第七話 恋の代償
あの後なぜ郵便局で働いているのかを俺は改めて考えることにした。移動命令が出たのが始まりで、特に何も知らされず働き始めた。理由とかきっかけって他に何かあるかな?てか前の職場ってどこだっけ?そこで俺は気がついた。ここで働くより前の記憶が無いということに。
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数日経ってもふとした瞬間に考えてしまうことが多く、ここ数日はボーッとすることが増えてしまっていた。これではダメだと思いつつもどうにも身が入らない。そんなことを考えながらまたボーッとし始めた頃、リアさんに声をかけられた。
「ボーッとしてどうした?」
「ちょっと考えごとがあって、答えっていうか知りたいことが分からないみたいな感じで、ちょっと油断すると意識がその考えごとに持っていかれちゃうんですよ」
「それは良くないな」
「ですよね」
「うん。そんな人にこの仕事任せられないもん」
そう言ってリアさんは持っていた紙をヒラヒラとさせて俺に見せた。
「なんですかそれ?」
「見覚えない?」
そう言われしばらく観察して思い出した。
「異動辞令の紙!」
「正解!まぁこれは異動辞令じゃないんだけどね」
そう言うとリアさんは紙を俺に渡して言った。
「ユキくんに特例任務です」
「え?俺ですか?」
「うん」
「なんで?」
「それは知らない。けど名指しだね」
「名指しって。というか任務って何するんですか?」
「私も分かんない」
「分かんないって。それ上からの呼び出しで、俺知らないうちに何かヤバいことしちゃったとかじゃないですよね?」
「それなら名指しで任務とは書かないでしょ」
「確かに。じゃあ何なんですかね?」
「私も分かんない」
「でたよ、何もわかんない奴。本当に困るんですよそれ」
「うん。その気持ちはよーく分かるよ」
「それいつなんですか?」
「今日」
「え?今日のいつ?」
「時間とかは書いてないから準備でき次第来いって感じじゃないかな」
「なんですかそれ。というかなら急がないと」
準備を始めようと立ち上がって一つ疑問が浮かんだ。
「あの、服装とかって」
「格好はいつも通りで大丈夫なはずだよ。帽子とカバンも持って行きなね」
「分かりました。ありがとうございます」
そうリアさんに言って、俺は帽子を被ってカバンを持って止まった。
「これ、どこに行ったらいいんですか?」
「その紙装置に置けばいいんだよ」
そう言ってリアさんが指差したのは特例任務が書かれた紙だった。
「これですか?」
「そう。って言っても何も見えないでしょ?」
「はい」
「そのての紙はね、装置に置くまで座標が分からないようになってるの」
「なんでですか?」
「場所とか含めた業務内容が仕事をする人以外にも分かっちゃうのは問題だからね」
「あ、確かに」
「でしょ!だから分からないように作られてるの。うちこういう所はしっかりしてるんだよ」
と話すリアさんに同意をしつつ、もっと俺らへの対応もしっかりして欲しいと思いながら扉へ向かった。
扉を開け、装置に紙を置くと本当に座標が映し出された。青く光ったのを確認してから俺は円の中に入った。
目を開けると一面綺麗な空が広がる原っぱにいた。コンパスを開くと行くべき場所と方角が示されたので、それに従って歩き始めた。いつもより月や星が近く見えている気がするなんて考えていると一軒の家が見えてきた。コンパスが示す目的地もどうやらその家だった。俺はその家まで急いで、家の前で身なりを整えてから扉を軽く叩いた。
「異界郵便局のユキというものです。特例任務の命を受けこちらに伺いました」
そう言うとすぐに扉が開いた。
「待ってました。どうぞ上がって」
そう言って招き入れてくれた家主は随分と昔の格好をしていた。
「初めまして。私は天雅彦と言います」
「初めまして。異界郵便局のユキです」
「ユキさん、存じてます。今回は急に呼び出してしまい申し訳ありません」
「いえ、むしろお気遣いいただきありがとうございます。その、特例任務を任されるのが初めてでして、どういった仕事になってるかをお聞きしてもよろしいでしょうか?」
