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【書籍化】無職独身アラフォー女子の異世界奮闘記  作者: 杜間とまと


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128/303

128 「グアルマキート戦記」を読む1

小説内小説「グアルマキート戦記」部分が長いです。本編に関係はあるのですが、文体も違うし真面目に読む必要もないですので、飛ばしたい人のために◆印がつけてあるところが読書をしているリエスの気持ちになります。

『

「逃げなさい」

 老翁の声が重々しく響いた。

「何故?」

 戦争が始まるのだ。戦火に巻き込まれたくなければ逃げるのが一番だということは分かる。しかし久司は、戦の準備を続ける領主を前に尋ねずにはいられなかった。

 何故逃げろというのか。異世界に飛ばされてから1年が経とうとしていた。

 言葉も分からず、食料もなく彷徨う久司を救ったのはグアルマキート領主であるインフェル老翁その人だった。

 グアルマキート領は、サルサリ王国の北東に位置する小さな領地である。そして、度重なる増税により人々は貧しい生活を余儀なくされている。

 インフェルは、領民を少しでも助けようと領税は最低限にしており、人一倍貧しい生活をしていた。久司を養うために自らの食事を削ったことも1度や2度のことではない。

 久司は、1年の出来事を振り返った。食事だけではない。言葉の分からない久司に、忙しい公務の合間をぬって言葉を教えたのもインフェルだった。  家族のいないインフェルは、久司を息子のようにかわいがってくれ、久司もまた、インフェルのことを異世界の父と思うようになっていたのだ。

 異世界では家族と思えるのはインフェルだけだ。故郷だと思えるのはこのグアルマキート領だけだ。逃げろという老翁にもそれは分かっているはずたった。久司には理解できない。どこに逃げろというのか。なぜ、父と慕う者を置いて自分だけ逃げろというのか。

「逃げません」

 インフェルは領民にとても慕われていた。小さなグアルマキート領の隅から隅までインフェルは視察を欠かさなかった。橋が落ちたと知れば、次の日には衛兵、近衛兵を問わず動ける者を惜しみなく派遣する。

 久司を老翁はどこへ行くにも連れまわった。

「領主様、お花をどうぞ」

 小さな女の子がにこにこ笑って一輪の花を老翁に差し出す。

 それがいつしか

「領主様、ヒサシ様、お花をどうぞ」

 と、久司にも花が差し出されるようになった。インフェルの人柄ゆえか、領民は貧しいながらも心豊かな人々だった。家族もなく遠い異国から迷い込んだ久司を受け入れてくれた。

 そんな領民を裏切るように自分だけ逃げるというのか。そんなことはできるはずがない。

 久司は、老翁に力強く宣言する。

「僕も戦います」

 インフィルは口元に笑みを浮かべると、すぐにそれをかき消した。久司の気持ちは嬉しい。だが、それ以上に久司の身を案じる気持ちがインフィルには強かった。

「この手に剣を持てるのか?」

 インフィルはマメ一つない、久司の手を取った。

「前に言っていたじゃないか、戦となれば、個人の剣技などあまり関係がない、数が物を言うと!」

 確かに、インフィルは以前、久司にそう言った。領民を手伝い田畑を耕し、水路を開き、森を開墾する兵たちを見て久司が剣術の稽古をしなくても大丈夫なのか尋ねたからだ。

 一人で10人倒せても、相手が100人いれば戦は負けると。どれだけの兵を集められるのかが、この世界での戦の勝敗の肝だと。

「ヒサシ、儂も覚えているぞ。戦争を知らない子供たちという言葉を。君が言ったんだ」

 久司はインフィルの言葉にどきっとした。

「この手で、剣を振り下ろせるのか?」

 インフィルの手にぐっと力が入る。久司は痛みに顔をしかめた。

「戦で剣を握るということは、人を傷つけるということだ。人の命を奪うということだ。君のいた国では命のやり取りなどないのだろう?」

 食卓に上る動物をさばくことすら、久司にはできなかった。覚えようと見ただけで吐いてしまったのだ。そんな人間に剣を握って人に振り下ろせるのか?自分の命が奪われることと、相手の命を奪うことを天秤にかけたとき、久司は自分の命を投げ出すことを選ぶのではないのか。

』


◆

 あー。そうだよね。今は戦争だって、遠くから鉄砲バンバン打つんだもん。剣で肉を切るなんて想像しただけでも気持ち悪い。

 それに、人を殺すなんて……

 涙が、あふれた。

 トゥロン……。

 やっぱり、死んじゃったのかな?

