192 ルイスと聖女
「ルイス、ああ、熊屋亭を探っていると言っていた奴か?」
そ、そっか。熊屋亭に頻繁に出入りしていたから疑われてんだっけ。
「隠し通路がばれたのか?」
うん、ばれたよ。私、今日も隠し通路通ってきたもの。
「いえ、まだそれはないのですが……」
いやいや、ばれてるって。
「では、どうして、今、捕らえると?」
そうだよ。今まで放置してたのに、何で捕らえようとするわけ?っていうか、別に心配しなくても、誰にも隠し通路のこと言わないから大丈夫だよ!
「ギレンと」
え?ギレン?誰だっけ?
「ギレンとの繋がりがあると思われるからです」
いや、だから、ギレンって誰だっけ?
「それは、確かな情報なのか?」
「ルイスが、ギレンの守護され者の印を持っているのをこの目で見ました」
守護されし者の印!
ああ、そうだ。ギレンって、私に任せておけば大丈夫とか言って、守護されし者の印を押し付けてきた貴族だ!そうそう、そのギレンからもらった守護されし者の印を落としてカーベルさんに拾ってもらったっけ。
「何?宰相の守護されし者の印を?」
トゥロンの言葉に思わず疑問を口にする。
「そうです。宰相の座についたギレンの印を持っていました」
ギレンが、宰相?だから、あんな風に自慢げに「私の保護があれば、何の心配も要らない」とか言っていたのか。
「そうか。確か、使途不明の金はギレンが管理していると言っていたな」
「そうです。未だに、増税で得た金の使い道が分かりません、ただギレンが動かしているとだけしか……」
カーベルさんが前に言っていた。革命の唯一の不安材料が、金の流れが分からないことだと。増税で得たはずの金の使い道が分からないと。
アウナルスに対抗するために、傭兵を雇っているのか武器を揃えているのか分からない。革命時にその兵力が革命軍に向くことを危惧していると。
「異国の商人、ルイスか……。確かに、ギレンと繋がりがあるとなると、怪しいな」
え、え、えーーっ!
違うよ、全然ルイスは無罪だよー!何言ってんの、トゥロン!
「いざとなれば、どんな手段を使ってもルイスに吐かせるべきかと」
は?ちょっと、カーベルさん、どんな手段を使ってもって、どんな手段よ!
「手荒な事は避けたいが……」
トゥロン、手荒な事って、手荒な事って……!
背中に冷や汗が……。
「違います!」
やばいやばい。とっつかまって拷問とか、ありえないから!
ルイス、ムジツ。ワタシ、ギレントツナガッテナイアルヨ。
急に大きな声を上げた私に、カーベルさんとトゥロンの視線が向く。
「女神?」
言わなくちゃ。
「ルイスは無実です!ギレンと繋がって悪事など働いていません!」
だって、ルイスは私なんだから!
「女神よ、貴方は何でもご存知か。ルイスのことも知っていようとは……」
知ってるも何も、本人だって。言おうとして、ちょっと考える。
もし、私がルイスだと知ったら、今後ルイスとして行動することに、制限が出てこないだろうか?
貴族めぐりをする私のことを、トゥロンやカーベルさんはどう思うだろう?
あらかじめ、革命軍に加担している貴族にはルイスが来たら丁重に扱うようにとか余分なことを言いはしないだろうか?
敵対する勢力の貴族の元へ行くのを止められやしないだろうか?止められないまでも、心配させてしまうんじゃないだろうか?
……。もうしばらく黙っておこう。
「何故、聖女様は、ルイスのことをご存知なのですか?」
カーベルさんが、当然の疑問を口にする。
そうだよね。何で知っているのかって思うよね。えーっと、どう説明したものか……。
「炊き出しの、協力者なのです。食料を怪しまれないように買い付けたり、運び込んだりしてくださっています」
私の言葉に、カーベルさんが納得したと頷いた。
「なるほど。ルイス殿は、特別許可証を陛下に要求していましたが、そういうことでしたか……」
あら、さっきはルイスと呼び捨てだったのに、今度はルイス殿に変化したよ?
「国民の益を考えてくださったルイス殿を疑うとは……私は何ということを……」
カーベルさんが、眉を寄せ口を結んだ。
「それで、実は、ルイスとの打ち合わせに熊屋亭を使っているんです。それで、実は私も熊屋亭には毎日のように足を運んでいて……。トゥロンにつれてこられたときは本当にびっくりしたんですよ」
と、何気に話題を逸らしてみる。
「何と、女神よ……そうでしたか。こんなに近くに居たというのに、気がつかなかったトゥロンめをお許しを!」
トゥロンが驚いた顔をして私を見ている。
「いいえ、私だと分からないように化粧をしていたのだから、気が付かれていれば、失敗ですよ」
トゥロンが、私の手を取る。
「女神……貴方がどんな姿になっていても、何処に居ても、私は貴方とともにありたい……」
ちょっと、反則、反則!
トゥロンのその切なそうな目は反則だよ!
思わず顔が熱くなる。
「ルイス殿と聖女様が、熊屋亭で密会を……」
カーベルさんが呟きのような声を出す。
密会っていうか、まぁ、私一人で着替えてるだけだけどさ。最近は、常連なので誰かと一緒に出入りしなくても全然不審に思われないもんね。
「お二人は、もしや……男女の?」
カーベルさんの言葉に、私の手を握るトゥロンの手に力が入った。




