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第23話 ヤベえアイデア

神殿にたどり着くまでには、衛兵の見込みよりちょい長くかかった――主に、休憩のせいだ。まあ、大半は俺が命じたモンだが、俺の従者がそれを伝えに行くと、赤毛はなぜか逆らわなかった。


片側は、完全に崩れ落ちてた。壁は左右に崩れ散って、屋根の代わりを務めてたのは、朽ちた木の廃材だ。正面の入り口は、扉の片方がもぎ取られて、もう片方は板でがっちり打ちつけてある。もう片側は、まだマシだった。壁は立ってて、小さめの脇の入り口は、直したばかりに見えた。


指示をくれる誰かのところへ行こうとしたが、その誰かのほうが、俺たちを見つけた。正確には、誰かが何人も、だ。鐘が規則正しく鳴って、脇の扉が全開になって、中から人がどっと溢れ出してきた。その姿に、楽観できる要素はなかった。服は、高い社会的地位の証拠にはならなかった――ボロボロで、何か赤いモンで汚れてる。今回は、剥げた塗料だと自分に言い聞かせようともしなかった。


その中に、いちばん小さい人影を見つけた。男の子だ。見た目、十歳ってとこか。人混みの中を歩いてたが、みんなから離れて、数メートル脇の木の下に座り込んだ。手に、何かの布の切れ端を握りしめてる。握りしめる力が強すぎて、指の関節が紫に近くなってた。俺自身を見てるみてえだった。誰か連れがいるのか確かめる暇はなかった。少し先で、緑の目玉をした小せえ黒い悪魔に、視線を持ってかれたからだ。柵の支柱の上に座って、壁から優に数歩は離れたところで――それ以上近づくのは割に合わねえ、みてえに――前足を舐めてた。


(絶対、同じヤツじゃねえ)


「ようこそ、素晴らしい皆さん!」


脇の扉のほうから、温かい声がした。声の主は、飾り気のない茶色のチュニックを着た年配の男だった――白髪で、背中が曲がってて、笑顔は永久に貼りつけてあるみてえに見えた。


「こんにちは。あなたが、ここの管理人ですか」


赤毛が聞いた。


「ええ、その通り! この神殿を預かっているのは、私です」


温かく微笑んだ。


「学院から、今日、手伝いをよこすと知らせがありましてな。さあ、こちらへ。私どもが何と格闘しているか、お見せしましょう」


手を振って、俺たちを脇の扉へ導いた。


中は、まるで話が違った。ナマダは、こんな贅沢を見るのは生まれて初めてだったらしい。数秒、敷居のところで凍りついたみてえに突っ立ってた。


背中を軽く押してやるって形の俺の手助けがあって、ようやくあいつにも分かったらしい。あいつみてえな田舎者でも、この敷居をまたいでいいんだ、ってことが。空間は、ほとんど完璧に保たれてた。壁は滑らかで、見事な絵が描いてある――年齢もバラバラの、五人ほどの人物だ――そして真ん中には、巨大な金の燭台。スクラップ屋に持ってきゃ一財産だ。ここじゃ、ただ腐らせてる。広間の奥にはデカい祭壇、その上に、革張りの分厚い本。祭壇の前には、四方をガラスで囲まれて、光を放つ金の杯が立ってた。


(こいつは、パクられたヤツ十個分は堅いな)


右側――崩れた側――は、少しだけ状態が悪かった。瓦礫に押し潰された壊れたベンチと、柱の一本に寄りかかってるおかげでかろうじて立ってる壁。


「俺は何をすりゃいい?」


管理人に聞いた。


「外の瓦礫を片付けないといけません。中も、まあ同じですが」


少し黙って、俺の前腕の包帯に視線を貼りつけた。それから、今気づいたが、胸のところに赤が滲み出してるチュニックにも。


「顔色がよくないな、お若いの」


「なんでもねえ……」


軽く笑ってみせた。


「もしお願いできるなら、中の瓦礫から書物を探してもらえますかな……たぶん、いちばん軽い仕事ですから……」


赤毛が、上目遣いに俺を睨んできた。


「バカは、運だけはいい……」


口の中で、ぼそりと吐いた。


「そちらのお若いのは、よければ外を手伝ってくださいな。力がありそうだ」


「もちろんです」


赤毛が、作り笑いで答えた。


「そして君は、ご主人のところへ……」


ナマダに目を向けてから、開いた手のひらで赤毛を示した。


「いや、こいつは俺の田舎者……じゃなくて、従者だ」


投げてやった。


「この赤毛は誰にも好かれてねえから、自分のがいねえんだよ」


また、笑ってやった。


「違う。誰もが金持ちのクソったれってわけじゃないだけだ」


出口へ向かいながら、こっちを振り向きもせずに赤毛が唸った。


「なるほど……」


ナマダをちらりと見た。


「では、書物探しは、彼に君を手伝ってもらいましょう。二人のほうが、はかどりますからな。私は、自分の用を片付けてきます。奥の部屋におりますので」


祭壇の右手のドアを、手で示した。


「ほら、あそこです! 困ったことがあれば、遠慮なく入ってきなさい」


少しして、ジイさんは本当にそのドアの向こうへ消えた。ナマダは瓦礫の間をせわしなく動き回って、しわくちゃの紙切れを掘り出しはじめた。古い習慣が、勝手に俺の代わりに見回りをやってくれた。脇の扉――使える入り口はここだけ。窓――高くて、狭い。奥の部屋――ジイさんが陣取ってる。ガラスケース――ガラスだけで、錠は見当たらねえ。視線は杯のところで見回りを終えて、そこから先へ動こうとしなかった。


「ナマダ」


あいつに近づいて、声を落とした。


「はい、ヤン様?」


手に持ってた全部を、ほとんど放り出しかけながら聞いてきた。


「そのゴミは置いとけ」


「で、でも、ゴミって……?」


「お前が拾ってるヤツだ。()()()アイデアがある」


ナマダが、深く息を吸った。両手が、自動的に腹の上へ向かった。


「は、はい? う、うかがいます……」


お読みいただき、ありがとうございます。

ブックマークや評価、ひとつひとつが本当に嬉しく、大きな励みになっています。

もっと面白い物語をお届けできるよう、これからも精進してまいります。

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