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第1巻第2部第2節その27  「終りと始まり その9」

だが

右手首の内側、掌底に当たる部分から

刀身が徐々にその不吉な姿を現し始めるのは

これはアトゥーラの意志なのだろうか

従士たちを解体する際

手甲に融合する形であった剣は

今は普通に分離し

やがてゆっくりと現れた柄は

赤の鎧の手の内に

繊細極まる装甲に包まれた

ほっそりと優美な手指の中に

しっくりおさまりつつある

微かな反りを帯びる細身の片刃剣

ほぼ元の神剣の形を保ち

但し身幅はほぼ三割増し

長さは・・・

倍近くにはなっているか

さきほどまでの凶々しさは消え去り

神器としての気品すら匂う

けれども兵器としては

文字通り最強の威容を湛えている

さあ オドッテミヨオカナ

と呟く声

ギドンは既に魔剣を抜き放ち

脇構えに間合いを消す

アトゥーラは八相をやや崩し

気怠げに軽く構える

ゆるゆるとくだりゆく太陽の放射が

二人と二本を

金色に染める

魔剣の放射はそれに同調するように

千変万化する虹色から

深夜の秘庫に眠る黄金の

禁忌の魔道士だけが知る

重く仄暗い輝きへと収束してゆく

白銀の神剣は

太陽のマヤカシに染まらず

おのが本質の無垢であること

処女性の 非産の

生死の境を駆け抜ける

絶対の否定の象徴たる

銀月の本体(シンズイ)として顕現しているかのようだ

・・・


次の瞬間

二人の位置が入れ替わり

ほぼ同時に高い金属音が鳴りわたる

従者デ・グリームは額中央から血を噴きながら

ゆっくりと倒れてゆく

「かわいそうなことをする」

男は三歩よろめきながら下がり

光を失った剣の傷を確かめる

信じられぬことに刀身の中央

全幅の三分の一にも達する深い切れ込みが

ほとんど血を流さんばかりの生々しさで開いている

その断面には芥子粒ほどの銀灰色の微粒子が

犇めき合うように蠢いており

時折吹きこぼれるように散り落ち 舞い散るいく粒かが

緑の大地に達するまでもなく

空中に消滅してゆく

「やつの話しっぷりは俺は好きだったのだ

ひどく個性的だったがな

おまえともゆっくり話したかったろうに、なぜ殺す」

「ただの偶然、そして必然かな、あんなとこに立つんだもん

でもデ・グリームさんは不思議な人ね

ゲイルとの会合で跳ね返った剣が眉間を直撃する瞬間

あの人、切っ先のトンガリをじっと見つめてたもの

なんかうっすらと笑ってたよな気もする※1

それにあの人だけだし、アタシを抱こうとしなかったの」

アトゥーラの弁明?にはヒトカケラの説得力もなかったが

ギドンはごく自然になるほどと頷いてしまう

「そうだ、俺もデ・グリームは気になっていた、やつがあの変態男に長年傅いているのが不思議だった、そろそろ俺の従者にもらおうかと思っていたところだったのだ」

「アタシを抱いたニンゲンはミンナ死ぬの

抱こうと考えただけでも死ぬの

それはミンナ神様の書板に書かれてることらしいのね

だから必然なの、でもこのカミサマ、とんでもない奴で

偶然(グーゼン)」をだって書いちゃうのね」

「スルト 俺も死ぬのかな」

魔剣ゲイルギッシュが再び光を放ち始める

傷は完全に治っている

赤の鎧はゆるゆると

再び八相崩れに構える

「それはどうかな

未来は一義的に決まっているわけではない

って誰か言ってたな」

赤の鎧は無造作に歩を進め間合いを詰める

そうして途中唯一人の着衣の遺体

従士デ・グリームの腰のあたりを

ひどくゆっくりと慎重に跨いでゆく

(足の先にも目があるかのよう)

