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201 LESSON1 My name iz Mike.

「前、頼んでいたこと、電話、お願いしたった」

 ちょっと変な異世界語で、録音されていた言葉。

 えーっと、頼んでいたこと?まだ、竜咆の森の洞窟の閉鎖はしてないよ。あと、何を頼まれていたかな?

 電話?そうだ。電話だ。

 異世界人と電話で話をしてくれと頼まれていたんだ。言葉を忘れないようにって。異世界語の先生にならなくちゃ。

 えーっと、言語の習得ってまず何を話せばいいんだろう?

 やっぱり、あれかな?あれだよね。「ハイ!マイネームイズリエス」っていうやつからだよね。次は「ナイストゥーミートゥー」。

 最近は「マイネームイズリエス」じゃなくて「アイムリエス」って言うとか言わないとか。

 頭の中で、いくつか会話をシミュレーションしてから、ユータさんにダイヤルする。

 3コールで電話が繋がる。

「電話ありがとう。前、お願いした、異世界の彼のこと、今から大丈夫えすか?」

「はい、大丈夫ですよ」

「じゃぁ、今から、ついたての向こうに、スピーカーフォンにして電話を置きまし。彼を、呼ぶので、少し待っちくり」

 くすっ。待っちくりだって。ユータさんかわいいな。

「Today, my friends came.(今日は、私の友達が来てくれました)She will tell you the words of your country.(彼女は君の故郷の言葉を教えてくれます)」

 しばらくして、足音とユータさんの声が聞こえてきた。英語で話をしている。

 電気も使わないような、昔ながらの生活をしている村と言っていたから、どこかの山奥の少数民族で独自の言葉を使っているのかな?とも思ったりしたけど、そうではないらしい。

 いたって普通の英語だ。そういえば、ネイチャーとか言っていた。無農薬野菜を選ぶ感じで、昔ながらの生活を選んでいる人たちの村ってことかな?

 姿が見えないから、話すタイミングが計れないけれど、もういいのかな?

「こんにちは、私の名前はリエスです」

 電話をする前に考えていたフレーズを口にする。

 しーん。

 あれ?タイミングミスった?と、思った頃小さな声が帰ってきた。

「アロ(こんにちは)」

 おや?この声は?

「はじめまして。あなたの名前は?」

 しーん。

 何だろう、この間は。極度の人見知りだろうか?返事を待っていると、しばらくしてユータさんの声が聞こえた。

「"ナルム"is the meaning of the name」

 異世界語の「ナルム」は「名前」っていう意味だよと、説明している。

 ええっ、それが分からなかったの?

 その後も、ユータさんの英語解説がないと、全くダメな感じだった。

 これって、もう忘れないために話をするというレベルじゃない。忘れたので覚え直すという世界だ。

 ユータさんとはどれくらいのペースで異世界語で話をしていたのかは知らないけど、そんなに忘れちゃうもんなんだね。

 ユータさんだって、五年の間にかなり忘れたみたいだし。

 あれ?私、このまま異世界にいて日本語忘れちゃわない?大丈夫かな?

 ちょっと不安になってきた。

 でも、吾妻さんとのメールのやり取りは日本語だ。吾妻さんは私よりも長いこと異世界にいるはずだけど、日本語をよく忘れずにいるなぁと思う。

 1時間ほどで、今日のレッスンは終了。

 彼が部屋を出て行った後、ユータさんに気になった事を聞いた。

「そちらの村では、皆さんどのような生活をしているのですか?英語圏の村なんですよね?」

 日本語を忘れそうで怖くて、日本語で尋ねる。

 ユータさんは特にそのことには触れず、質問に答えてくれた。

「ああ、前にも言ったけれど、生活は、そちらの世界とほとんど変わり無いよ。水道はなく井戸水を使っているし、電気もガスも無い。竃や暖炉はマキを使っているよ。当然、電化製品は一切ない。そうだなぁ、違いがあるといえば、馬かな。車もないから、村からの移動は皆馬を使っている」

「村から移動?どこへ行くんですか?」

 徒歩ではなく馬ということは、ある程度の距離を移動するということだよね?

「仕事だよ」

「仕事?」

 農地とかが遠いのかな?昔ながらの生活ということは自給自足なんだよね?

「まぁ、人それぞれ、銀行員だったり、医者だったり……」

「え?銀行員?医者?」

 驚いて大きな声を出す。

「ああ、そうなんだ。村から馬で20分も行けば、普通に現代社会が広がっている。この村に住む人達は、都会の生活に疲れ、文明と切り離した生活を望んで集まった人たちなんだ。けれど、小さな村では完全に自給自足もできないからね。昼間は現代社会で仕事をして、夜はこの村で過ごしているんだよ」

 ああ、日本でもある時突然、「田舎暮らし」をはじめる人とかいるもんなぁ。

 女優や俳優にも、いたよね。自給自足生活とかしだす人。でも実際は、洋服一つにしても綿を育ててつむいでってところまで自給自足している人はいない。せいぜい、日々食べる野菜や卵や肉魚を自給自足しているだけ。

 その野菜を作るための鍬だってどこかで買っているはずだ。

 小さな村一つじゃぁ、確かに、鍛冶屋も養蚕も何もかも村の中でまかなおうと思っても無理だろう。ってことは、買うためのお金が必要になってくるわけで。結局、現代社会とすっぱり縁を切った生活は無理なんだ。

 もちろん、どこかのジャングルの奥地とかで、完全に現代社会に縁がない生活を送れる場所もあるだろう。

 でも、それは本当に少数で、今ではアフリカのなんとか族も携帯電話片手にサバンナに出ているとか。「ライオンが出た~助けてくれ~」って携帯電話で連絡を取り合っているらしい。

「あの、それじゃぁ彼はどうするんですか?」

 今は村の中だけで、現代文明を目にしないようにしているけれど……。そのままじゃぁ、この先ずっと人の世話に成らない限り生きていけないということだ。

「うん、それなんだが……。あと1、2年が限界かと思っている。もし、その間に異世界に帰れないんだとしたら」

「だとしたら?」

「異世界に帰るのは諦めて、こちらの生活を覚えてもらおうと思っている」

 そう、だよね。

 オーパーツを覚えてしまったら、異世界に戻すのは危険だ。だけど、オーパーツ抜きにしては今後生活してはいけないだろう。よっぽど特殊な環境でないかぎり……。ずっと村に隠れるようにして住むわけにも行かないだろう。

 たった数年で、こちらの言葉をすっかり忘れてしまっているんだ。案外、異世界に戻ることを考えるよりも、地球に定住したほうが彼も幸せになれるかもしれない。

 ……。

 私は?

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