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【書籍化】無職独身アラフォー女子の異世界奮闘記  作者: 杜間とまと


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126/303

126 プロポーズ

 私、熱があるよね?打撲の影響で熱がある。

 頭がぼんやりしていて思考力が落ちてるのは、色々なショックが重なっているせいだけではない。熱もあるせいだ。

 だけれど、聞き間違いじゃないよね?

「ああ、違うな、違った……」

 は?

 ラトが自ら間違いを認める。って、え?気軽に間違えていいような言葉じゃないよね?

「えーっと、何だったかな、」

 ラトは少し視線を上に向けて何かを思い出そうとしている。

「そうだ、そうだ、思い出した」

 ラトは、仕切りなおそうとするように、咳払いをすると、再び私の目を見る。

「僕のために、毎朝ミソシールを作ってほしい」

 ミソシール?

「味噌汁?」

 ラトは満足げに笑った。

「そうだ。ユータに聞いたんだ。リエの故郷ではそういってプロポーズするんだろ?」

 いや、違うし。

 違わないけれど、ユータさん、古いよ。今は「僕に毎朝味噌汁を作らせてくれ」が人気なんだよ?

 そもそも、味噌ないよね?こっちで味噌汁作るの無理でしょ?

 ラトなら、毎朝うどんでも満足しそうなんだけど?「僕のために毎朝うどんを作ってほしい」の方が似合うよね?

 ふと、小さな山小屋で、朝ご飯に2人でうどんを食べる姿が思い浮かんだ。


 ああっ!

 何てことだろう……!

 まさか、まさか……、心臓がじくっと痛む。

 目の前がチカチカする。


「ねぇ、ラト、ユータさんは他に何か言わなかった?プロポーズに必要な物のこととか?」

 必死に言葉をつむぐと、ラトは私の思惑通り、ハッとした顔をする。

「そうだ、指輪と薔薇の花束と、給料3か月分!」

 ユータさん、薔薇の花束って……

 それに、ラト、給料3か月分の指輪なのであって、薔薇と指輪と給料3か月分じゃないよ?

「えっと、今までの無しね。やり直すから!待ってて!」

 ラト、プロポーズのやり直しって……。

 時間を置いて冷静になったほうがいいよ。

 どうして、私に居て欲しいからってプロポーズになるかな?恋人同士でもあるまいし。

 随分やつれている様子だし、判断力が落ちているのかもしれないね。疲れていると、人間思考が働かないもん。

 指輪を買いに行くといって、部屋を出て行くラトの背中を見て苦笑する。

 でも、ちょっと抜けてるところがラトらしいね。


 ラトの姿を見送ると、痛む体に鞭を打ち、鞄に手を伸ばす。

 携帯電話を取り出すと、ラトが戻って来る前にメールを打つ。


 それもいいねと、思ってしまった。

 ラトと毎朝うどんを食べるのもいいねと……

 そう思った自分に驚いた。

 いや、失望した。


 トゥロンをあんな目にあわせておいて、自分は平穏な生活を夢見るのかと!なんて非道な。


 戦争が起きて、オーパーツに手を伸ばしてしまう危険があるからと山小屋を去る決心をしたのに、その決意をあっさり崩してしまうのか!

 もし、こちらで生活をすると決めるのであれば鞄を処分すればいい。そうすればオーパーツを使いたくても使えなくなるのだから。

 だけど、できない。

 私にはまだ、鞄を手放すなんてできない。

 日本との繋がりを切りたくない。

 こちらでの平穏な生活も、世界を覆してしまう可能性のある鞄も、両方とも手にしていたいなんて欲張りな!

 何て、私は強欲で自分勝手なんだろう。


 ラト、それもいいねって思った気持ちまで否定しないよ。

 ありがとう、私と生きていたいと思ってくれて。

 プロポーズまでしてくれて、ありがとう。


 吾妻さん、早く、早くメールの返事をください。

 ラトが戻ってくる前に。

 ラトの顔を見てほだされてしまう前に。


 ぎゅっと握り締めていた携帯が震える。


 『了解』

 そうタイトルのあるメールを開く。


 改めて、吾妻さんの行動力に驚いたのはそれから数分後だ。こちらの世界では携帯電話なんてないのに、狼煙などの連絡手段でどうしてこのように早く連絡が取れるのか。


 一見して、行商人に見える男が部屋に入ってきた。

 準備万端な様子からすると、私が落馬して、体の自由が利かないというのを知っていたようだ。ずっと私のことを何処からか見ていたに違いない。

 動けない私を大きな籠に入れると上にわらの蓋をかぶせて背負子で背負う。


 そうだ、助けてもらったお礼におにぎりを作らなくちゃ……

 一定のリズムで揺られているうちに、知らず知らずのうちに眠ってしまった。


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