さらに数合

激しく会話を交わす

魔剣は構成を変えたのかさっきのようなひどい傷は負わず

ただしょっちゅう刃こぼれすることには呆れているようだ

ー おいおいおいおい ー

ー なに? ー

ー お前じゃねえ、その剣、いったいぜんたいどおなってる

このオレが刃こぼれするなぞアリエネエ ー

ー 現実は受け入れるべきね ー

ー お前に聞いてんじゃねえ、コイツ、ナゼ黙ってる、つうぅーーか

名乗れよ、おい、まさか名無しのゴンベイじゃああるまいし

このオレとタメを張れるんだ、イッパシの名乗りがあってしかるべし

つか、おい、聞こえてんのはわかってるぞ、あああ、まさか

くっっ  シカトかよ

お高くとまってんのかよ ー

・・・



ー どおおおもねえ、この子、しゃべりたくないみたい

えっと、えええ? そう、男とは口をききたくない?

ああ、そうなの、じゃ、しかたないわね ー

ー こらこらこらこら どおいうことだ

なぜおまえがしゃしゃり出る ー

ー だってアタシとこの子は今完全に一心同体だもん ー

ー おまえ言ってる意味がわかってるのか

ただのニンゲンがおれたちと同化できるわけねえだろが ー

ー あんたのいう同化ってのはわからんけど心があるんなら可能でしょ

あの、アレよ、アレ、全開両面なんとかっていうやつね ー

ー あほか、それは全然意味が違うぞ、まあいい

それではおまえ、おまえをこいつとして話そう

きけ、名乗ろうとせぬ剣よ ー


ー キリカエ早いわね、まあいいわ、それより

あんた、おまえはやめてくれる?

