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【書籍化】無職独身アラフォー女子の異世界奮闘記  作者: 杜間とまと


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18/303

18 雨に濡れた男

一部3人称がはいります

 誕生会は夜まで続いたが、マーサさんと私は、日が沈む前に宿に戻ることにした。

 マーサさんに、もう帰っても良いのかと尋ねたら「今度は15年も間は空けないからいいさ!きっと来年も会えるよ!」と笑顔が返ってきた。

 次の日、馬車に乗り込むと、座席に一輪の薔薇が置いてあった。その下に、木の板がある。(紙じゃないけど)手紙だった。

 マーサさんが、書かれた文字を読み上げる。

「何々、『昨日はとても楽しい時間をすごせました。薔薇を一つ無くしたとお聞きしましたので、その代わりに。またお会いしましょう』だって、リエス、心当たりあるかい?」

「シャルト様からだ、昨日、ドレスの飾りの薔薇を一つ無くしたと話をしたから」

「へぇ~そうかい。シャルトもシャレたことをするね!」

 贈られた薔薇の花を手に取り匂いを嗅ぐ。

 貴族はやることが違うなぁ。んふっ。でも、なんだか、花を贈られるなんて、人生でそんなにあることじゃないから嬉しいな。


 いつものおやつタイムの頃に、街に着いた。慣れない旅で疲れていたので、簡単な挨拶だけをしてそのまま小屋に帰ることにした。しかし、小屋までの山登りがしんどい!ふらふらになりながら、なんとかたどり着いた。

 すぐ寝よう!

 馬小屋の扉を開けると、ハイジのベッドでラトが寝ていた。

「何、人のベッドで勝手に寝てるかなぁ?」

 もしかして、時々ラトの匂いがしたのって、私がいないときにここで寝てたとか?

 叩き起こそうかとも思ったが、本当に疲れていたので、起きたら起きたで厄介だと思い、見ないことにする。

 小屋にゴザを敷いて、カバンからクッションを強引に引っ張り出し「おやすみなさい」






 嘗て、大陸には十といくつかの国があった。

 国の力に大差はなく、興っては滅び、飲み込み飲み込まれ、削り削られしていた。

 いつの世にも、国の種類は違えど、その数は十といくつかに変わりはなかった。

 一人の男の出現が、大陸の国の勢力図を大きく変えた。

 男は黒龍と呼ばれた。みるみる頭角を現すと、あっという間に国を興し、隣国を飲み込んでいった。

 この10年で、大陸の国の数は五と少しまで減った。

 黒龍の治める国は大陸の西側諸国を統一した。名をアウナルスと言う。


 ここに来て、大陸の東側諸国は、同盟の道を模索しはじめている。

 ある国は、アウナルスの勢力に対抗するため、東側諸国で手を結ぼうと。

 ある国は、アウナルスの庇護下に入り、あわよくば国土を広げようと。





 キュベリアの北東に位置するセバウマ領は、ピッチェと隣接していた。

 ピッチェはキュベリアが同盟を模索する国である。

 同盟への道筋として、国同士の繋がりを強くすることが求められている。

 セバウマ領は、地理的にピッチェと近いため領主であるセバスール伯爵に友好な国交関係を築くための外交を任されていた。

「父上、お話があります。ピッチェへの親善大使として、一人の人物を推薦したいと思います」

 もう一度彼女に……、そんな私欲を見透かされないように、セバスール伯爵の息子は父親に一つの提案をした。






 次の日の目覚めは最悪だった。堅いゴザの上で寝たので体のあちこちが痛い。それに、雨だ。雨の日は気圧の関係で、気分が重い。

 雨が降ったら、お店を休ませてもらうことになっているので、今日は一日何をしてすごそうか。

 壁にもたれて、雨の音を聞きながらぼんやりと考える。

 異世界に来て、言葉も覚えた。この世界にも慣れた。住む場所も確保できた。そろそろ、帰るための情報を集め始めた方がいい。だけど、どうやって?

 ユータさんは、どうやって帰る道を探したのだろう?何かヒントになることでもあれば。

 お店で貰ったパンで朝食を取る。

 あー、ジャム食べたい。メープル味は飽きたよぉ。

 プリン、チョコレート、生クリームたっぷりのケーキ……

 カバンに顔を突っ込み、ネットにつなぐ。せめて、おいしそうな画像を見て食べた気になろう。『プリン チョコレート』で検索。冷やしチョコレートプリンの作り方だって。あー、おいしそう。

 ネットで注文チョコプリンだって。

 注文したい!食べたいよぉ!なんか、すごぉく甘いもので癒されたい!!

