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エピローグ とある国家公務員の奮闘

これにて第三章完結となります。

ここまでが第一部魔法少女との出会い編ですので、

明日以降第二部をお届けする予定です。


ストーリーとしては一区切りつきましたので、

このタイミングで評価いただけたら嬉しいです。


魔法少女の存在が公のものとなり、内閣府特殊事案捜査局、通称特捜局の初代局長に俺が任命されてから一週間が過ぎた。


朝枕から頭を上げると枕カバーに使っているバスタオルに大量の抜け毛が散見される毎日、ストレスフル過ぎて頭がどうにかなってしまいそうだ。


後何年か捜査員を続けて、引退したら田舎の駐在のお巡りさんとして定年までのんびり勤め上げ、退職後は畑でも耕して余生を送ろうと密かに計画していた俺のプランが根底からぶっ壊されちゃったよ!


おかしいだろ、高々地方支部の現場の長だった俺が新設とは言え内閣直轄の組織のトップだよ?毎日毎日総理やら大臣やら高級官僚やらと面会して無理難題を押し付けられる毎日ですよ、そりゃ禿げるわ。ふざけんな!


その無理難題の中でも一番重たいのが、香苗ちゃんと絵梨花ちゃんの正体を公表して特捜局の捜査員として管理するべきだって意見だな。正直気持ちはわかる。あれだけの力を持った個人を野放しにする危険性は重々承知の上だ。絶対に無いと思うが、あの二人がもし日本政府に逆らうつもりなら、今の日本を動かす政治家と各省庁のトップは数日以内にその命を散らすだろう。それを防ぐ術は、この国の警察も自衛隊も持っていない。ただただ無残な蹂躙劇が幕を開ける。


気持ちは理解できるし、現状の日本の治安と国民の安寧を守る事を考えたら必要な事かもしれないが、それは絶対に無理な話だ。


彼女たちの実質的な保護者であり、彼女たちに魔法を教えた人物、M県S市泉区に店を構えるカフェリトルウィッチのオーナー黒川真一が、日本政府に対して突き付けた協力するに当たっての条件が魔法少女の正体の公表を阻んでいた。


『俺たちは日本政府に協力するが、もし俺たちの素性がマスコミや外部に漏れた場合、協力の一切を打ち切って俺たちはアメリカに亡命する。ああ、それだけじゃないぞ、もし国として俺たちの行動に少しでも制限を加えようとした場合、俺は日本の敵に回る。それから俺たちへのコンタクトは全て蔵王のおっさんを通してくれ、それ以外からの連絡は受け付けないからな。以上だ』


この黒川君が日本政府に突きつけた至極シンプルな要求、黒川談話を受け取った各省庁の大臣や高級官僚は激怒した。中には怒りの余りに卒倒した高齢の大臣もいたらしい。


「香苗ちゃんや絵梨花ちゃんの生活を守ろうと思えば至極当然な要求だと思うが、それを飲み込めるほど日本の政治家って奴は高潔じゃないんだよな…」

「なんて危なっかしい独り言言ってるんですか課長。そんなの誰かに聞かれたら洒落にならないですよ?」


お茶を注ぎながら米山祥子情報分析官が苦言を呈する。彼女も俺の局長就任に伴って、特殊事案捜査局筆頭秘書官の肩書きを貰い大きく昇進を果たしていた。


「構わん構わん。どうせ局の庁舎も準備が間に合ってなくて暫くはM県警本部に仮住まいのままなんだ。わざわざ東北まで来て俺の独り言を聞くような暇な大臣や官僚なんぞいないさ」

「だからって、課長は今や内閣直轄の司法機関のトップなんですよ?もう少し自分の発言に責任を持ってくださいね?」

「そんな事言ったら、お前だって筆頭秘書官様だろ?年収だって跳ね上がったんじゃ無いのか?」

「課長のお守りが仕事みたいなもんですから、幾ら貰っても割りに合いませんって」


そう言いつつもニヤニヤする米山。

確かに有り得ない昇進だったよなあ、怪異対策室の課長だってかなりの高待遇だったけど、今じゃその二倍だもんな。何処から聞きつけたのか知らんが、俺の事なんか見向きもしなかった同級生の女やら、大学で一緒だったとか言う顔も覚えてないような女とか、県警の受付にいる綺麗どころの姉ちゃんやらから遠回しなアプローチが続いていた。