「はい。私が書いた手紙を天棚機姫神という女性に届けてもらいたいんです」
「恋人ですか?」
「いえ、私の妻にあたる人です」
「奥様でしたか」
「はい。と言っても恋文というより謝罪の手紙に近いかもしれません」
「えっと、喧嘩でもなさったんですか?」
「そういう訳ではないんですけど。私たちは会えなくなってしまっていて、その原因が僕にあると思っているので」
「あの、差し支えなければそう思う理由をお聞きしてもよろしいでしょうか?」
「えぇ、もちろん。私たちはお義父さんの紹介で知り合い、すぐに恋に落ちました。でも、結婚してからというものお互い仕事に身が入らない日々が続いていました。そんな私たちを見たお義父さんは激怒なさって、私たちを引き離したんです」
「今の話しだと天雅彦さんが何か悪いことをしたように思えなかったんですが」
「いえ、してるんですよ。そもそも私と結婚しなければ彼女は愛する人と今も離れることなく暮らせていたと思うんです」
「それは分からないんじゃないですか?」
「そうですね。でも、私はそう思ってしまうんです。彼女は根が真面目ですから、私みたいに恋に惚ける人ではなく、支え合っていける人であれば今でも幸せだったろうなと考えてしまって」
そう話す彼の顔はとても悲しそうだった。
「天雅彦さんの中ではもう決まってしまっているんですね」
「はい。それと私のことは彦星でいいですよ」
「彦星って、あだ名ですか?」
「あだ名になるんですかね。私も分からないですが、私のことは大抵の人が彦星と呼ぶんですよ」
「あの違ったら申し訳ないんですが、もしかして織姫と彦星の彦星さんですか?」
「そうです。ユキさんも織姫と彦星の話を知ってるんですか?」
「それはもちろん。有名ですから。というか、もう少しすれば会えるようになる時期じゃないですか?」
「あーなるほど。もしかしてユキさんが知っているのは、一年に一度だけ会うことが出来るというお話でしょうか?」
「はい、そうです。」
「やっぱり。実際は一年に一度も会えないんですよ。私たちは光の速さで動いたとしても会うのに約十四年半かかってしまうんです。だから実際に会うというのは……」
「すみませんでした。何も知らないのに勝手なこと言って」
「いえ、気にしないでください。会えなくなったのは自業自得ですから」
そう言って彦星さんは優しく笑ってくれた。
「あの、一つ質問いいですか?」
「えぇ、どうぞ」
「なんで俺だったんですか?」
「四月から働き始めた新人の中に変わった配達にあたってもとても良く働く人がいると聞いてね。それと、ユキさんは受け取り拒否だった荷物を受け取って貰えるよう動いたんでしょう?今回は出来るだけ粘ってもらいたくて、実績があるあなたにお願いしたいと名指しさせて貰ったんです。完全に私の我儘で、巻き込んでしまうかたちになるのですが、この仕事受けて貰えませんか?」
そう不安そうに聞く彦星さんに俺は笑顔で言った。
「喜んで引き受けさせてもらいます」
その言葉を聞いて安心したのか彦星さんに少し笑顔が戻った。
「少し待ってて貰えますか?」
と言うと近くにあった机の引き出しから一通の手紙を持って帰ってきた。
「これが届けてもらいたい手紙です。できれば読んでもらいたいですが、難しそうであれば持って帰ってきてもらって構いません。どのみち、届けられたかどうかの報告をいただきたいのでこちらに戻ってきてもらえると助かります」
「分かりました。俺できる限り受け取って貰えるよう最善を尽くしますので、帰ってくるのは時間がかかるかもしれませんが」
「それは大丈夫です。むしろありがとうございます。手紙よろしくお願いします」
そう言った彦星さんから手紙を受け取ると伝票も現れた。ここではこうなるのかと驚きつつ、俺は彦星さんに挨拶をして家を出た。
こちらに来たとき俺が立っていた辺りにステンドグラスの建物が建っていた。先程までは絶対になかったと思うのだが、とりあえず目指すべきだろうと思い俺は歩き出した。建物にはやはり装置が置いてあった。俺は装置に伝票を置いて天棚機姫神の元に向かった。




