10.入学式⑦
ーーー【空間移動】、それが僕の能力だ。
能力者の間では、口に出すと鼻で笑われるような最底辺に位置している4文字の能力。
この試合で出来ることと言ったら、同じ範囲の空間を2つ思い浮かべて設置し、その空間同士を移動させることで、一瞬で移動したように見せるといったものだけだ。
……なんか、こう文字に表してみると、改めて自分の能力の不便さを感じる。同じ4文字の能力である【瞬間移動】の劣化でしかないし。
こんなありふれた4文字の能力だとしても、僕にとっては唯一の武器になる。この武器を駆使して、ニーナの試合と同じ状況を作らないといけない。あの時の状況の再現をするためには、ド派手な攻撃を防ぐことが最低限必要になる。
「それじゃあ、行くぞ」
その言葉の通り、ブランが地面を蹴って距離を詰めてくる。
第一段階として、ブランにミュウ程の攻撃をしてもらわなければならない。
セカイの考えたものは、能力で一瞬にして接近し、焦ったブランが力加減を見誤って、ついつい高威力の攻撃をしてもらうという、相手が能力を知らないからこそできるものだった。
しかし、それはブランが待ちの状態であることが必須だったため、失敗に終わる。
セカイの能力である空間を移動させるには、いくつかの欠点が存在する。
まずは、特定の動作をしなければならないこと。
能力を使うには、全く同じ範囲で2つの空間を決めなければならないため、相当な集中力が必要になる。本来なら、数秒の間、全神経を使って行わなければならなく、戦っていたり動いていたりする時には使えない。
それでは、実戦で使い物にならないということで、使えるよう色々と試行した。その結果、辿り着いた答えは、思い浮かべる空間を全て固定しておき、右と左の手を向けた先に、それぞれ設置して使用するというものだった。
手を向ける=固定した空間を設置する、という能力の使用段階を単純化することで、時間の短縮に成功した。
能力を使用する時間が短縮できたとしても、手を向ける動作を行うのと同時に行動されてしまえば、こっちが後手に回ってしまう。開始直後に、能力を使用することができずに、先にブランの行動を許してしまった。
だが、もちろん策はこれだけではない。失敗した時の策も用意してある。
段々と距離が近づいてくるブランの拳が光り輝く。
あの発光は……。
一昨日のことが記憶から引っ張り出される。
あの時みたいな速度で移動はしてこないのか。
まぁ、なんでもいい。能力を使うために、わざわざ近寄って来てくれるんだ。
ブランの気迫に押されて怯んだかのように、一歩退く。
それを見て、より速度を上げる。距離が縮んでいくのに、比例して光の輝きが増す。やがて、視界には何も映らないほどに光で埋め尽くされいた。
それを見て、自分の足元と背後に手を伸ばす。
「悪いな。どうしても、Aクラスになりたいんだ」
あまりの眩しさに目を閉じているため、ブランの声だけが聞こえてくる。
ド派手な攻撃を期待してはいたけど、いつ攻撃されるのか目で判断できないんじゃ防ぐもくそもない。
唯一、分かっていることは無慈悲な攻撃が僕に向けられていることくらい。……もう限界だ。
ーーー能力を発動する。
セカイの体が一瞬にして消える。
「あれ?」
そんな間抜けな声と共に光線が放たれ、闘技場の壁を貫通する。その真横に移動していたセカイは、冷や汗が止まらなかった。
こいつ、殺す気か!?
真横にあいた穴は、直径がセカイの身長くらいはある綺麗な円で、外が見える。外には被害がないものの、威力の高さは言うまでもない。
直撃しなくて良かった、とゆっくり腰を下ろす。
ステージの外に移動したために、セカイの敗北は確定していた。
「大丈夫だったか?」
ステージから降りて、ゆっくりこっちに向かってくる。
こんな穴あけといて、よく大丈夫だったか聞けるな、こいつは。
「もしかして、僕のこと殺すつもりだった?」
「そんなまさか、俺に攻撃を当てるつもりはなかった。力を見せつけられれば、それで良かったんだ。……それにしても、やりすぎたとは思うがな」
「へぇ、そうだったんだ」
くそっ、何もかも上手くいかなった。
“万能”の能力者を甘く見ていた。僕のような人間の常識に当てはめる存在なんかじゃない。“万能”の凄さは、身近で見てきた僕が一番分かっていたはずなのに、心のどこかで軽んじていたのだろう。
「さて、クラス発表を聞きに行こうぜ」
そう言って、手を差し伸べる。気持ち的には振り払いたかったが、そんな考えなしに動くほど馬鹿ではなかった。その手を握ると、引っ張られて立ち上がる。
「なぁ、さっきの移動って、セカイの能力か?」
「まあね。僕の能力である【瞬間移動】で避けたっていうのに、まさか当てる気がなかっただなんて。ビビッて場外なんかにいかなければ、まだ戦えていたのにね」
呆気なく負けたことが悔しくて、嘘をついてしまう。
「……その能力なら、俺の後ろに移動すれば反撃できたんじゃないか?それに、能力を使って一瞬で接近することもできたよな。どうしてしなかったんだ?」
この質問攻め。
まさか嘘がバレたのか?……いや、ただ疑問に思っているだけかもしれない。ここは、上手に誤魔化しておかないと。
「変に緊張しちゃって。この能力ならどんな攻撃が来ても避けることができたし、1回様子を見てから判断しようかと思ったんだ。そこにあの強力な攻撃、驚きと焦りで逃げるって考えしか思い浮かばなかった」
咄嗟に考えたとしては、上出来だ。
「そうだったのか、あそこで後ろに回られたら反応できなかったし、危なかったな」
本当に力を示すことしか頭になかったんだな。
これが強者の余裕ってやつか。僕程度なら本気を出す必要もないってことなんだろう。……その余裕が命取りにならないといいな。まぁ、僕には関係のないことだけど。
「あの攻撃だったら、そんな心配もいらないんじゃない?」
「ははっ、ま、そうだよな」
ははっ、こいつ単純だな。
***
闘技場の出入り口から出た2人は指示されたとおり、右にある小さな建物で待機をしていた。自分のクラスがなんとなく分かっているセカイには、この待ち時間がただただ苦痛でしかなかった。
ガチャッという音と共に扉から人が入ってくる。
「お待たせしました。それではここに名前と能力名を記入してください」
そう言うと、正面に紙とペンが置かれる。
ーーーーーーー
セカイ=チータ
瞬間移動
ーーーーーーー
早めに書き終えたセカイは、横目にブランの紙を見る。
ーーーーーーー
ブラン=ウルーフ
光
ーーーーーーー
ブランの能力名は【光】か。確かに、ピカピカ、光り輝いてたしな。
ちなみに、僕のように盗み見る可能性も考えて、嘘は突き通しておいた。王国には、相手の能力を判定する一般的な方法は発見されていないため、嘘だとバレる心配はないだろう。可能性があるとするならば、ミュウだけだが……あいつは、他人にバラすようなことはしないだろう。
「はい、ありがとうございます。」
紙を受け取ると、内容を確認する。
え!?と驚き、ブランの方を見る。
「君、この能力名に嘘偽りはありませんか?」
「あぁ、そこに書かれてあることは真実だ。誓って、嘘など書いていない」
「そうですか、まさか2人も“万能”が……」
そう呟くと、鍵が渡される。
「それが寮の鍵となっています。なくさないように気をつけてお持ちください。荷物はお部屋の方へと移動させておきましたので」
紙を持ってそそくさと部屋を出ていく。
受け取った鍵にはE-38と書かれていた。




