151 袖の下
瞳の色に合わせた品を送るっていうのは、日本人にはない風習だよね。
だって、ほとんど黒目なんだもん。個性がないというかなんというか。
それにさ、黒曜石や黒水晶送られても、あんまり嬉しくないし。やっぱり宝石はキラキラなのがいい。
ううん、贅沢言いません。ええ、アラフォー女子、婚約指輪に夢見るお年頃はすぎました。
「リエスお姉さまはもらったことあるの?」
ビクッとする。
もらえなかった指輪のことを考えていたのを、見透かされたような質問。
指輪を買いに行ったラトは、黒い宝石の指輪を買ったのかなって……考えてた。
……。
「ルイス様に、気安く話しかけてはなりませんよ」
ウルさんが、おしゃべりが始まりそうなオーシェちゃんをなだめる。
そうだった。誰の目があるかわからない。私が通訳意外とおしゃべりしているのを見られるのはまずい。
しかも、リエスの名は禁物だ。
城に近づくころには、お屋敷に立つ門番の姿くらいしか目にすることはなくなった。
城の正面の門に到着。門番がすかさず近づいてくる。
『はー、やっと着いたよ、エロキモ陛下いるかなぁ?(日本語)』
「我らは、大陸の東の海から参った者。陛下にお目通りを願いたい」
ウルさんの言葉は、あらかじめ打ち合わせしていた台詞。
私の日本語を通訳しているようにタイミングを合わせて話してくれる。
「謁見の申し込みなら、あちらで名前を記入するんだな。運がよければ、1年後には叶うだろうよ」
『い、一年だぁ?しかも、運が良ければ?(日本語)』
「もう少し早くはなりませんか?」
ウルさんが、門番に袖の下をこっそり。
「そうは言っても、名前の書かれた順にまずは訴状を事務官が確認する。その内容によって、謁見が許されるか判断される。しかも陛下は気が向いたときに気が向いた人数としかお会いにならない。だから、1年後でも謁見できれば運がいい。こればかりはどうしようもないのだ」
『ったく、ちゃんと働けよ!気が向いたときにって何だそれは!どういうときに気が向くんだ』
ウルさんが、さらに門番に袖の下をプラスする。
「何とかなりませぬか?遠くから陛下にとっても良い話を持ってきました。損はさせません」
「名前を前に書くことくらいはできるが、それでも会えるかどうかは分からないよ?」
おっと、早速不正交渉が成立しました。こうして何人も名前を前に前に横入りされちゃったら、まじめに待っていたって会えるわけないよね。
『裏口入学みたいな、もっと簡単な不正ないのかなぁ……』
駄目押しに、ウルさんがもう一度袖の下を渡す。
「そうだなぁ、陛下と懇意にしている貴族の口ぞえでもあれば会えるのだろうが……」
なぬ?それはいわゆる、コネ入社みたいな?コネ謁見ってやつか?
そうか。正規ルートじゃ就職できなくても、役に立たない人間だってコネさえあれば楽勝だったりするもんな!
ああ、また悲しい想い出が一つ……凹。
『コネ作りからか。日数かかりそうだけど仕方ないか……』
ウルさんが、再び門番に袖の下を渡そうと懐に手を入れる。
本当、ウルさんは上手いよね。打ち合わせの段階では、何とか陛下に会えるようにとだけしか言ってないんだよ。方法は任せたんだけど、袖の下を繰り返すと情報が次々出てくるなんて思いもしなかったよ。
私だったら、名前の横入りをしてもらえるという時点で袖の下終了だったと思う。
「道を開けなさい!」
今まで袖の下を受け取ってホクホクだった門番が、急に表情を引き締める。そして、隅へ寄るようにと指示を出す。
何?
振り返ると、馬に乗った人物が1人やってきた。
「宰相、お疲れさまです!」
びしっと、敬礼する袖の下門番と、もう1人の門番。
「お疲れさま、わたしは、元宰相だよ」
馬上の人物が口を開く。
宰相って、かなり偉い人だよね。王の補佐みたいな人だ。会ったことあったっけ?
声には聞き覚えがあるんだけど。
「し、失礼いたしました、カーベル様」
「様も必要ない。今はただの執事だ。陛下に聞かれたら、君の身が危ない」
執事?
馬上の男の顔を見れば、確かに見覚えがある。
白薔薇宮庭園まで、陛下の食事を取りに来ていた、あの執事服の男だ!
でも、元宰相が執事とはどういうことだろうか?
ううん、なんでもいい。
このカーベルと呼ばれた男、確実に陛下と接触できる立場にある。
急いで、鞄から森で仕込んだものを取り出し、馬から下りる。
そして、慌ててウルさんに耳打ちする。
馬の上からでは内緒話ができないから。門番が門を開ける。カーベルさんが行っちゃう。間に合え!
「カーベル様」
済んでのところで、ウルさんがカーベルを呼び止める。
「わたしに何の用しょうか?異国の者と見受けられますが?」
馬を止めて、カーベルさんが答えてくれた。
「勝手に口を開くな、失礼だぞ」
門番が、ウルさんを制止する。
今は執事とはいえ、門番にとっては宰相であったときの記憶が大きいのだろう。宰相に対して庶民が話をするというのであれば、そりゃ恐れ多いといえば、恐れ多い。
「構わないよ」
というカーベルさんの言葉に、門番が抵抗する。
「この者たちは、陛下への謁見を望んでいます。カーベル様に口ぞえを頼むつもりです。無視して構いません」
まぁ、言うことは最もだ。
人気絶頂アイドルの、元マネージャーに、アイドルに会いたいと頼み込むようなものだ。
「すまないね。わたしでは力になれませんよ。陛下のお怒りを買い、宰相を下ろされたばかりではなく、執事をさせられている身ですから……」
何?エロキモ陛下もやることいやらしいな。
むかついたから宰相をやめさせただけではなく、下っ端にしてこき使ってあざ笑っているというのか?
ん?カーベルさんって宰相になったくらいだから、それなりの貴族とかじゃないのかな?執事って断ろうと思えば断れたりするんじゃないの?断ることもできないくらい、独裁政権が強いの?




