129 「グアルマキート戦記」を読んで2
小説内小説「グアルマキート戦記」が長いです。◆印がつけてある部分がリエスの気持ちです。本編にグアルマキート戦記は関係あるのですが、そこまで深い関係はないので読み飛ばしてもらっても大丈夫かなぁと思います。いつもより多少文章量を増やしてあります。
『
刹那、久司は諦めた。例え日本へ帰る道が開けようと、二度と故郷の土を踏むことはない。日本への帰ることを諦めた。
戦に加わる、それも参謀といえば率先して加わることになる。故郷での呼び名は「戦犯」というものではないのか。異世界だったからとか、自己防衛のためだとか、いろいろ言い訳も立つだろう。いや、そもそも言わなければ誰にも分かりはしない。しかし、久司は罪を隠してまで平気な顔をして日本で暮らすだけの強さは持っていなかった。
戦に加わるということが、久司を異世界への定住の決意となったのだ。
』
◆
異世界への定住。
私は、私はどうしたらいい。
定住を決意するってことは、鞄を処分することだよね。
いいや、こうして人里離れて暮らすのであれば、鞄を持ったまま定住もできるかな。
『
サルサリ王国と北東に隣接するのは、マラード皇国だ。国の規模はサルサリ王国の半分にも満たない。しかし、野心あるマラード皇帝が領地を広げようと軍備を進め、機を狙っていた。
インフィル将軍は、卓上に地図を広げると副将軍を始めとする幹部を集めた。
「参謀としてヒサシが加わることとなった」
戦の経験もない、剣を握ったこともないヒサシを幹部たちはあっさりと受け入れた。
この1年、いや、ヒサシが言葉を覚えてからの半年というもの、インフィルの補佐として領地を回ったヒサシである。インフィルが心許した人物として顔はしっかり知れ渡っている。それだけではない。ヒサシによって低い土地から高いとちへ水を流すことが可能となった。それにより耕地は格段に広がった。また、堆肥と呼ばれる物を使うと痩せた土地が豊かになるというのもヒサシが教えてくれたことだ。それだけではない。ヒサシは驚くほど博識なのだ。そのヒサシが参謀として加わることは、プラスにこそなれ、マイナスになどなろうはずがないと幹部たちは判断したのだ。
』
◆
ああ、久司も日本の知識を広めてたんだね。しかも、すごく役立つことだよね?
水を低いところから高いところになんて、私は思いつきもしないよ。堆肥だって、肥溜めくらいしか想像できないんだけど。
私が伝えたことなんて、ダイエットやラジオ体操やメイクや油のリサイクル。それから紙って、どれも生きていく上での優先順位としては低いものばかりだよね。
アラフォーなめんなとか、今思えばはずかしい。
久司はまだアラハタなのに。アラハタってアラウンドハタチ。
って、私ってばまた小説なのに、久司と比べてる。
『
「先ずは尋ねたい。何故、戦争になるという判断をしたのか、宣戦布告されたのですか?」
久司の口調は知らずと早口となる。参謀役として認められたとはいえ、経験のない若造が、年上の経験者を前に話をするのだ。緊張するなというほうが無理である。
「サルサリ国に向けて、行軍が開始されたと情報を得ました」
「到着までは?」
「早くて5日」
「では、4日で準備をしましょう」
久司の言葉に、副将軍が問う。
「早くて5日ですぞ?焦りすぎでは?」
久司は頭の片隅では作戦を考えながら、副将軍に答えた。
「マラード皇国側も、早くて5日かかるとこちらが思っていると考えているでしょうね。その裏をかく可能性は?」
副将軍はハッとした表情を見せる。
「全くないとは言えません」
「5日より早く到着する方法はありませんか?」
口髭を携えた、熊のような容貌の第一師団隊長が答える。
「暗い時間に行軍を進めれば可能だなぁ。到着したときに体力が落ちて戦力に影響がでるが、短期決戦で決着をつければ問題なねぇな」
第一師団隊長の言葉に、副将軍が首を横に小さく振った。
「短期決戦に持ち込む気はあると思います」
表情は浮かない。
「では、準備にあてられる時間は4日。早急に準備を始めましょう。」
久司の言葉は、すでに落ち着いていた。4日しかないのだ。緊張などしている場合ではない。できうる手立てを後悔しないように打たなければ。
「まずは、今から領民に荷物をまとめさせてください。必要なものは、家にあるすべての衣類、干し草や綿、毛皮など。それらをシーツなどの布で包んでいつでも家を出られるように準備をしてもらってください」
久司の言葉に、第一師団隊長クーガルが顔を赤くする。
「何だと?結局逃げるのか?確かに勝ち目のない戦かもしれないが、お前が何かいい案を出してくれるかと期待したのに!それに、知らないようだが教えてやる、逃げ場なんてないんだぞ?負ければ捕まり奴隷だ。領地から逃げれば犯罪者として牢屋生きだ」
クーガルにも家族がいる。愛しい妻と娘たち。そして年老いた両親。戦に負ければ、愛しい者たちには悲劇しか待っていない。
