188 結婚します
「どうやら、貴方のことに関して、ボスは頭が働かないらしい」
え?ボス?
「アウナルスとの繋がりが露呈するような守護されし者の印など渡すなど、軽率にもほどがあります。今回、もし戦争となれば、それはボスの軽率な行動のせいでしょう」
「違う、私が、私が悪い!吾……ボスの責任なんかじゃないですっ」
ウルさんが、方眉を上げる。少し冷たい表情……。
「では、王家に生まれながら、自分の行動が何を引き起こすのか考えず逃げ出した王妹君の軽率な行動が一番の問題ですかな?」
「違う、違う……」
吾妻さんは、私の身を案じて守護されし者の印を渡してくれたんだもの。それをまさか、私がこんな形で使うなんて思ってもみなかったはずだ。
ランちゃんとメイヤさんは、トゥロンの足かせでいることが耐えられずに、トゥロンのために考えた末に逃げたんだ。
「リエスさん、ボスや王妹君のせいではないのと同じように、あなたのせいでも無いのですよ?自分を責める必要はありません」
「でも……」
「どんな結果になるか分かっていたわけではないでしょう?どんな行いでも、必ず良い結果がついてくるとは限りません。大切なのは、もし、悪い結果を招いてしまったら、それからどうするかです」
ウルさんが、いつの間にか柔らかな表情に戻っている。
「貴方は今、戦争を回避しようと3年前の事件を調べているのでしょう?」
本当は、戦争ではなく、革命を回避しようとしているんだけど……、そのことには触れずに小さく頷いた。
「目の前で困っている人を助ける。それで良いと思います」
ウルさんは言葉を続ける。
「助けた後のことを考え出したら、誰も助けられなくなりますよ?例えば、聖女の炊き出しもそうです。炊き出しで楽に食事を得ることを覚えた人々は、その後働かなくなるのではないかと考えただしたら、施せなくなりますよ?」
「私……」
「それにしても、流石としか言いようがありませんね。困っている人がいたら救いの手を差し伸べる。ボスの国の人は皆、そうなのですか?それに、どのような方法で王妹君を逃がしたのですか?忽然と姿を消したと噂で聞きましたが、あの警備の中でどうやって?手引きする人間がいなければ難しいでしょう?」
ウルさんは、私の行いを肯定してくれた。それでよかったのだと。
……。そうだね。何を引き起こすか、考えすぎても何も出来なくなる。ウルさんの言うとおりだ。人を救わない”いい訳”なんていらない。
まだ、消化しきれない想いが心の中で渦巻いてる。だけど、前を向く言葉をウルさんがくれた。
「セバスール伯爵の元に、王妹君たちを逃がしたのですね?ということは、栗色の髪の若い女性が王妹君ですか」
そうだと頷く。
「何かあるといけませんね。念のため、王妹君が入った旅の一座の護衛を増やしましょう」
「お願いします」
「それから、この件は他の皆には黙っておきます。ボスには、リエスさんのタイミングで伝えてください」
ウルさんの気遣いに、胸が熱くなる。
「たっだいまーっ!」
ドアが勢い良く開かれ、オーシェちゃんの明るい声が飛び込んできた。
「姉さん、ドアのノック忘れてる!」
「あっ。トントン、」
「口で言ってどうするんですか、申し訳ございません、ルイス様」
くすっ。
「大丈夫ですよ。開けられて困るときは鍵をかけてますから」
そう。まかり間違って、携帯メール打ってるときに突入されても困るからね。鍵は大事。
……内緒だけど、天井裏に誰か潜んでないか、コンコンして調べたこともあったくらいオーパーツ使用に関しては慎重に行動してるよ?
え?ウルさんたちが忍者だと疑っていたからだって?
……いや、そんなことはないでござるよ。ニンニン。
「お姉さま、聞いてください!嬉しいことがあったんですよ!」
興奮気味に話始めたオーシェちゃん。
「飲食店の皆さんから、炊き出しで配ってくれってお料理の差し入れがあったんです!福引券効果でお客が増えたお礼だって!」
おお、何と、恨みを買わないようにと考えた福引券が思わぬ効果を発揮したんだ。
街の人たちに、聖女炊き出しがこうして受け入れられていくのは嬉しいね。善意の輪も広がっていくといいな。
「港町で仕事を得たという人が何人かいるという話は覚えていますか?」
エボンさんがオーシェちゃんの次に報告を始めた。
「仕事に行っている者に、港町の様子を聞いたんですが、仕事は新しく船着場を作る仕事だそうで、公共工事の部類ですね。街が活気付いているというわけでは無いようです。まぁ、漁で糧を得られるので、王都ほど困窮しているようでもないみたいですが」
「そうですか。飢えて命を落とすような人がいないのであれば、港町では炊き出しは必要ありませんね。活気がないのは、今は仕方がありませんね」
漁か……。
「ところで、魚はどれくらいの量が取れるんですか?港町で消費する以上の量が取れるのであれば、買い付けできないでしょうか?」
流石に、穀物ばかりの炊き出しも味気ないもんね。栄養も十分取れない。
「港町へは、徒歩で2時間ほどかかりますから、買い付けたとしても徒歩での運搬は難しいと思います」
エボンさんの言葉に
「馬車は、港町と王都を往復させると目立ってしまいます。聖女とルイス様との関係が疑われる可能性もありますから、使用するのは危険かと」
と、ウルさんが続ける。
そうか。何か方法は無いかな?
「港へ働きに行っている人たちに、声を掛けてもらえませんか?仕事から帰るときに、魚を買い付けて運んでもらえるように。微々たるものですが、運搬料も支払うと」
「なるほど、流石はルイス様ですな!買い付けだけのために人を動かせば無駄も多い。仕事帰りのついでとあれば、往復の手間も省ける。分かりました。明日早速声を掛けてみましょう」
エボンさんが請合ってくれた。他に、こまごまとしたことを打ち合わせて反省会終了。
夜、日課のメールチェック。
「あ、妹から来てる」
え?本当に?
うわーっ、すごい。良かった。
『結婚します!』
短いメール。
『おめでとう!』
同じように短い返信。
『ありがとう!来年の春ごろ式を挙げる予定です。絶対出席してね!』
妹の結婚式。
『もちろん!』
と、即答で返信できたらいいのに。
気持ちは、もちろん出席するに決まってるでしょ!
気持ちはね。でも……。来年の春、私は日本にいるだろうか?
日本に帰れているだろうか?
いや、今はいい。妹の祝い事に水をさすようなメールはしない。
『もちろん!』とメールを返信しておいた。




