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【書籍化】無職独身アラフォー女子の異世界奮闘記  作者: 杜間とまと


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19 ラトの悩み

「薔薇の貴女(ヒト)に会いたいんだ!」

 踏み踏み。

「薔薇のヒトって?」

 ラトは、濡れた外套の下から、大事そうに一つの薔薇を取り出した。

「この持ち主だ」

 げ、それって、私の着てたドレスについてた薔薇の飾りですよね?

 薔薇のヒトって、もしかして、「ウィッグ+コンタクト+別人メイク+ドレス+梨絵」ですか?

「何故、会いたいの?」

「分からない」

 会いたい理由が分からないとか、マジですか。

「ただ、もう一度、非礼を謝って、この落し物を渡したい」

 お詫びお詫び攻撃か!

「それだけなら、探してまで会う必要ないんじゃない?」

 ラトが、薔薇飾りを大事そうに外套の中にしまい直す。

「いや!どうしても会いたいんだ!そして、話がしたい!」

 今までにない真剣な表情をラトは見せた。

「どうすれば、会えるだろうか?」

 会えないと思う。もう、ドレス着るつもりないし。

 薔薇のヒトが別の人の話であれば、アドバイスは簡単なんだけどね。

 シャルトの誕生日会に出席した人を当たっていけばいいんだから。でも、それをされるとすぐにマーサさんと一緒にいた人物にたどり着く。そうなってはまた面倒。

 どうしたものか。

 止まっていた生地踏みを再開しながら考える。

 踏み踏み。

「偶然も3度重なれば運命という言葉があるよ」

 踏み踏み。よく踏めばこしが出る。かかとで踏むのがコツだ。

「それはどういう意味だ?」

「3回偶然が重なれば、運命なんだって。つまり、出会う必要のある運命の人であれば、探さなくても偶然会うことがあるということ」

 踏み踏み。

「なるほど!良いことを教えてもらった!探さなくてもあと2回は会えるということだな!」

 ちょっと違う。でもまぁ、探さないことにしたのならオッケーとしよう。

「ところで、さっきからそれは何をしているんだ?」

 と、私の足元を指差す。

「うどんを作っている」

「そうか、随分と手間がかかるものだな。手伝おうか?」

 湿ったブーツの中の足、くさそうだから遠慮する。

「いや、いい。」

「ユータに『働くもの食うべからず』と学んだんだ、遠慮するな」

 やめて!ビニールに入れてないんだから、雨の中蒸れ蒸れのブーツに突っ込んでた足で踏まないで!

「もう、できるから、いい」

「できるのか?」

 ラトの目がキラーン。

「うん。できたよ、生地が。これから生地を寝かせるから、夕飯には食べられる」

「まだ、食べられないのか?!」

 がっくり肩を落とすラト。

「夕方、夕方か。今日は仕事がある故、もう帰らねばならぬ」

 仕事してたのか、こいつ。

「そうだ!生地を譲ってくれ!後は切ってゆでればいいんだろう?」

「いいですよ」

 3人前程切り分け、持ち運べるように朴葉にくるんで手渡す。

「これだけか?」

 残りの生地を物欲しそうに見ている。どんだけ食い意地はってるんだ(何度目だ、この台詞)

「少なく見えますが、延ばして切れば3人前はありますよ?」

 ラトは、手元の生地と、残りの生地を何度か見比べて「また来るからいいか」と自分を納得させ、懐に生地をしまった。

 それからズボンからコインを取り出し、私の手に握らせた。

「これは、この生地の代金だ」

「別に、いらないよ」

 正直、代金もらえるとは思ってないし。今までだって、ただでうどん食べてたよね?呪いのコインは一つもらったけどさ。

「ユータに学んだんだ。『タダほど怖いものはない』と。タダで物をくれようとする人は、よからぬことを考えているから気をつけろと言われている」

 ちょっとぉ、それ、私が悪者になってるじゃん。

「それから、タダで物を持っていくのは強奪だとも教わった。地位や力で人から何かを奪ってはならないと」

 そんな当たり前のことを、ユータは教えたの?

 それとも、こんな当たり前のことが、貴族にとっては当たり前じゃないんだろうか?

 タダほど怖い物はないって、いつも人のことを疑って生活してるんだろうか?

「えーっと、ユータは人の厚意とかについても、教えてくれた?」

「もちろん、人の厚意に甘えるな!と教わった」

 少しだけ、ラトのことが不憫に思えた。

「時々は、人の厚意に甘えてもいいんだよ?世の中悪い人ばかりじゃないんだから。ラトのことが好きで、見返りとか関係なく何かしてあげたいと思う人もいるんだから」

 嬉しそうな、悲しそうな、複雑な表情をすると、小さな声でつぶやいた。

「ユータが、そうだった。何の見返りも求めずに色々としてくれた……」

 えーっと、話題変えていいかな?

「ところで、何で急に代金とか言い出したの?」

「ん?急じゃないだろう?譲ってもらうのは初めてだろ?」

 え?ここで食べてたうどんは別枠?えーっと、人の家におじゃましたときに出されるお茶やお菓子みたいなもの?なるほどね。

「足りなかったら言ってくれ!じゃ!」

 ラトは、帰っていった。

 で、結局、何しに来たんだ?うどん目的?

 手に握らされたコインをズボンのぽっけに入れて、残ったうどんの生地はカバンの中に入れる。

 カバンに顔を突っ込んで、ラップをかけて寝かせておく。延ばして切るまでには時間があるので、その間に小屋の中の細かいところの掃除をする。

 土間と囲炉裏回りと窓回りの掃除は終わっているが、手付かずの場所も多い。

 まずは、部屋の一番奥から手をつけるか。部屋の奥は床の間と押入れになっている。

 押入れの中は整頓されて物が置かれている。5年も放置されていたので、本当は中のものを全部出して、いるものいらないもの、使えるもの使えないものに分けたほうがいいんだよね。

 でも、私は断舎利できない女ですから。

 収納スペースに困るまで全部そのままでいいや。

 押入れの引き戸は、襖ではなく木の板。すべりが悪かったので、敷居のレール溝?に蝋を塗っておく。

 床の間の壁には長方形の薄い板に布をはったものが吊り下げられている。布には、「仁義礼智信」と漢字で書がたしなめられている。ユータさんお手製の掛け軸だよね?

 『仁義礼智信』という言葉は、いかにもユータさんらしいと思った。

 仁、人を思いやる

 儀、道理にそむかない

 礼、作法を重んじる

 智、判断する知を持つ

 信、欺かない、裏切らない

 ラトから聞いているユータとはそんな人物だった。

 アラフォーなめんなぁ!

 生涯学習1日講座『人生に生かす儒教の教え』を受講したから、知ってますよ。まぁ、ちょっと間違って覚えているかもしれないけどね!

 カバンから、はたきを取り出し、鴨居や壁のホコリを払う。

 ガゴッ。

「おっと!」

 はたきを引っ掛けて、掛け軸風の板を落としてしまった。

 薄い木だけど、割れてないよね?

「ああ、あー!」

 掛け軸を拾い上げると、反対の手に持つはたきを落とし、思わず声を上げる。

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