アタシにだって名前あるんだから ー

ー フン 知っとるわ、おまえも

俺のことをアンタとかあの子とか適当に呼んどるではないか

名前で呼んでほしけりゃまずはおまえのほうから

ゲイルギッシュ様と呼べ ー

ー いやよ、メンドクサイ ー

ー ゲイル様でも許すぞ ー

ほとんど目で追うことすらできぬ超速の攻防が続いていたのが

今は鍔迫り合いの形となりほぼ静止している

ただし神剣のみが魔剣に食い込む形となっていることは

相変わらずである

ー じゃあ、ゲー様 ー

ー な、なぜ略す? ー

ー じゃ、ゲ様? ー

ー だからなぜより短くするんじゃ、なめとんのかこのクソあま! ー

ー オトコってダメねえ、いっつもこれよ、ほら、クソアマよ

あなたのゆう通りだわ、そおね、いっかいへし折られないとダメかもね

いまここでヤル? やってみる? ー

ー な、な、な、なにをゆっとる ー

ー あなた、うまれてから一度も折られたことないでしょ、って言ってるの

そんなんじゃダメ、ダメダメよってこの子は言ってるの ー

ー 剣が折られてどうする、一巻の終わりじゃねえか! ー

ー ナミの剣ならね、でもアンタはナミじゃない、神剣魔剣全てに冠絶する唯一の剣・・・ でしょ ー

ー ウーーーム、その()はチト気になるが、ウム、マアよかろう

じゃねえや! 折られてたまるか! ー

ー やっちまおうか? どおする? ー

ー こらこらこらこら、おい、やめろ、それ以上食い込ませるんじゃねえ、こらあ! ひ、ひねるな! ー

ー そうねえ、アタシも見てみたいかな、どんなふうに復活するのかとっても興味あるもん ー

ー おい、あ、ああ、まじでヤメロ! そ、そんな、お、あ、

ひらくんじゃねえ、ぐおあ! あ! ー



剣と剣、そしてアトゥーラを交えた物騒な三者会談、ではなく

不穏極まる多重感応状態が進行中であることなど露知らず

こちらはこちらでなにやらオカシナ鍔迫り合いの真っ最中なのではある

ナニがオカシイか

およそ非対称的な二つのスガタ

かたや全裸の 小山のように巨大なオトコ

対するはその五分の一にも満たない

オモチャのように小柄な赤いオンナ鎧武者

オトコの背中と肩の筋肉は盛り上がり滝のような汗を流している

魔剣は怪しく光を明滅させながら、のしかかるように

相手の細身の剣を圧倒している

ように見えるのは

まったく事の真相には程遠い

なぜなら赤の鎧はほとんどなんの負荷を感じている様子もなく

ラクラクとオトコの圧迫を受け止めているし

普通これほどの荷重、これほどの圧力がかかれば

関節部その他金属非金属を問わずなりふり構わぬ悲鳴を上げるはずが

すべての躯体はシバンムシの存在をも感知させるほどの静穏さを保ち

ラクラクと本体のアシストを遂行中という風情

ただその足元、華奢な舞踏靴にも見紛う赤い鎧の先端は

徐々に緑の大地、相変わらず緑金色にそよぐ青草どもを分け入り

ほどよく湿り気を帯びたやわらかな黒土を穿ち音も無く

深々としかし着実に沈んでゆくアリサマがほとんど滑稽なほどなのだ

オトコはこれまでに何度同じ疑問を口にしたことか

明確に意識しながら再び問うのだった

「アトゥーラよ」

「はい、大殿様」

「その力はなんだ」

「わかりません」

「アトゥーラよ」

「は、はい、ギドン様」

「その刀はなんだ」

「わかりま、え、いや、えっと、これは、あの、あれ」

「なんだ」

赤の鎧はそのノッペラボウの頭をゆっくりと振り向け

墓穴の傍らに立ち尽くす姉のスガタを一瞥?

すぐにその目線なき目線を直上の

場にそぐわぬ穏やかな眼光のオトコに戻す

「どうした」

「あ、はい、これは、あの、アネサマの」

「ウェスタの?」

「ウェスタ様からのお借り物」

「嘘をつけ」

「あ、す、すみません、でもほんとです、お借りしたというか

この鎧が取り戻すのだ、とか言ってました」

「鎧がナニを言ったのだ」

「コレがいうには」

「ふむ」

「ワレとコレは本来は一心同体、かの水中神殿不滅の神体のひとつ

グネトニアの血統に連なる処女なる戦闘姫、三美神の一角を占める

その永遠、悠久なる奉納物にして絶対の神造武具であると」

「門外不出、世に出ることはありえない、そう聞いておる

神征の時、戦闘姫が身につける以外ありえないと」

「正確にはそうです、剣はレプリカです、でも本物と全く同等

正規の儀式を経て正式に鍛造された、分身(パラレル)と称してよい

そういうものなんだそうです」

絡み合った二本の剣が何か異様な音をあげて軋んでいる

神剣たる片刃の刀はさらに魔剣に食い込んでゆく

「だが、その鎧は・・・ それがなぜここにある、それもレプリカだというのか」

「こ、これはホンモノです、こればかりは複製しようのないものなのだと、そういってます」※2

「だが、なぜここにある」

「わ、わああた、いえ、し、すみません、あたしにはわかりません

時空跳躍力、次元間跳躍力とかいってますがなんのことかさっぱりわかりません」

「そんな能力があるとしてだ、なぜここ、いや、おまえなのだ」

「わ、わかりません(そんなことアタシが聞きたいくらい)」

「まあいい、ではもうひとつこたえよ」

大王熊に匹敵する巨体のオトコはなぜか満足気に言葉を継ぐ

「その肩のモノはなんだ、右のはどう見てもさっきの狼の首だな」

「こ、これは、バスポラです」

「バス? なんだって?」

「バスポラ、アタシの義理の兄です、自称だけど」

「呼んだか」

若い、いな、まだオサナゲな顔付きの狼が薄っすらと両目を開けている

「呼んでないから、もうちょっと寝てていいから」

「そっか、おやすみ」

すぐに目を閉じる

大きさはちょうど肩先に収まる具合に見事に調整されているようだ

いや、すでにしてさらに縮小しつつあり最終的には一般兵の肩章ほどにも目立たない、ワッペンほどのシルシにまでおのれを韜晦する気が満々のようでもある

「口まできけるのか」

「うるさいんです」

「なんだとう」

片目を開けて睨み返しているが今やほとんど平面なのでさほど迫力はない

「俺が見るにコイツはおまえに懸想してるな、いまここで削り取ってやろうか」

拝み打ちの形に固定された魔剣をそのままさらに押し込むが微動だにできぬようだ

それどころか大地への沈降が既に不可能になった今の状態では、さらなる圧力の強化は必然的に最も弱い部分に集中的に作用せざるを得ない

ー ぐぅおぅ がむ い、いかん、コレ以上は、も、もう、もたん! ー

ー いよいよね ー

ー お、おまえら、くそ、なぜ、この俺が、こ、こんな!

