第十四話 とある使い魔と少女の昔の夢
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「私、捜査員になる前は服飾関係の仕事に就きたかったのよね」
カウンター裏に積んであったチラシの裏にデザイン画を描きながら本吉三雲はそう言って笑った。
「うわ、みくちゃん凄い上手じゃない。そこはフリルを追加して…」
「私は全体的に白主体がいいですね」
香苗ちゃんと絵梨花ちゃんの注文を聞きながらデザインを起こしていく本吉さん。正直舐めてました。いや、これ仕事にできるんじゃないの?
小一時間で仕上がったデザイン画は香苗ちゃんと絵梨花ちゃんを納得させるものだった。同じデザインのメイド服に似たワンピースタイプの衣装、カラーリングは香苗ちゃんが白主体で絵梨花ちゃんは黒主体だ。
「ざっとこんなもんね。後は怪異対策室の装備を作って貰ってる業者に発注しておけば数日で出来上がると思うわ」
「これだけ出来るんなら、捜査員になったからってデザイナーの夢諦めなくても良いんじゃないか?」
俺の言葉に本吉さんは少し悲しそうに目を伏せる。
「怪異対策室の捜査員は全国的に見ても少ないしね、私みたいな高校生を雇ってるくらいだもん、今更辞めれないわ。それに自分の故郷を守る仕事ってのも悪く無いし」
「本吉さんが高校卒業するまで一年半くらいか、今蔵王のおっさんから捜査員の教育について相談受けてるんだが、その頃には結果が出てるかもしれないな。」
「優しいのね、マスターって。期待しないで待ってるわ」
未来ある若者が魔獣駆除とか能力者犯罪の取り締まりなんて泥臭い仕事をする事はないよ。そんなん頭も悪くてコネもない冒険者がする仕事だからな。どっかのライオン兄弟とかな。
おっと、本吉さんに優しい言葉をかけただけで香苗ちゃんと絵梨花ちゃんがジト目でこっちを見てるぜ。君らももうちょっとお兄さんに優しくしたら良いと思うよ?
「んじゃ素材にはコレを使ってくれよ。二人の衣装作っても結構余ると思うから、残りは本吉さんの装備にでも使って良いよ」
そう言ってアイテムボックスからドラム缶サイズの糸巻きに巻かれた白い糸を取り出して本吉さんの横に置く。
「マスター、これは?」
「アラクネの糸だ、伸縮性が高く、魔力を流すとその部分だけダイヤモンドばりに固くなる。これで服を作ったり既存の服に編み込むだけでも魔法防御、物理防御どちらもかなり高い装備になるだろ」
「オーパーツじゃないですか、こんなの化学研究企業とか繊維素材系の企業に売ったら一生遊んで暮らせますよ!?」
確かにそうかもしれないけどさ、向こうの世界でしか手に入らない素材をいくら研究したって再現できるわけでもないし、研究者さんたちの貴重な時間を無駄に使わせる訳にもいかないからね、だから俺は身内に提供はするけど、異世界由来の品物を売る気は無いんだ。
「あんまり目立ちたくないし、企業とか研究所から狙われたくも無いから、余った分は本吉さんが使うかもしくは処分しといてね」
「処分って…あ、ありがたく使わせてもらいます…」
よし、これで出来上がりを待つだけだな。
あとは魔法少女ならステッキ的な奴もあった方が良いよなあ…
「確かあったと思うんだよね、増幅媒体に使う杖…」
四次元ポケットを漁る某青いタヌキのようにアイテムボックスの中をゴソゴソやっていると、奥の方にお目当ての杖が二本入っていた。お誂え向きに青と紫の宝石が嵌っているシンプルな木の杖だ。長さは五十センチ前後、ステッキにしては短いが魔法の増幅用の媒体だしこれで良いだろ。サイズ感も魔法少女っぽい。昔体操のバトン持ってる魔法少女いたよね、あんな感じ。
「それからこれは俺からのプレゼントだ。青い宝石が嵌ってるステッキは香苗ちゃんに、紫が絵梨花ちゃんのだ」
「うわー、お兄さんありがとうございます」
「真一の癖に気が効くじゃない。」
「魔法の威力を増幅してくれる。魔法を使う時は魔力の流れを杖に向けてから、杖の先から魔法を発動させるイメージで使ってみな。それから、これは本吉さんに」
せっかくだし、最近付与魔法を覚えた本吉さんにも何か用意してあげたくなって、アイテムボックスに死蔵されていた大型のナイフを取り出すとカウンターの上に乗せた。
「ククリナイフですか?」
「ああ、向こうの世界でドワーフの鍛冶屋と知り合う機会があってさ、魔法の浸透性が高い金属を分けてもらって打ってみたんだ。素人の作ったナイフだから、ナイフとしてそのまま使ったら切れ味良くないけど、魔力付与すりゃ高位魔術師の防御障壁でもバターみたいに切り裂けると思う」
それまで興味無さそうにコーヒー飲んでテレビ見てたくせに、俺の台詞を聞いたとたんレオが口を挟んできた。
「その素材…まさかとは思うが…」
「ミスリルだよ。まあ良くある魔法金属じゃねえか。安い安い」
「バカ言うな。そのナイフ作れる量のミスリルなんざ金貨百枚はするだろうに」
「素材だけで…いっせんまん…」
レオめ、余計なこと言いやがって。本吉さんが固まっちまったじゃねえか。更にはよし江からの追撃が…
「多分こっちの世界で売ったらそのナイフ一本で数億はいくんじゃないかしら?店長は本吉さんに気でもあるんですか?随分高価なプレゼントですね、妻である私には何も買ってくれないのに…」
「そんなんじゃねーよ。子供を戦場に出したく無いって言って、二人が魔法少女になるのに最後まで反対したのが本吉さんだろ?そんな本吉さんも俺から見たら高校生の子供なんだよ。だったらちょっとでも危険が少なくなるように武器と防具は良いモン使わせてやりたいだろうが」
まあ、この手のアイテムは腐る程アイテムボックスに塩漬けになってるし、そのうち中身の整理がてら全部出して並べてみるか。その時によし江が欲しいってもんがあればあげても良いしな。
「そんな訳だからさ、本吉さんも遠慮しないで使ってくれよ」
「本吉さんじゃなくて…三雲って呼んでください………」
頬を染めてそんな事を呟く女子高生に、店内の空気が一瞬で固まる。
「また真一のタラシの犠牲者が出たわね」
「お兄さん、誰にでも優しくするのは美徳だと思いますが、これ以上お兄さんの周りに女の人が増えるのはどうかと思います」
「シン兄ちゃんはモテモテだニャ〜」
「店長、私と言うものがありながら!やっぱり女子高生が好きなんですか?女子高生ブランドには勝てないんですか!?」
助けを求めるようにカウンター席の端に目をやったが、すでにレオは逃亡した後だった。あのクソライオン覚えとけ。
「みんなコーヒーでも飲んで少し落ち着こうか、ほら、本吉さんも…」
「三雲って呼んでくれないんですか?」
「………三雲さん」
「………」
「………三雲」
「なんですか?真一さん」
あー、店内の温度が五度は下がってるわー。
こうして俺の店に常連の女子高生が一人増えた。
その後、口も聞いてくれなくなった香苗ちゃんと絵梨花ちゃんの機嫌が治ったのは、魔法少女のコスチュームが届いた三日後の事だった。
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