第二十六話 フィナーレ〜七人で歩む未来――【共通ルート最終話】
規則的な心電図の電子音が、静かな病室に小さく響いている。
まぶたの裏を満たしていた白い光がゆっくりと収束し、玲の意識は現実へと引き戻されていった。
ゆっくりと目を開ける。
視界に飛び込んできたのは、見慣れない病室の白い天井。
そして右手には、幾重にも重ねられた温かな手の感触があった。
「……ん……っ。」
かすかな声とともに玲が指先を動かすと、重ねられていた手に一瞬で緊張が走った。
「玲っ……!?」
真っ先に叫んだのは律だった。
涙で濡れた瞳を大きく見開き、玲の顔を覗き込む。
「あぁ……玲会長っ……!」
サクラがぼろぼろと大粒の涙をこぼしながら、ベッドの脇に膝をついた。
「如月……! お前、マジで……!」
豪が拳を握り締め、声を詰まらせる。
「会長……。」
その隣で凌も照れくさそうに、けれど心底ホッとしたように目元を拭っていた。
絢は静かに深く息を吐き出すと、目元を優しく和らげた。
「お帰りなさい、玲。」
「神……! お帰りなさい……!!」
ソノが胸の前で黒い端末を握りしめ、ボロボロと涙を流している。
六人全員の、必死で、それでも愛おしい笑顔。
玲は掠れた喉を小さく鳴らし、目元に涙を浮かべながら、優しく微笑んだ。
「みんな……ただいま。」
病室全体に、途方もない安堵と歓喜の息吹が満ちていく。
しばらくの間、無事の再会を噛みしめ合っていたが、やがて全員が玲の右手へと視線を向けた。
玲の手は、いまも何かを愛おしそうにぎゅっと握りしめている。
重ねられていたみんなの手が、ゆっくりと離れていった。
「……如月。」
豪が静かな声で呼ぶ。
「それ……お前が最後まで手放さなかったやつだな。」
サクラも、律も、絢も、凌も、ソノも――誰もが息を呑んで玲の手元を見つめていた。
自分が差し出したお守りかもしれない。
あるいは、他の誰かのものかもしれない。
けれど、もう誰もそれを責めたり、無理に奪おうとしたりはしなかった。
玲は瞳を揺らした。
あの時、このお守りを選んだ気持ちに嘘はない。
今だって、かけがえのないその人を大切に思ってる。けれど――。
玲はゆっくりと呼吸を整えると、右手のお守りをより固く握りしめた。
「みんな、ごめん……。」
息をのむ音が病室に落ちる。
「帰りのバスで、一つだけお守りを選んだ……。このお守りを選んだ自分の気持ちに嘘はないし、この人と未来を歩みたいって、今でもそう思ってる。」
玲はお守りを握った右手を、愛おしそうに見つめた。
「でも、今は……消えかけた私を、必死に連れ戻してくれたみんなに、感謝の気持ちを伝えたい……。」
玲は一度言葉を切り、深く息を吐き出した。
「あの『隔離空間』で消えそうになった時、あきらめずに連れ戻してくれて……ありがとう。」
アメジストの瞳から、ポロポロと綺麗な涙がこぼれ落ちる。
「命がけで手を伸ばして、もう一度『如月玲』にしてくれて……ありがとう。」
玲は涙を拭うと、一人ひとりの目をまっすぐに見つめた。
「だから……私に、もう少しだけ時間をくれないかな? みんなが命がけでくれたこの命と想いに、私は『如月玲』の全部で、ちゃんと一人ひとりと誠実に向き合って、自分の気持ちを伝えたいから。」
病室に静けさが訪れた。
けれど、それは気まずい沈黙ではなかった。
「……お前にそう頼まれたんじゃ、聞かない訳にいかないよな?」
沈黙を破ったのは豪だった。
豪快に笑いながら玲の頭をぐしゃぐしゃと撫で回す。
「いいぜ! いくらでも待ってやる。俺の気持ちは変わんねぇからな!」
「僕もです。」
絢が優しく目を細めた。
「あなたが悩み、考え抜いて出してくれる答えなら、僕はいくらでも待ちます。それに……返事を待つ時間は、さらに加点が狙えるチャンスでしょう? そういうの、得意ですから。」
絢がいつものように、余裕を湛えた極上の笑みを返す。
「ずるい! 俺だって……。」
律が玲の手をきゅっと強く握りしめる。
「玲が覚悟を決めて返事をくれるまで、もっと俺のこと好きにさせてみせるから!」
「私もっ!」
サクラが涙を拭い、強い意志を込めた瞳で微笑んだ。