そして、現時点で戦に勝てる見込みはほぼなかった。だが、久司が参謀になるということで、一筋の希望の光を見たのだ。もしかしたら、悲劇から逃れられるかもしれないと。その、久司からしっぽを巻いて逃げるようなことを言われてクーガルの失望はどれほど大きなものだったか。今にも、久司の首根っこをつかみそうなほど怒っている。
「戦に必要な物を準備してもらうのですよ。そうだ、閂や箒も必要ですね。長い棒状のものが他にあれば用意して。紐状の物も必要だ」
「戦の準備?箒でぶっ叩くとでも言うのか?とっ捕まえて紐でくくるっていうのか?」
クーガルが久司を馬鹿にしたように言葉を吐くと、どっかりと近くの椅子に腰を下ろした。
「詳しい説明は、後でします。時間がありません。ただちに領民に知らせて準備をさせてください」
久司の言葉に、半信半疑ながら副将軍がうなずく。第二師団隊長に命じ、領民たちに知らせに走らせた。
「戦力の差は?」
久司は、始めから負けると諦めているような皆の態度から明らかに戦力に差があると予想していた。
「マラード軍はおよそ千」
千?あまり大きな国とはいえないが、日本にいたころの久司の感覚では千人とは明らかに少ない。軍記物を読んでも万単位の兵が出てくることはざらなのだ。
「我がグアルマキートは歩兵300、騎馬兵20」
「さ……ん百?」
三千ではなく、三百?久司は、マラード軍がたったの千と聞いて案外簡単に倒せるのではと一瞬頭をよぎった。しかし、対する我が軍はその三分の一。
「インフィル将軍、以前に戦の勝敗は、兵の数が大きく影響すると言われましたね?それは、どの国でも共通の認識ですか?」
インフィルは是を示す。
「では、ここにいる皆さんに問います。戦わずして負けを認めさせるには、どれだけの兵の差があればいいですか?」
久司の問いに、場に集まった幹部5人と副将軍が話し合う。意見をまとめると、3倍あれば無謀に戦う可能性もある。5倍であればしっぽを巻いて逃げ出すであろう。10倍にもなれば、逆に自国が攻め滅ぼされる危険性を感じて話し合いを求めてくるというものだ。
「では、最低でも五千、できれば一万の兵が居ればいいですね」
「簡単に言うが、どこにそんな兵がいるっていうんだ?国軍は全くあてにできないぞ?北の国を経過して動かせないって返答をもらっている。近隣の領地からの増援も期待できない」
「国王にとって、私は邪魔な存在だから、これを機会に潰してしまおうと考えているやもしれぬ。皆には苦労を掛ける。すまない」
確かに、国王にとってグアルマキート領は邪魔な存在だった。グアルマキート領の特殊性は、領税を限りなく抑えているということだけではない。領内では奴隷の存在を認めていないのだ。この世界では奴隷は当たり前のように存在する。グアルマキート領に追随する領地が増えて奴隷排除の風潮が高まることを良しとしない者がいる。それは王であり、取り巻きの貴族であり、また、莫大な富を築いている奴隷商であったりする。
グアルマキート領がなくなってしまえば、これ幸いというものだ。領土をいったん奪われようと、マラード皇国からすぐに奪い返すことができるとサルサリ国王は考えている。むしろ、マラード皇国を攻め入る格好の口実ができて一石二鳥だとも思っている。
インフェルの謝罪に、副将軍以下隊長たちも大きく首を横に振った。
「私たちが、心豊かに暮らせるのは、すべてインフェル様のおかげです」
久司は、グアルマキート領が普通だと思っていた。奴隷はなく、領税は領民の生活のための公共事業に使われる。しかし、それはこの世界では異質だった。ある日、別の領地から逃げてきたという奴隷がその現実を久司に教えた。
この状態でよく生きていたものだというように、体中傷だらけ。人としてあり得ない形にゆがんだ関節もある。彼によればまだ自分はましなほうだという。娯楽のために猛獣と戦い殺される物も少なくないという。
奴隷とは何だ?自由も給料もなく働かされる者というだけではないのか?否。人として扱われることがない。日本では動物愛護法というものがあり、動物に対してさえ虐待は罪になるというのに。こちらの世界では、その動物以下の扱いがなされる。命さえもおもちゃになる、それがこちらの奴隷だ。
全身にぼろが浮かんだ。寒い。なんて惨い。
インフィルは、逃げてきた奴隷を保護し手厚く介護した。奴隷は、足を踏み入れた領地の所有物ということが認められている。そのため、多くの奴隷たちがグアルマキート領を目指して逃げてくるのだ。
第二師団の隊長も、元奴隷だ。第三師団の妻も元奴隷である。グアルマキートに来れば、奴隷は奴隷ではなくなる。
』
◆
ああ、そういえばこちらの世界でも何年か前までは奴隷が当たり前だったと聞いた気がする。
奴隷として売られるために人さらいがあると。だから、子供がさらわれても探せるように焼印を押すと。
それから、そうだ、グランラのガンツ王が言っていたよね。西の大国は戦争で征服した国の民も自国の民と同じように扱い、奴隷にはしないと。
ということは、別の言葉でいえば、征服した国の民を奴隷にする国があるということだ。
今は、運よくグランラもキュベリアもピッチェも奴隷制度がないだけなんだよね?当たり前じゃないんだよね?
そして、本日も別視点更新です