「禿げがモテる時代が来るとはねぇ…」


広くなった額をピシャリと叩いて立ち上がると、カフェリトルウィッチに向かうために席を立った。時計を見れば午後一時を回ろうとしている、日課になっている黒川君との密談の時間だ。


「それじゃちょっと出てくる。各省庁の大臣連中から連絡が入ったら、用があるならM県まで来いって言って電話切っていいからな。」

「はーい。行ってらっしゃ〜い」


気の抜けた米山の返事を背に執務室を出る。

今日もタフな交渉になりそうだぜ。


***


「よぉ、おっさん。また禿げたか?」


カウンターの中からまだ青年の面影を残した、目付きの悪い男が言った。


「誰かさんのせいで面倒な仕事を押し付けられたからな。毎朝枕に付いた抜け毛を数えるのが怖くてたまらんよ」


黒川真一は今年で三十になるはずだが、まだ二十代前半で通りそうな若々しい見た目をしている。以前レオンハルトが言っていたが、高度な身体強化魔法を常用している魔術師は老化が遅い傾向にあり、伝説に残るような大魔法使いは四百年生きたって記録もあるらしい。


「へっ、この間来た時は若い子からモテてモテて敵わんって自慢気に言ってたくせによ。で、今日は何の用だい?今をときめく特捜局の局長様が、暇潰しにコーヒー飲みに来たって訳でも無いんだろ?」

「ああ、捜査員の増員計画でちょっとな」


現在、魔獣や怪異の討伐及び能力者の犯罪事件に対処できる捜査員は日本全国に五十人足らずしか存在していない。勿論元々怪異と対峙してきた仏教寺院の某禅宗の修行僧は数百名規模で存在するが、それぞれが普段は寺で住職の仕事をしており、余程の事が無い限り協力を要請する事は難しい。そこで特捜局設立に伴って捜査員の増員と訓練を黒川君に依頼する事にしたのだ。


「前に言っていた現捜査員への追加訓練と、新人育成だがな、ちょっと早まる可能性が出てきた。申し訳ないんだが来週あたり一緒に東京まで行ってくれないか?」

「俺は構わないよ。店はミァとよし江に任せられるし、魔獣や怪異が出ても香苗ちゃんと絵梨花ちゃんがいれば問題無いしね」


現に今では東北六県の平和は香苗ちゃんと絵梨花ちゃんの二人で守っていると言っても過言では無かった。米山情報分析官の探知魔法で怪異の出現を察知し、二人が現地へ向かって討伐する。殆どの怪異が一分持たずに討伐される為、香苗ちゃんと絵梨花ちゃん、ワイルドブラッド兄弟の四人としては特捜局の予算で東北旅行を楽しんでいる気分だろう。先日は「そろそろ夏だから海の近くに魔獣が湧いてくれないかしら?」などと言っていたくらいだ。


余りにも二人が優秀過ぎた為、本吉捜査員は暇にあかせて元々の夢だった服飾デザイナーの勉強がてらに魔法少女の新コスチュームのデザインに没頭しているし、定年後に再雇用されて捜査員になった栗原翁は孫との久しぶりの触れ合いを楽しんでいた。


「それじゃ来週の月曜から一週間、長くても十日くらいになるが、同行よろしく」


黒川君にそう告げて席を立とうとした所で携帯が鳴った。着信元は対策室の固定電話。嫌な予感がするな…


「はい蔵王。米山か?」


こう言う時の嫌な予感なんてのは概ね当たるものだ。


『課長…総理が明日対策室を訪問されるそうです……』


ここまで読んでいただいてありがとうございました。

長く続けて行きたい作品ですので、気に入ってもらえたら是非何らかのアクションをお願いします。

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