200 ウルの願い
「もちろん、追い込まれる前に、トルニープ本国をを攻め滅ぼせばことは済みます」
ああそうだ。確かに。
「だが、トルニープにキュベリアが加担するという噂が本当ならば……。もし、そのキュベリアとピッチェやグランラとの同盟が有効であったならば……」
ウルさんが悔しそうに口を噛む。
「流石に、アウナルスも苦戦するでしょう」
負けるとは言わないのか。
苦戦か。
すごい自信だな。それだけ、戦力があるということか。戦略に長けているのか。
「しかし戦争が長引けば、犠牲者も増える……」
ウルさんが苦しそうな表情を見せる。
ああそうか。戦争をしたくてするわけじゃないんだよね。だから、勝てばよしというわけではないんだ。
戦争をしたくてするわけじゃない。アウナルスとはそういう国だと吾妻さんも言っていた。それは本当のことなんだろう。
ウルさんの様子を見て、確信した。グアルマキート戦記のように「人々を救う」ただそれだけを目的として必要ならば戦う……。
だから、そのために戦火に苦しむ人が増えれば本末転倒なのだ。敵も味方も、被害は最小限にしたい、そういうことなのだろう。
「リエスさん、お願いがあります」
ん?ウルさんが、私にお願い?
「何?」
「今回の件、ボスに報告することを許していただきたいのです」
ウルさんの真剣な目。
「今回って、ギレンがウォルフから船を買っているかもしれないって話?」
私の言葉に、ウルさんが頷く。
「リエスさんの行動をボスに報告しないようにと命を受けていますが、今回の件は報告させていただけないかと……」
あっと、思わず息を飲む。
そうだ、私、ウルさんに始めに二つだけ命令したんだった。私を守りすぎないことと、私の行動をボスに報告しないこと。
ウルさんは忠実に守ってくれていたんだ。
「もちろん、いいですよ。私の行動じゃなくて、ギレンの行動でしょ?」
「ありがとうございます。何と感謝してよいのか……」
いや、だから、感謝してもらわなくてもいいのになぁ。
「今回のことも、ウルさんがいなかったら聞き出せなかったですよ。ウルさんの手柄ですよ」
「いいえ、とんでもない。リエスさんの作戦が無ければ。それ以前に、トルニープの貴族に接近できたのもリエス様のおかげです……。感謝してもしきれません。これほど重要な情報を早々に入手できたのは、アウナルスにとってどれだけ大きな助けになるか……」
あ、ウルさん自分で気がついていないのかな。今の言い方じゃぁ、ボスはアウナルス側の人間って言ってるようなもんだよ。オーシェちゃんと同じようなミスだ。いつも冷静なウルさんらしくないミスだ。
この情報が動揺するような重大なものということなんだろう。
「まぁ、とにかく、私が関わったことが分からないようにしてくれれば、ギレンがしてることとか自由に報告してください」
「ありがとうございます。では、狼煙を上げ、密書をしたためますゆえ、失礼いたします」
ウルさんが部屋を出て行くのを見送ってから、冷えたお茶を飲む。
「ああ、やっぱりお茶は温かい方がいいなぁ」
ドアに鍵をかけてから、鞄の中に頭を突っ込み冷えたお茶を電子レンジに入れてチン。
入れなおした方がおいしいんだろうけど、宿の下まで降りてお湯をもらってお茶を入れなおしてとか、めんどくさいのでこれでいい。
湯気のたつカップを両手で包み込むようにして持ち、お茶を飲む。
「ふぅー。おいしい」
ウルさんは焦っているようだけど、私は逆に焦らなくてよくなったと思ってる。
ウルさんの言うとおり、船を買い付けているのだとしたら……。今、港街で船着場の工事をしているわけだから、少なくとも船着場が出来てから船が来るんだよね?
もし、船で武器や傭兵が運ばれてくるとしても、やっぱり船着場が出来てからってことだよね?
そうじゃなかったとしても、船影が見えてから警戒すればいいわけで……。
船影が見えない間は、ひとまず大丈夫ってことだよね?
これで、トゥロンたち革命軍の唯一の懸念だった、増税分の金の流れが分かったわけだ。これで、少しは血が流れる量が減るんだよね?
革命軍の勝利は間違いないんだよね?
「はぁー。できれば、陛下に戦わずして降参してほしいんだけどなぁ……。無理かなぁ。やっぱり、王子暗殺事件の真犯人を見つけないと……」
空になったカップを片付けながら、今後のことを考える。
今日得た情報を、いつトゥロンに伝えるべきか。
すぐにでも伝えたほうがいいんだろうなぁ。
でも、そうするとどうなる?
船着場が完成するまえに革命を起こそうとするよね?
もう少し、王子暗殺事件を調べたい……。真犯人を見つけることが出来ないかもしれない。でも、まだやり切った感がないんだよね。これって、やっぱり我がままかな。
せめて、あと数日……。
「そうだ、明日ガイルさんにお願いしてみよう」
ガイルさんに、港で働いている人に船着場工事の進み具合を聞いてもらおう。何割くらい完成しているか、あと何日くらいかかるか。
それによって、考えよう。明日、すぐにでもトゥロンに伝えるか、それとも数日後にするか……。
カップを片付け終り、ベッドに腰掛ける。
「そういえば、吾妻さんへはどう伝えたらいいのかなぁ……とりあえず、ウルさんが報告するみたいだし……」
狼煙ってどれくらいの情報を伝えられるんだろう?密書も送るみたいだけど、吾妻さんに届くまでには時間が掛かるよね?
私から詳細をメールした方がいいのかな?
鞄から携帯を取り出す。
ウルさんが伝えたことと違いがあると混乱しちゃうかな?
「まぁいいや。スルーしとこ。聞きたいことがあれば、吾妻さんからメール来るよね?」
携帯を開くと、ユータさんから着信履歴があった。
時間は、わずか数分前。
留守番電話の録音を聞く。
「ボウリィ」
ぷっ。ユータさんってば、異世界語で話す時、なんで私のこと「少年」って呼ぶかな?ラトのことを面白がっているのか、私をからかっているのか。
……。そういえば、ラトは今頃何してるのかな。
あれから、何日経ったんだろうか。もう、いつもの生活に戻ってるかな?あの小屋に、ラトは足を運ぶことはあるのかな……。
ごめんね、ラト。ユータみたいに、私も姿を消しちゃって……。




