187 罪の告白
「お妃様が亡くなったら、次のお妃様は公爵家出身の緋の君って言われてたのね。だから、まず緋の君が怪しまれたんだ。だけど、白銀の君の兄が王子の護衛だったから、護衛の兄もグルだったんじゃないかて、白銀の君も怪しまれたんだよね。で、お妃様の死が、どの毒薬の症状とも違ってたから、亜麻の君が異国から持ち込んだんじゃないかって怪しまれたんだよ」
色々と教えてくれるリリアさんは有難いけれど、話の要領が掴みにくい。
「つまり、3人とも怪しまれたということですか?」
「うん。そうなの。だから、すぐに側室を取り調べたんだけど、なんか犯人はアウナルスだ~って話になってたんだよね」
え?取調べしたら、アウナルスのせいになった?
「何故、でしょうか?」
「さぁ?リリア知らなぁい」
ガクッ。
おっと、いけない。思わず言葉が分かっているかのように、反応しちゃうところだった。ポーカーフェイスポーカーフェイス。
ウルさんが、通訳する振りで私の耳元でごにょごにょ。そこで、初めて表情を変える。ああ、メンドクサイ。
ウルさんの耳元で「もう少し情報引き出せませんか?」と囁くと、ウルさんが小さく頷く。
「その後、側室のお三方はどうなったのでしょうか?」
ウルさんが、子爵に向けて問いを発する。リリアは大人しく口をつぐみ、子爵が答える。
「それぞれお役を解かれ、実家に戻りました」
ありゃぁ。じゃぁ、結局得した人間いないじゃん。
「処罰されなかったということは、疑いは完全に晴れたということですか?」
「そうですねぇ。上手いことアウナルスが犯人だと陛下を洗脳したものだと思いますよ。本来なら、一家取り潰しになってもおかしくないんですから」
「誰も、利を得ることはなかったとですか」
「っていうか、あれから陛下は側室取らなくちゃったたからぁ、リリアのお姉さまは怒ってたよぉ。側室になる気満々だったんだもん」
何と、あのお城に居た女性達は側室ではなかったんだ。
っていうことは、お妃様だけでなく側室をすべて追い出し後釜に入って得したという人物もいないのか。
「まぁ、3年前の事件で上手くやったのは宰相くらいじゃないですか?カーベル様が宰相の地位を追われなければ、宰相になることはなかったでしょうから」
そうか。誰も得してないのか。カーベルさんが任を解かれたのはアウナルスと一戦構えようと悪政をした陛下を諌めたのが原因でしょ。お妃様と王子の事件が直接カーベルさん解任に繋がったわけじゃないよね。ってことは、宰相が事件の真犯人ってことは考えにくいよねぇ。
それから、3人の貴族の元を回ったけれど、これといった情報を得ることはできなかった。
白山亭に戻ってからウルさんに意見を聞く。
「3年前の事件の犯人は、誰だと思いますか?」
ウルさんは、しばらく考えた後、口を開いた。
「ルイス様、新たに情報を得たのですが……」
「え?どんな情報?」
「それが、陛下の妹君が忽然と姿を消したそうです。それを、陛下はアウナルスの仕業だと宣言したとのことで……。もしかすると、トルニープとアウナルスを争わそうとする第三の勢力が、3年前と今回の犯人なのかもしれません」
「それはない」
即答する私に、ウルさんは怪訝な顔をした。
ああ、どうする、そろそろ白状しておくか。
ランちゃんたちが姿を消した犯人は私だと。
「えーっとね、ウルさんも知ってるよね?しばらく私、白薔薇宮っていう離宮に軟禁されてたの」
「ええ、ボスから伺っています。何かあったときにはすぐに救い出せるようにと待機しておりました」
ああそうだよね。ありがとう。その頃から、私はウルさんのお世話になっていたことになるんだ。
「そこで、ランちゃんとメイヤさん……、えーっと、陛下の妹とその母親と知り合ったんだ。彼女達は、長年塀の中に軟禁されていたの。そして、自由を求めて城から逃げ出す決心をしていた」
本当は、トゥロンを自由にするために逃げ出そうとしていたんだよね。
だけど、頭の回るウルさんのことだ。王に弟がいることは当然知っているだろう。妹と母が人質であったこと、二人が自由の身となったこと、その二つの事実から革命の気配を察知するかもしれない。
「だから、陛下の妹が姿を消したのは、第三の勢力とか関係なくて、彼女の意思なんだよ」
ウルさんが真剣な顔をしたまま言葉を続ける。
「ルイス様、もしかすると、第三の勢力が、彼女のその気持ちを利用して城から連れ出したという可能性も捨てきれません」
「それもない」
きっぱりと言う私。
だって、私、第三の勢力じゃないもん。
「何故、いいきれるんですか?どちらからか、有力な情報を?」
曇りの無い目で私の言葉を待つウルさん。私のことを信用してくれてるんだ。ほかの人から情報を引き出す時のように、策を巡らし、言葉を尽くすことはしない。
「ご……ごめん、なさい……」
騙すつもりはないんだけど、色々と黙っていることが申し訳なくなった。
突然謝った私に、ウルさんは困ったような顔をする。
「ルイス様、私は、貴方の言葉を疑ったわけではありません……。その、お気に障りましたら……」
「違うんです。ごめんなさい。あの、私なんです……」
もう黙っていられない。
「ランちゃんとメイヤさんの脱出の手引きをしたのは、私なんです!だから、第三の勢力とか関係ないんです!」
ポーカーフェースのウルさんが唖然としている。
「貴方が……」
ウルさんの呟きを聞きながら、言葉を続ける。
「助けたかったんです、辛そうだったから……。だから、だけど、それが……」
目じりに涙が溜まる。
「まさか、戦争の引き金になるかもしれないなんて……全然、考えていなかった……」
私のせいで、トルニープがアウナルスに攻めるきっかけを与えてしまうなんて……。
軽率な私の行動。
ウルさん、私のこと呆れたかな?
良く考えれば、いくら助けたいと言ったて、ランちゃんは王家の人間だもんね。同級生の恋愛を助けるのとは重みが違う。
それによって何が起きるかなんて……、考えが足りなかったとしか言いようがない。助けるにしても、もう少しまわりに相談して、他の方法があったんじゃないだろうか……。表向き、キュベリアのどこかに嫁ぐとかそういう形にするとか……。
「私……本当に、軽率でした……」
苦しい。自分の罪を告白するのは、胸が痛い。肺がぎゅっと縮むようで、息が苦しい。
だけど、泣かない。
泣けば許されると思うのか!これだから女は駄目なんだ!
何時か聞いた台詞を思い出す。アレは、社会人1年目の夏だっただろうか。
でも、涙がにじむ。声が震える。
「そうですね、軽率でしたね」
ウルさんが深い溜息をついた。