ありえん!! ー

「アトゥーラよ、左の骨はおまえの母親だといったな」

「はい」

「名は?」

「イヨルカです」

「呼んだ?」

「うううん でもいま取込中 黙ってみててね」

ー ああ、この剣、知ってるわよ、ちょっと懐かしいわ

ああっと でも もう最後ね

限界だわ ご愁傷さま ー

ー 俺は、俺の計画を完遂するまで死ねん、死んでたまるか

き、きさまら、必ず、必ず・・・ ー

乾いた枯れ枝が裂ける時のように

軽い、あまりにも軽い、弾けるような音が響く

魔剣ゲイルギッシュが砕け散る・・・


・・・

アトゥーラの神剣がそのまま逆袈裟に切り上がる

支点を失ったギドンの巨体はそのまま前のめりに

白銀の刀身はなんの抵抗もなく跳ね上がり

そうして糸を引くように切り下がる

オトコの残された体が垂直に二つに分かれる寸前

首を載せたままの右肩がゆっくりと

ズリ落ちてゆく

夥しい血潮が赤の鎧に降り注ぎ・・・

否、既にして装甲は開放され

鮮血を浴び血塗れの彫像と化しているのは

蒼白のアトゥーラの裸身なのである

神剣も消失し

今の今

せめぎ合っていた二本の剣はその存在の気配すらない

真紅の小娘は震える右手を上げ

大地に蟠る主の首に触れようとする

が、左の肩先から股間まで完璧に両断された体が血煙と共に倒れ伏す

その血柱の向こうに揺らめくように近づく白い影が

もう一つの白刃を振りかざす形を完全にとらえている

次の瞬間

血と赤髪と緑の目、少し歪んだ微笑みを浮かべた小さな唇を持つ首は

おのれの頸骨が切断される音を聞く






【原注】


※1 超高速度分解撮影なみ?


※2 複製しようのない  詳細は未だ不明だが着装者に合わせて変形することから生じる一種の概念装甲、その基体としての結構は解析や複製を受け付けないものと思われる (しかし、神意に叶う、純粋な処女の願いであれば聞き届けられる可能性があるという特殊伝承が存在するらしい※)

⇒ ※そして神宝の国外持ち出し事案としては、マイラ・ヒレーン→アムドゥルガー姉妹→ウェスタ・サラザンという流れは確実に想定し得るのではなかろうか



【後書き】

ほんとに、はあ、血腥いお話ばかり続き訳者も疲労困憊しております。


(困憊です・・・ 困惑ではない、というところが既にして怪しい、というか言い訳できない?)


しかし、これももうすぐ終わる、ハズ、です。

世は、WWⅢの予感に震え、小○館さんはひたすら「時の風化作用」にあぐらをかいているご様子、ひどい世の中です、いつもいつもひどい目に合うのは女子供ばかり、せめてファンタジーの中だけでも欲望全開、じゃなくて、心穏やかな、ノホホンとした世界を・・・

とおおお、思いつつ、筆にすることができたのは、はああ、このアリサマです・・・

とても信じては貰えないでしょうが、これ、ほんとうに、ほんとうは、

完全なる癒やし系の物語なんです、

日常の、ささやかな営みが、静かに、粛々と綴られる、

そんな優しい世界なんです・・・

ああ、自分で言っててナンカ虚しいですけど・・・

そうです、

第2巻からは、そう、牧歌的な日常が

はんなり ほっこり と続くハズなんです・・・

ではでは、どうか長々しい目で、

どうかお見捨てなきよう

伏してお願い申し上げます

20260306


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