7、分からない
呆然と立ち尽くす美結を置いて、崇仁は保健室を出ていった。
ドアの締まる音が響いて、美結はハッと我に返る。
「え?え?・・・・えぇ?」
膝から落ちるようにしてその場に座り込み、美結は顔を覆う。驚き過ぎて、涙は止まっていた。
(い、今のは・・・・?)
美結は胸の動悸を落ち着けようと、崇仁の言動を思い返していた。
一番最初も、ただ・・・興味本意で話し掛けてくれただけで。
だからもう私には興味も無くなって───・・・・
めんどくさくなったから“話し掛けてくるな”って言ったんだよね?
だから、“もう関わるな”って言ったんだよね?
さっきだって────。
『悪いけど、俺は友達にはなりたくない』
確かにそう、聞こえたのに。
────そう、言ったのに・・・?
混乱して、手が小刻みに震えた。その手でそっと自分の瞼に触れる。
(なのに────なんで、さっき・・・・・たっくん。)
美結は何度もあの瞼に触れた唇の感触を否定しようと考えを巡らす。だけどあのキスの意味が、どうしても理解出来なかった。
(“友達にはなりたくない”って────私はどうしたら・・・?)
関わりたくないという人に崇仁はどうしてあんなことをしたのか、美結は理解に苦しんだ。
だけど自分の口からその答えを聞く勇気なんてない。それどころかどんな理由であっても嬉しいとさえ、思ってしまっている。
(この気持ちはまだ・・・捨てなくてもいいの・・・?)
そう考えながら廊下の角を曲がると、前から走ってきたまりに遭遇した。
「あ、いたいた!」
まりが美結の姿を見つけて足を止める。
「美結、そろそろサッカー始まるけど観に行かないの?」
「あ、行く!」
急いでグラウンドへ向かおうとする美結のある異変に、まりが気付いた。
「あれ?美結、熱でもある?なんだか顔、赤くない?」
「え、いやこれはその、大丈夫何でもないの」
「・・・ふーん?」
隠し事が下手くそで思いきり分かりやすく慌てる美結の姿に、まりは保健室で何かあったのかな?とは思ったがそれ以上聞くのはやめた。
「比呂くん、応援しなきゃね!」
そう元気よく笑う美結に、まりは笑顔を返す。
「そうね、クラス違うけどね」




