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【書籍化】無職独身アラフォー女子の異世界奮闘記  作者: 杜間とまと


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169/303

169 戦争の足音

 おお、久司が王様に?

 日本人が異世界で王様か。サクセスストーリーだね。

 だけど、どうあがいてもこれで日本へ帰る道は閉ざされちゃうね。

 もう少し読んでから寝よう。

 ついつい先が気になって、今日読む予定ページ数をオーバーする。

 久司は、頑なに王になるのを拒否し「王のいない王国」のまま、グアルマキート王国は続くことになるのか……。

 しかし、それを上手に利用して戦略に生かすあたり、策士だねぇ。

 ある時はダミンが。またある時は副将軍が。またある時は、美貌の女性が……。と、玉座に座る人間がコロコロと替わるとか。そりゃ、敵国は混乱するよね。

 暗殺もできない、手中に収めるべく裏から手を回すこともできない。

 三分の一ほど読んだところで手を止める。だめだ、うっかり朝まで読んじゃいそうだ。

 本をカバンにしまい、おやすみなさい。


 では、後は頼みます。

 オーシェちゃんの耳元で囁き、炊き出しの場を離れる。

 今日から、炊き出しは皆に任せて、午後は貴族めぐりをするのだ。

 聖女姿を解除するため、人気のない裏路地を一人、進む。後ろを振り返り、誰も後を追ってこないのを確認すると、路地を右手に曲がる。

 その瞬間、後ろ手を掴まれ、口がベールの上からふさがれる。

「早く、王都から出て行け」

 何で?

 まだ、聖女の存在を疎ましく思う人がいるの?

 油断した。油断した。どうしよう。

 今日は後ろから誰も来ないよ。

「何をしている!」

 路地向こうから、男の人の叫び声があった。

 私を捕まえていた男は、手を離すと逃げ出して行った。

 助かった……。

 ホッとして足元がふらつき、壁に背中をもたれさせ、頭を垂れる。

 先ほど声を上げた男が、駆け寄ってきた。男の足元が見える。よく履きこまれたブーツだ。庶民がブーツを履くことはあまり無い。貴族や兵など、帯剣するものが主に履くものだ。

「大丈夫ですか?ラン様」

 え?

 ラン?

 ガクガクと、手先が震える。先ほど襲われた恐怖からではない。

 今確かに、ブーツの主は、この私に対してラン様と呼びかけた。

 チャルメラ代わりに使ったランちゃんの歌声を聞いて、その声がランちゃんだと知っている人がいたんだ。

 ランちゃんは王城から出ることはなかった。それだけではない、ランちゃんは家や白薔薇宮以外で歌声を披露することなどなかったのに。それなのに、何故この王都でランちゃんの歌声を知る者がいるの?

 このブーツの主は、城の兵だろうか。捕まえて城に連れ戻そうとランちゃんの行方を捜していたのだろうか。

 まずい。

「ご無事でよかった。ですが、すぐに王都から離れてお逃げください、ラン様」

 え?逃げろ?

 驚いて顔を上げる。

 ブーツの主は、白薔薇宮の護衛の一人、食欲旺盛な高校生兵だった。

「陛下は、ラン様やメイヤ様を見つけたら、人目につかないように幽閉するつもりです……考えたくありませんが、存在そのものを消される可能性もあります」

 まさか!何故、そんなことに……?

 トゥロンに対する人質とされていた時は、それほどひどい待遇じゃなかったよね。塀の中ではそれなりに自由もあったし、住むところと食べるところは確保されていた。

 それなのに、幽閉?また逃げないようにというのなら分からないでもない。

 だけど、存在を消されるって……妹の命を手にかけるってこと?そんな馬鹿な。

 信じられないと、小さく首を横に振る私に、高校生兵が言葉を続けた。

「陛下は、ラン様とメイヤ様が姿を消されたのを、アウナルスの仕業だと公言したのです」

 何ですってぇ~。ランちゃんとメイヤさんがアウナルスにさらわれたことになってるの?何だそりゃ。

「それを理由に、アウナルスに戦争を仕掛けるつもりです。キュベリアの王とも話がついているという噂です」

 戦争?

 嘘……。

「ですから、今、ラン様が無事に戻っては都合が悪いのです」

 いや違うんじゃない?無事な姿を見せて、アウナルスのせいじゃないよ、戦争やめようって言わなくちゃいけないんじゃない?

「兵には、ラン様とメイヤ様を見つけたら、秘密裏に連れてくるよう命が下っています。私達、白薔薇宮の護衛だった兵の間では、連れてきたら最後、アウナルスの刺客に殺されたとして、兵ごと処分されるんじゃないかと怯えています」

 ……。

 ありうる。

 でも……。

 だけど……。

 待って!

 頭の中が混乱してる。

 私がランちゃんたちを逃がしたせいで、戦争になるの?

 駄目、そんなの、絶対駄目!

 どうすればいい?

 どうすれば、戦争を止められる?

 考えろ、考えろ。

 久司がそうしたように、何か策があるはずだ。

 血を流させずに解決する方法が。

 キュベリアの王と話がついているって噂が本当なら……、そこを崩せばいい?

 ランちゃんたちが無事だと、キュベリアに知らせる。アウナルスの仕業じゃないから、戦争を止めるようにと頼む。

 トルニープ単独でアウナルスに挑むほど、陛下も馬鹿じゃないよね。

 だけど、キュベリアの王と話がついたという話が、そもそも陛下の嘘かもしれない。だって、戦争を回避しようと、必死に同盟の道を探していたキュベリアが、戦争に加担するなんてありえないよね?

 ということは、トルニープ単独でもアウナルスに挑むつもり?そんな無謀なことを、何故?

 ああ、だめだ。

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