 死んじゃってたら、間違いなく私のせいだ。

 私、人を殺しちゃったんだ。

 私、どうしたらいい?


 しばらく、涙で文字を追うことができなかった。

 この小説の主人公は、私と同じように異世界に来て、私と同じようにいい人に巡り合って助けられたんだよね。久司はどうするつもりなんだろう。助けてくれた人を見捨てるの?助けるの?助けるというのは、人を殺める覚悟をするってことだよね。どうするの?

 小説なんだけど、同じような境遇にある主人公のことがまるで同士のように感じる。

 もし、私なら剣を取る?親しくなった人たちを置いて、自分だけ逃げる?

 久司が戦に出て、命の危機が迫っても敵に剣を振るうことを躊躇したら、インフィルが庇って敵の剣を受けちゃうとかない?

 それはだめだよ。

 ねぇ、久司、逃げるなんて卑怯かもしれないけれど、でも、でもね……戦に出るのは自己満足なんだよ?周りの人を逆に危険にしちゃうんだよ?

 私のように失敗しちゃだめ。

 って、小説相手に何を感情的になっているんだろう。



『

 久司は老翁の危惧していることを理解していた。

 しかし、一人逃げだすという選択はどうしてもできない。かと言って、剣を手にするという選択も、もうできなかった。

 戦で自分が死んだら、剣を持つことを止められなかったとインフィルは自分を責めるに違いない。そう感じたからだ。

「剣は握りません。だけど逃げません。僕は僕のやり方で戦います」

「ヒサシ?」

 久司はインフィルの手を今度は強く握り返した。

「僕に、参謀役を。戦は兵の数だけで勝敗は決まらない」

 覚悟を決めた。剣で人を殺すよりも、多くの人の命を殺めてしまうかもしれない。

 だが、戦となれば多くの命は奪われる。だったら、たった一人でもいい。僕が救える命があるのなら救いたい。

 殺し合いだけが戦じゃない。戦術を立て、被害を最小限に食い止める。そして勝利を収める。いや、戦を回避することだってできるかもしれない。

 久司は、日本にいたころに読み漁った多くの本の内容を思い出していた。戦記物や軍記物が好きでよく読んでいた。戦略シュミレーションゲームも数多くプレイしていた。

 傲慢な考えかもしれない。僕が参謀になれば何とかできるなんて。だけれど、数がすべてだと無暗に対戦するよりはいくらかマシになるはずだ。

 僕がやろうとやるまいと、戦は始まる。人は死んでいく。

 僕がやらなくても死んでいく。戦に負ければ、奴隷として死んだ方がましだったという生活が待っている。

 だから、人は奴隷になるくらいなら戦で死ぬことを選ぶ。負け戦だと分かれば、躊躇なく人は命を手放す。家族を奴隷にされるくらいならと、心中する人もいると聞く。

「インフィル、いいや、インフィル将軍、現在の状況を教えてください。早急に策を練ります」

 久司の眼の色が変わったのをインフィルは見逃さなかった。これは、覚悟を決めた男の眼だ。

 自己満足だろうが、傲慢な考えだろうが、僕が誰かの命を奪おうが、やらなければ、何も変わらない。不幸は不幸なままだ。

 何もしなかったという後悔と、何かをして後悔することと、どちらを選ぶかというだけだ。

』


◆

 何もせずにする後悔?

 再び涙がほほを伝う。

 私、あのまま自分だけ城を抜け出したらどうだった?

 ランちゃんやメイヤさんがエロキモに苦しめられ続けているのを知りながら、自分だけ城を抜け出していたら?

 トゥロンが意に沿わないことを要求され、ずっと苦しんでいるのを見て見ぬふりをするの?

 もし、全部無視していたら、トゥロンは谷川へ落ちなかったかもしれない。私は、今こんなに悲しみ苦しまなかったかもしれない。

 でも、別の意味でずっと後悔し続けたかもしれない。


 起きてしまったことを悔いて、悔いて、悔いて、悔いて。

 かもしれない、かもしれない、かもしれないを繰り返し。

 それで、何になるのか?

 結局は何もしない、私はこんなに苦しんでいると、ただ憐憫されたいだけじゃないの?

あまりに申し訳ないので、別視点を更新しました

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― 新着の感想 ―
[良い点] たぶんじつわ。 [気になる点] 凄いニンジャなのだし、生存確認だけでも頼めば良かったのに感は、無くもない。 (いやまあ、ラトの時点で) [一言] ……というか、人質いない時点で討っちゃって…
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