第4話 選ばれた理由
第4話
選ばれた理由
静かな午後。
蓮の入れた紅茶を飲みながら過ごす時間。
カーテンの隙間から差し込む光は柔らかく、いつもと変わらないはずなのに、どこか違って感じる。
何が違うのか、うまく言葉に出来ない。
ただ、確かに。
この場所は、もう“安全な日常”ではないのだと、---もう、戻れないのだと。
テーブルの上に置かれた本を開く。
文字を追っているはずなのに、内容はほとんど頭に入ってこない。
ページをめくる指先だけが、やけに静かに動いていた。
――視線を感じる。
顔を上げると、蒼真がこちらを見ていた。
「……どうした?」
いつもと変わらない声。
でも、その奥にあるものが、ほんの少しだけ違う気がした。
「いえ……なんでもないです」
そう答えながら、本を閉じる。
本当は、“なんでもなくない”。
先日のことが、ずっと頭から離れない。
あの音。
あの気配。
そして――
「陽葵様は、狙われています」
蓮の言葉が、何度も胸の奥で繰り返される。
私は、ゆっくりと息を吸った。
聞かなければいけない。
このまま、何も知らないままではいられない。
「……蒼真さん」
「ん?」
少しだけ迷ってから、口を開く。
「どうして、私なんですか」
静かな部屋に、その言葉だけが落ちた。
「俺も知らないんだ。蓮は知ってるんじゃないのか?」
奥の机で書類を書いている蓮へ蒼真は声をかける。
「実は…守護対象に選ばれているが、その詳細内容が資料にも記載されていなかった。記載漏れかと藤堂に確認も取ったが、上からコレでいいと言われたと…」
蓮も何か引っかかりがあるという顔をしているが、嘘ではないことが分かる。
「だが、これだけは言える。陽葵様は特別な存在だと」
そう話す蓮の目は真っ直ぐに私に向けられる。
強い…力強い眼差し。
私はこの力強い眼差しを知っている気がする…。
「…まぁ、天音の決定だし。さて、俺ちょっと出てくるわ」
「どこに行く、またサボるのか」
「ちょっと、そこまで〜」と走り去る蒼真。
私はいつも2人の掛け合いが好きで笑ってしまう。
このままいつもと変わらない日常が
戻って来てくれたらいいのにと願ってしまう。
—結誓連盟 総隊長室
「橘さーん」
いきなり名前を呼ばれ驚いたが
ノックもせずに入ってくるやつは1人しか居ない。
「珍しいな、蒼真」
「まぁな。でさ、サクッと本題なんだけど、なんで陽葵は守護対象に選ばれたんだ?蓮も知らないって…あんたなら知ってんだろ」
こいつは年上相手でも容赦なくズバっと物を言う。
嘘、誤魔化しが嫌いな奴だ。
「すまんが俺も詳しくは聞いていない」
嘘はない。
総隊長である俺ですら教えられていない情報がある。
陽葵様の守護対象となり得るものも
陽葵様を狙っているものも。
「は?何それ」
頭をガシガシと掻き、あいつか。と呟く蒼真。
「天音は?どこにいる?」
「天音様は今日は外出されている」
「んだょ、タイミング悪ぃ。…邪魔したわ」
嵐のよう現れ、去っていく蒼真。
—-まだその真実は神代 天音しか知らない。
—一ノ瀬邸
蒼真が帰って来た。
何かイライラしているようだ。
恐らく向かったのは連盟だろう。
気になる事はすぐに確認したくなる、それが蒼真だ。
「どうだった」
「収穫なし」
と、ぶっきらぼうに答えると蒼真はソファーに寝そべる。
「だがな、守る事には変わりねぇよ。陽葵は守る、それだけだ」
「同感だ」
俺も今回の件には違和感がある。
守護対象目的は今まで必ず資料に記載があった。
それが意図的に上で止められている。
橘さんじゃない…天音さんだろう。
恐らく、蒼真が話してきたのは橘さんだ。
天音さんとは会えなかったのか…。
敵も目的も分からない。
だが、守ると決めた以上、俺も蒼真も守り抜く。
ただ、それだけだ。
—その決意を、誰かがどこかで見ていた。