 あれ?そうだ、実家から送られてきた荷物受け取れたよね?ってことは、通販できるんじゃない?

 ネットで注文、ネット銀行で支払い、顔を見せずに商品受け取り、全然問題ないよね?

 やったー!これで、米も買える!カップラーメンも食べたい!

 嬉しい思いつきに、うきうきしてネットショッピングを開始。しかし、支払いの段階になって、手が止まる。

「お金……」

 そう、家賃もそうだけど、こうして通販するにも「日本円」がいる。貯金額は減る一方だ。

 何とかして、お金を稼がなければならない。

 在宅の仕事でも出来ればいいのだろうが、生憎と在宅に使えそうなスキルは持ち合わせていない。

 在宅で稼げる「ハウス模型講座」なる通信講座を受けたことがあるんだけど、仕事なんて実際にはまったく無かった。それ以降「在宅で稼げる」は都市伝説として関わらないようにしていたんだけど……テープライター講座とかやっておけばよかったですかね?

 囲炉裏に火をおこし、ユータさんが残していった鉄鍋にサトウカエデの樹液を入れて煮詰める。なんだかんだとずっと樹液を集めていたので、結構な量のメープルシロップができそうだ。前のビンにして2,3個分?

 メープルシロップ、ネットオークションとかで、売れないかな?

 荷物が受け取れるってことは、荷物が送れるということじゃない?確か自宅まで取りに来てくれるサービスとかあったよね?

 とりあえず、メープルシロップの相場を調べてみる。

「1リットルで2000円とか、そりゃないわ!」

 1リットル作るのに、何日かかることやら!それで2000円って気が遠くなる。

 何か他に売れそうなものを考えよう。ルーカの店にあるかわいい雑貨とか、探せば何か見つかるよね。

 日本円獲得の問題が何とかなりそうになったので、気持ちが浮上した。

「よし!じゃぁうどんでも作りますか!」

 予定では昨日がうどんの日だった。でも、ラトは寝ていたし、私も疲れていたから食べていない。次にいつラトが来るかわからないが、「うどん、うどん」と言うのは簡単に予想がつくので用意しておく。

 アラフォーなめんなぁ!

 男は胃袋で捕まえろ!時代、料理教室に通いながら、観光地の「手打ちそば体験」「手打ちうどん体験」の看板を見つければ飛びついていた!素人ながらなかなかなもんですよ!とはいえ、実家で一度作ったきりだ。おかしいな。

 手打ちうどんを作るのは正直体力がいる。冷蔵庫で4,5日、冷凍すればいつまでも持つので、多めに作ることにする。

 ユータさんがうどんを作っていたというラトの言葉どおり、小屋にはこね蜂は麺棒など揃っていた。どれも手作りっぽい。ユータさんが自分で作ったのだろうか?だとすると、本当にマメだよね。

 街で買った小麦粉と塩水、コレだけでできるんだから。なんで普及してないんだろうね?

 生地をまとめ、清潔な布を何枚か重ねて巻く。

 壁に手を当てバランスを取りながら、踏み踏み。

 生地を踏み踏み。踏み踏み。

 バタンと、ドアが開いて雨水を滴り落とす男が入ってきた。

「少年~!昨日はせっかく来たのに、うどんを食べさせてくれなかったな!」

 この雨の中、まさか来るとは。そこまでうどんが食べたいか?本当に食い意地のはった男だ。

「ラト、馬小屋じゃなくて小屋で待っていてくれればよかったのに」

 踏み踏み。

「いや、なんか、あのベッド落ち着くんだ。悩み事があっても、眠ることができる」

 踏み踏み。

 踏み踏み。

 ラトが、何かを期待するように、チラチラと私の方を見る。なんだ?まだうどんはできないぞ。生地はこのあと何時間か寝かせないとだめなんだから。

「何か、言うことはないか?」

「ない」

「いや、ほらあるだろう?悩み事があるんだよ?」

 ラトでも悩むことがあるのか?って言って欲しいのか?自虐的な要求だな。

「ユータは、悩み事は何だ?と相談に乗ってくれたぞ!」

「いや、ぼくはユータじゃないし」

 いったい、私に何を期待しているんだ!

 何かを訴えるような目で見てくる。ああー、わかった、わかった。

「ぼくでよければ、相談に乗るよ」

 踏み踏み。

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― 新着の感想 ―
考えてみるとネット通販でなんか商売やるなら会社員としての収入じゃないから確定申告必要だよなぁ e-taxで行けるのかなぁ? 役所に相談事あったら終わるか なかなか厳しそう
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