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第一話 とある使い魔の開店準備

やっと魔法少女編スタートです。


結果的に松島組と菱山組の抗争に介入する事になった俺が、その報酬として受け取った喫茶店は泉区の商店街の外れにあった。


以前は老夫婦が長年経営していた落ち着いた喫茶店だったらしく、内装も丁寧に使われていたようで、特に改装もせずにそのまま使えそうだ。


飲食店経営に必要な食品衛生責任者の資格は講習受講済みで、あとは交付処理待ちの段階。


オープン前の店内で窓際の席に座ってコーヒーを飲む。美味い。無職脱出に乾杯。


カランカラン


最高の気分でコーヒー(原価七十八円)の香りを楽しんでいたところに唐突に鳴り響くドアベルの音。


「店長、買い出し行って来ました〜。あっ、何一人でサボってるんですか?厨房の掃除終わったんですか?」


あー、うるさいうるさい。

俺の優雅なコーヒータイムを台無しにしやがって。


真っ白いワイシャツに黒のスラックスの上からエプロンを付けた店員スタイルの丸森よし江。

俺が菱山組を潰しちゃったおかげで仕事を失い立派な無職に転生した貧乳吸血鬼です。ちょっと前までは菱山組から仕事請け負って対立組織のヤクザからエナジードレインで生気を吸う簡単なお仕事を生業としていた害獣ですよ。本当なら討伐してやりたかったけど、女を殴るのは俺の趣味じゃないし、こっちの世界で吸血鬼討伐してもギルドから討伐報酬が出る訳でも無いから見逃したんだけど、仕事が無くなったのは俺のせいだから何とかしろって捩じ込まれてウエイトレスとして雇う事にしたんだよね。


「店を開けるのは来週からだし、そんなに焦っても仕方ねえだろ。お前もコーヒーでも飲んで落ち着け」

「私カフェ店員って憧れてたんですよね、何かお洒落な感じするじゃないですか。あ、コーヒーいただきますね」

「何がお洒落だ、田舎者の癖に。お前はカフェ店員じゃなくて茶店の丁稚奉公の類だからな」

「田舎者は関係ないじゃないですか!Y県民馬鹿にしてるんですか!?店長だってヤクザマネーでこの喫茶店経営する反社会勢力密接交際者芸人の癖に!」

「やかましい。お前こそ反社を襲ってリアル食い物にしてたじゃねえか!」


過去を持ち出されると弱いようでよし江がみるみる勢いを失っていく。


「仕方ないじゃないですか、世の中不景気で大学出てもマトモな就職先も無かったんですから。」

「人間様の社会の景気の良し悪しに吸血鬼が左右されてんじゃないよ」

「大学出てプラプラしてるなら実家継いで米農家やれってお父さんはうるさいし、お母さんは結婚はまだか?ってプレッシャーかけてくるし…今更米農家なんて継いでも減反政策とか出荷調整とかでホント大変なんですよ?」

「知らねえよ、そもそも吸血鬼が健康的に米農家やってる姿が想像できねえわ。お前ら夜の王族とか言われて恐れられてた種族だろうが。なんでお日様の下で米育ててんだよ、人間襲って血でもなんでも吸って自由に生きれば良いじゃねえか」


まったくどうなってやがる。向こうの世界じゃ吸血鬼と言えば一晩で大都市を滅ぼし、人間の何十倍もの魔力を持ち、際限なく眷属を増やす災厄みたいな存在だったってのに。


「店長そう言えば菱山組のお爺ちゃん脅していっぱいお金持ってるんですよね?どうせ店長なんて女の子が寄り付かない寂しい生活してるんでしょうし、私が結婚してあげてもいいですよ?」

「御免だね。何が悲しくてお前みたいな理系の男子大学生ボディーを持ったポンコツ吸血鬼を嫁にしなきゃならんのだ。そもそもお前完璧に金目当てじゃねえか」

「そんな事言わないでくださいよ店長〜、ちなみに今いくら持ってるんです?私の時給も期待しても良いんですよね?」


急にシナを作って猫撫で声になるよし江にウンザリしながら俺は宣言した。


「俺が幾ら金を持ってようがお前の時給には反映されないだろ。ちなみにお前の時給はM県の最低賃金と同額だからな。たしか八百五十円くらいだっけか」

「ちょ、待ってくださいよ。それ生きていけませんって。せめて二千円は無いと…」

「何を舐めた事言ってやがる。俺がサラリーマンやってた頃でも時給換算したら二千円とか行かなかったぞ!田舎のキャバクラの絶妙に人気が無いナンバーつかない程度の嬢の時給くらいだろそれ」

「女の子は色々お金かかるんですよ?これだからモテない男はダメなんですよね。」


あー、それ絶対言っちゃダメなやつ。

もうこの吸血鬼、始末しちゃおうかな。

でも待てよ?吸血鬼と言えば…


「わかった、時給なんてケチくさい事は言わない。月給三十二万でどうだ?時給二千円の百六十時間換算だ。もちろん有給休暇も付けるし業績が良ければボーナスも出す。バイトじゃなくて正社員として雇ってやるよ」

