↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
41/41

エピローグ 真実は一つじゃない (2)

『空とか星とか見てると、いろんなことが小さく思えてくるんだよね』――


 麻衣のあの言葉は、歪んだ関係に絡め取られ、息も絶え絶えだった彼女の、精一杯の救難信号だったのだろうか。


「俺が……それに、気づけなかった――」


 直斗は両手で顔を覆った。

 熱いものがこみ上げ、指の隙間からこぼれ落ちるのを、止められない。


 麻衣の悲鳴が、聞こえなかった。

 武の決死の覚悟も、知らなかった。

 自分はただ、呑気に星空を見上げていただけだった。


「先輩は自分を責めすぎです! 前も言ったかもだけど、事件が起きてしまったのは先輩のせいじゃないんですから」


 亜季の細い手が、そんな直斗の肩を、ぽん、と叩いた。


「……そうかな」


「そうですよ」


 きっぱりと、言い切る。

 その声には、姉への複雑な愛情と、目の前の不器用な直斗への、確かな優しさがこもっていた。


「ほら先輩、そんな暗い顔して落ち込まないで。過去ばっかり見てたら、お姉ちゃんと武先輩に、笑われますよ」


 顔を上げた直斗の前で、亜季が立ち上がりスカートの土を払った。

 そして、くるりと振り返ると、夏の太陽を背に、まばゆい笑顔を向けた。


「さて、元気を出すために」


「え?」


「私と、海でも行きますか。お姉ちゃんの代わりは、できないですけど」


「海……?」


 突然の提案に、直斗は少し面食らった。


「そう! 夏休み、まだ終わってないじゃないですか。……私の水着姿、めっちゃかわいいと思いますよ? 見ないと損ですよ?」


 亜季は胸を張り、自信満々に笑ってみせた。

 その純粋で、悪戯っぽくて、どこまでも健気な素顔から、直斗はなぜか目が離せなかった。


「……お前なあ」


 直斗は、涙の跡が残る顔で、ぷっと吹き出した。

 心の底にこびりついていた冷たい泥が、彼女の底抜けの明るさに、少しずつ洗い流されていくのを感じる。


 麻衣と武は、もういない。その喪失感は、きっと一生消えることはないだろう。

 それでも、残された自分たちは、生きていかなければならない。この先の、未来を――


「……しょうがないな。付き合ってやるよ」


「やった! じゃあ、約束ですよ!」


 亜季が、手を差し伸べる。

 直斗は一瞬迷ったが、すぐにその手を、しっかりと握った。


 二人は並んで、木漏れ日の差す秘密基地を後にする。

 背後では、直斗と麻衣、そして武の三人で作ったあの小屋が、あの石の塔が、夏の緑に深く埋もれようとしていた。


 幼い日の記憶を閉じ込めた森の王国は、やがて完全に朽ち果て、元の静かな森へと還っていくのだろう。


 高く澄み渡る夏空には、まだ何も見えない。

 けれど、夜になれば、あの空には無数の星が瞬く。

 風が吹き抜け、木々がざわめいた。


「先輩、早く!」


 いつの間にか先を駆けていた亜季が、振り返って大きく手を振る。

 直斗は迷うことなく光の差す方へ歩き出した。


                       ――おわり――

最後まで読んでいただき、本当にありがとうございました。

伏線はすべて回収してあると思いますが、どうでしょうか。

もしよろしければ、是非、評価や感想をお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。