「私も、待っているだけじゃダメなんだって分かったんです。玲会長に見てもらえるように、全力でアタックしますっ!」
「……こーいうのは、焦って結論出すもんじゃないだろ?」
凌は気まずそうにふいっと顔を背けると、首の後ろをかいた。
その耳たぶは、ほんのりと赤くなっている。
「……どこまでも誠実ですね。でも、そんな神だから……みんなから愛されるんです。」
ソノはそっと胸に手を当て、どこか誇らしげで、温かな笑顔を向けた。
六人の、それぞれに真っ直ぐで眩しい笑顔。
その温もりに包まれ、玲の胸はギュッと熱くなった。
その時――。
「……あっ!」
ソノが声を上げた。
手の中にあった黒い端末が、柔らかな光を放っている。
画面に流れる文字列が、次々と緑色の『SUCCESS』へと書き換わっていく。
『▶ バグデータ修正プログラム:完全消去』
『▶ 対象コード:REI-KISARAGI 存在認証完了』
「神……! 世界が……修正プログラムが、神の存在を完全に認めて上書きしたみたいです。」
ソノが感極まった声で叫ぶ。
「もう、神が『バグ』として消されることはありません! この世界で、ずっと……みんなと一緒に生きていけるんです!」
「本当……!?」
玲の瞳が輝く。
病室に、今日一番の歓声と笑顔が弾けた。
数日後――。
すっかり体調も回復し、病院を退院した玲は、いつもの校舎の階段を上っていた。
陽の光が差し込む廊下を進み、重厚な木製の扉の前に立つ。
『生徒会室』
深呼吸をひとつ。
玲はゆっくりと扉を開けた。
夕暮れの柔らかな光が、生徒会室いっぱいに差し込む。
窓から吹き込む風がカーテンを揺らし、机の上に積まれた書類をさらりと鳴らした。
「あっ! 玲会長、お疲れ様です!」
サクラがパッと花が咲いたような笑顔で駆け寄ってくる。
「玲、遅い〜! 早くゲームの続きやろうよ!」
ソファーから律が手を振る。
「如月。お前入院中、ずっと律に付き合わされてたんだって? 律、お前ちょっとは自重しろよ。」
豪が呆れたように声をかける。
「そうですよ、律。まずは仕事を終わらせましょう。」
絢が、ソファーにいる律を覗き込む。
「会長。……無理はしてねーだろうな? 仕事なら俺だってできるし……休める時は休めよ?」
窓辺で文庫本を開いていた凌が、ボソッと呟く。
「神。世界は今日も異常なしです!」
ソノがビシッと親指を立てる。
笑い声が重なり合う。
そんな何気ない時間が、今は何よりも愛おしかった。
玲は静かに胸元へ手を添える。
制服の内ポケットには、あの日最後まで握りしめていた、たった一つのお守り。
その温もりは、今も変わらず胸の奥で鼓動と重なっている。
(待ってて、ちゃんと伝えるから。あなたへの想いを――。)
玲はそっと微笑み、顔を上げた。
「みんな!」
六人が一斉にこちらを見る。
「さぁ――今日も生徒会、はじめよう!」
「おーーーーーー!!」
七人の声が、生徒会室いっぱいに響き渡った。
夕焼けに染まる学園。
バグによって狂い始めた世界は、七人の想いによって、ルールさえも未来ごと書き換えられた。
もう、誰かを縛る運命はない。
七人が歩む未来は、まだ始まったばかり。
本気で笑い、 本気で悩み、 本気で恋をする。
彼らの物語は、これからも続いていく――。
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【共通ルート クリア】
『七人で歩む未来――』
Thank you for playing.
Next Route――
Choose Your Story.
(次回より、各キャラ個別ルートへ――)
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ここまでお読みいただき、本当にありがとうございました!
共通ルートのグランドフィナーレを迎えることができました。
次回(第61話〜)からは、各キャラクターとの【個別ルート(マルチエンディング)編】へと突入します!
修学旅行の帰りのバスで、玲がぎゅっと握りしめていた「あのお守り」の答え――。
あなたの「推し」と一緒に、玲が踏み出す新たな一歩をぜひ見届けてください!




