閉……。命は助かっても、それってまったく自由もないし、幸せな人生じゃないよね?

 やっぱり帰ってきちゃだめじゃんっ!

「戴冠」

 ん?

 戴冠?

「戴冠って?」

「現王に退いてもらい、ミュイロン王子に後を継いでもらいます」

「え?でも、」

 カーベルさんの顔を見て、それからトゥロンの顔を見る。

「正当な後継者はミュイロンですからね。私は、王になりたいわけではない。国が変わるのであれば、誰が王となろうと構わないのですよ」

 ……。そうだね。トゥロンは王になりたいわけじゃないものね。それでも、今は王になろうとしている。

 まだ、王になりたいという欲があれば、少しは気持ちが楽だったろうに……。

「ミュイロン王子はまだ子供ですから、当然摂政が必要となります」

 トゥロンの言葉を補足するように、カーベルさんが言葉を口にした。

「摂政……」

 それって、幼い王の代わりに国を動かす人間のことだよね。

 そうか。王の席はミュイロン王子に譲り、国を動かすのはトゥロンやカーベルさんがってことだ。まぁ、大人になっても、ミュイロン王子は王として国政に関わらせてもらえない傀儡になる可能性はあるんだろうけど、でも、抹殺や幽閉に比べればマシだよね?

 ……。マシかな?

 自分は何のためにとか、悩んじゃったりしないかな?

 いや、でも、それも生まれ持った運命なわけだし、私がそこまで考えて人の人生を決める資格なんてないよね?

 だけど、できれば幸せな人生を送ってもらいたいなぁ……とはいえ、万事塞翁が馬だ。あっちがいいと思ったって、実はこっちが良かったみたいなことになる可能性だってある。

 トゥロンやカーベルさんに囲まれて育てば、立派な王になることだってある。傀儡ではなく、名君になる可能性があるわけだ。

 やっぱり、私がどうこう決めるべきことじゃない。

 ユータさんに現状を説明して相談するしかない。

 抹殺、幽閉、戴冠……。きっと、ミュイロンが現れる状況や年齢なんかで対応が変化するのだろう。

 成長して摂政をつけるのが難しいような年齢になるほど、抹殺や幽閉の可能性も高くなるんだろう。

「えーっと、何?ミュイロン王子が見つかったの?兄さん、ミュイロン王子を王の座につけて摂政になるの?それが革命ってこと?」

 ランちゃんが、話の断片をつなげて、なんとか理解しようとしてる。

 トゥロンはそれを聞いて、ランちゃんの頭をなでた。

「そうなれば一番いいんだけどな……。王親派も、ミュイロンが後を継ぐとなれば文句も言えないからな……」

 そうか。少しだけどエロキモ派というのがいるんだもんね。

 ……。そういえば……

「えーっと、王様の名前って何ていうの?」

 こういう緊迫した話でエロキモとか呼ぶのも調子が狂うよねぇ。

 私の質問に、トゥロンもランちゃんも、そしてカーベルさんまでぽかーんとする。

「え?私、変なこと言ってないよね?」

 ランちゃんが大声を出す。

「リーさん、今まで知らなかったの?お城に住んでたのに!びっくりだよーっ!」

 トゥロンが両手を広げて首を横に振った。

「おお、女神よ。何でもお見通しと思われるほどのあなたにも、知らないことがあったとは……」

 カーベルさんが両手を組んで上を見上げる。

「聖女様は、汚らわしいものに触れる必要はないという天の思し召しでしょう」

 ランちゃんの反応が一番普通だよね。

「えーっと、それで、名前は?」

 カーベルさんが、目を見開く。

「このまま、汚らわしき名に触れる必要はありませぬ」

 いや、ちょっと、似非聖女を神聖化しすぎでしょ、カーベルさんっ!

「女神よ、必要であれば、自然と知る機会がありましょう」

 えー、それって、教えてくれないってこと?

「リーさん、知りたい?王家の男子には名前には法則があるのよ。ミュイロン、トゥロン」

 ランちゃんが、2人に変わって教えてくれるようだ。

「ああ、ロンが付くの?」

 まさか、エロンとかじゃないだろうな。

「兄さんたちが教えないというのなら、私に言えるのはそこまで」

 えー、ランちゃんまで……。

 いいや。ウルさんとか、ガイルさんとか、他の人に聞けば流石に分かるでしょ。

 なんだか、すっかり場の雰囲気が和んだ。

 私も、肩の力がちょっと抜けたよ。

 メィロンくんのことで、かなり気が張ってた。こんなにがちがちじゃぁ、頭も働くはずないよね。反省。

「お茶を入れてきましょう」

 と、カーベルさんが立ち上がった。入れてきましょう?入れさせましょうじゃなく?

 私の疑問が顔に出たのか、カーベルさんが言葉を続けた。

「こう見えても、執事としてお茶を入れる腕も磨きましたからね」

 そう言って、部屋を出て行った。

 ランちゃんとトゥロンの座るソファの向かい側のソファに、改めて深く腰掛ける。


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