「何ですかそれ、話が美味すぎて怪しいなんてもんじゃないですよ?はっ、まさか私の身体が狙いなんじゃ…」

「まあ、間違いでは無いな。たっぷり可愛がってやるからよ」


涙を浮かべて肩を震わせるよし江に近づいてエプロンを外す。意を決したようにギュッとつぶった目に嗜虐心を掻き立てられた。


「あの…私男の人と付き合った事なくて…その………優しくしてください…」


***


西陽の刺す窓際のソファーで、二メートル近い巨大な黒い犬がビクビクと身体を痙攣させている。ボルゾイに似たウルフハウンド種で艶々した長めの毛並みが柔らかく最高の手触りだった。


「うぅ…もうお嫁に行けません…」


吸血鬼と言えば犬か狼、または蝙蝠に変身出来るものと相場が決まっている。何を隠そう俺は大の犬好きでな、わんわんを毎日モフモフできるなら少しばかりの給料アップなんか屁でもないね。


「もうさ、お前人間の姿に戻らなくて良いよ。ずっとそのままでいれば良いじゃない。そんでウチの店の看板犬としてやって行けば良いと思うよ」


言いながらよし江(犬モード)の腹を掻いてやると、尻尾をパタパタ振って涎を垂らし始めた。ふっふっふ、愛いやつよのう。


カランカラン


「あっ、わんわんだ」

「ホントね、狼犬かしら。ちょっと真一、触っても良いわよね?触るわよ?でも噛まれないかしら…」


あー、香苗ちゃんと絵梨花ちゃんが学校終わって帰って来ちゃったよ。おいよし江、バレるんじゃないぞ。


「知り合いの犬をちょっと預かっててね、人に慣れてるから噛まないと思うけどあんまり虐めるんじゃないぞ」


恨めしそうな目でこちらを見るよし江(犬モード)の視線を振り切って、俺は香苗ちゃんと絵梨花ちゃんに出す飲み物を用意しに厨房に入った。すまんよし江、お前の尊い犠牲を俺は忘れない。


その後二人が飽きるまでオモチャにされたよし江が解放されたのは、日も暮れて香澄ママが二人を迎えに来た頃の事だった。


「くぅ〜ん…」


***


そんなこんなで開店準備は順調に進み、喫茶店『リトルウィッチ』はオープンした。大きな黒い犬がお出迎えしてくれる喫茶店と言う噂が口コミで広がり、オープンから十日経ったが客足は途切れる事なく繁盛していた。


ちなみに店名のリトルウィッチは絵梨花ちゃんが付けた。


「いやー、よし江様々だわ。看板犬のいる店って泉区のタウン情報誌にも載っちゃったし、お前才能あるよ、カフェ店員の」

「お利口な犬の振りして愛想を振り撒くのはカフェ店員の仕事じゃないと思うんですけどね…」


昼の混雑する時間帯をいくらか過ぎ、ちょうど店内にお客さんはいないので、犬モードのよし江と昼休憩タイムだ。


「お前もそんなこと言って、楽しんでるじゃねえか。休憩時は俺の膝の上にずっと乗ってるし」

「そ、そんな事ないですよ、あっ、またそんなとこ掻い掻いして。やめてください。わふーん」


よし江を撫でていると、店の入り口に立つ人影が見えた。今は休憩中の札を下げていたはずだが…


「ごめんください。警察の者ですが、こちらは黒川真一さんの経営する喫茶店でよろしかったでしょうか?」


そう言って入り口のドアを開けたのは四十代半ばくらいの草臥れたスーツを来た中年男だった。軽く後ろに撫で付けた頭髪は若干後退気味で日々の苦労を感じさせる


「はい、俺が黒川ですが…警察が何の御用でしょうか?」


やべーよ、ヤクザしばいて喫茶店手に入れたり、税金のかからない大金せしめたりしたのがバレたか?


冷や汗ダラダラ垂らしながらよし江の方を見ると、自分もヤクザ襲って生気吸ってた後ろ暗い過去がある為か、完全に犬の振りをしている。


「私こう言う者でして、今回お訪ねしたのはこちらのお店によく見えられる松島絵梨花さんと岩沼香苗さんについてお話を聞きたくてですね…」


そう言って男が差し出した名刺には、

警視庁怪異対策室東北支部第二課長

警視 蔵王鋼太郎と印字されていた。


その見慣れない肩書きに俺が目をパチクリさせていると蔵王警視は恥ずかしそうに笑いながら言った。


「平たく言えば妖怪退治の専門家ですよ」


こんにちは。シモヘイです。

閲覧ありがとうございました。

今日は三件も感想いただいて嬉しくて急ぎで一本仕上げてしまいました。


感想やコメントには順次返信させていただきます。

引き続き評価、ブクマを宜しくお願い致します。

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