01 意味のない問いかけ
どうして彼女は最悪と謳われたのか。
素朴な魔女であった。
小さな森の魔女であった。
一体誰が彼女を最悪へと変貌させてしまったのか。
一体どんな出来事があって彼女は歪んでしまったのか。
一体どうして彼女はそれでもなお微笑んでいるのか。
「どうしたの?」
鈴の音のような声が問いかける。
そして不思議そうに首を傾げ、大きなつば付きの黒い三角帽子が少しだけ傾く。その下に隠れている小麦色の癖っ毛だらけの髪がひょこり、と姿を見せた。
特徴的な二つのおさげが消え、短くなっていた。残念だと思うと同時、その姿も良く似合うと思ってしまった。
「遊ばないの?」
まん丸の柔らかな若草色の瞳が、青の瞳を覗き込む。
答える代わりに、喘ぐような声が漏れた。
声を発することすら痛みにが伴うほどだったからだ。無様にも片膝を付き、全身血に濡れ、ぽたりぽたりと鮮血が足元を濡らしていく。美しいと褒めてくれた、この灰混じりの銀の髪はきっと薄汚れてしまっているだろう。
意識を保ち、歯を食いしばりながら見上げることすらやっとだというのに、彼女は何一つ分からないように問うのだ。
「あ、そっか。そうよね。そのままだとお話出来ないものね」
そう言って彼女は両手で無骨な樹木の太い杖を振りかざし、朝日のような光を降らせる。
光はすぐに体へと入り込み、ようやく痛みが和らいだ。
そこでようやく大きく息を吸い込み、吠えるように言葉を放った。
「何故! どうして裏切ったんだ! グレイス!」
その彼女、グレイスはきょとり、と何度か目を瞬かせる。今度は反対側へと大きく首を傾けた。そして変わらない、木漏れ日のような微笑みを浮かべた。
「ふふっ。どうしてだと思う? ゼイン」
変わらない。本当に、あの頃と一切変わらないその声に、問い。
ゼインは呼吸すら難しくなるほどに、胸が強く締め付けられた。しかしだからといって、呆然としてはいられなかった。
刃を食いしばり、無惨にも折れてしまった剣を捨て、ゼインはグレイスへと手を向ける。
グレイスはすかさずに杖を持ち直し、小さくそして素早く詠唱を始める。
もちろんゼインはグレイスがすぐに反応をすることぐらい分かっていた。だから迷わずに、足に力を込め大きく前へと跳んだ。
「えっ?!」
さすがにこれについては予想はしていなかったらしく、グレイスは素っ頓狂な声をあげた。
ああ、驚かせることが出来た。
なんて、つい弾みそうになる気持ちを抱きながら、ゼインはグレイスの小さな体を抱きしめた。




