エピローグ とある会長令嬢の感謝
小学三年生の春休みが終わるのと同時に、おじさんが家に来なくなったわ。
一番の親友の香苗が好きな人、らしい。
最初に見た時は目付きが悪いだけの頼りないおじさんだと思ってたけど、魔法が使えるのよね。魔法なんてお話の中だけの事だと思ってたけど、実在したなんてね。でもこれで魔法少女になるって言う絵梨花の野望に一歩近づいたわ。
春休みが終わって四年生になって三日目、いつもの学校のいつもの教室、いつもの退屈な授業だと思ってたけど、この日だけは違った。
絵梨花と香苗だけを残して周り全ての時間が止まったような、いえ、違うわ。周りと絵梨花たち二人の間に干渉出来ない膜が貼られた様な感覚。
「お前たちには恨みはないが、黒川真一に苦痛と後悔を与える為に協力してもらおう」
突然教室に現れたその陰気な顔をした男が言った。周りの生徒には見えていないみたい。誰も気にもせずに授業を受けているもの。
「声を出しても無駄だ。お前たちの周りの空間を切り離させて貰った。他の無関係な生徒に犠牲を出したくなければ着いて来て貰おうか」
男が言うや否や香苗が前に突き出した手から水が勢い良く放たれて男に襲いかかる。昨日香苗が練習していた魔法ね、ダイヤモンドの加工に使われる高圧ウォータージェットを再現したと香苗は言っていた。
「小癪な真似を」
男が軽く飛び上がって香苗の水魔法を躱す。その背中にはコウモリに似た黒い翼が生えていた。コイツがおじさんが一人だけ取り逃したって言ってた悪魔ね。
「はあっ!」
身体強化魔法をフルに使って一気に間合いを詰めて、着地しようとしている悪魔に前蹴りを繰り出す。
「がっ、このクソガキ…」
お腹を蹴られた悪魔が教室の黒板に激突して黒板が大きくひび割れた。周りのみんなは急に割れた黒板に吃驚してるみたいだけど、絵梨花と香苗が悪魔と戦っているのには気がつかないみたい。
香苗と視線を交差させて二人同時に教室を飛び出すと悪魔が追って来たわ。そのまま階段を駆け上がって屋上に出る。
「手こずらせやがって、少しは魔法の心得があるようだが、これは躱せまい」
悪魔がこっちに向けた掌からサッカーボール大の火の玉が飛び出した。幾つかは香苗が水魔法を当てて相殺したけど、そのうち一つが絵梨花の目の前まで迫って来ている。
「絵梨花ちゃん危ない!」
ギリギリまで迫った火の玉に、咄嗟に目をつぶってしまった。けど、遅れてやってくるはずの痛みも熱さも無かった。
「大丈夫か?絵梨花ちゃん」
恐る恐る目を開けてみると、おじさんの顔が目の前に。抱き抱えるようにして悪魔の放った火の玉から守ってくれたみたい。
不意に顔が赤くなるのが自分でもわかる。
「大丈夫よ。早く離しなさい」
大丈夫かしら?不自然になっていないわよね?なんだか香苗がジトっとした目でこっちを見ているわ。
「このクソ悪魔、やっぱり諦めてなかったみてえだな。認識阻害かけたまま張ってて正解だったぜ」
「ふん、我々悪魔にとって契約遵守は当たり前の事、契約者の不利益は黙って見過ごす訳にもいかないのでな。まあ今回は既に我が契約者と松島組の間で話が付いた後のようでもあるし、これは純粋なただの八つ当たり、嫌がらせの類だよ」
嫌らしい笑みを浮かべる悪魔、ホント腹立つ笑い方ね!
「しっかり動機の説明ありがとな。んじゃさっさと終わらせようか。俺も自分の店の開店準備もあるからよ、毎日毎日小学校までついてくる訳にもいかないんでな」
そう言うなり、おじさんは悪魔を右手で殴った。何の変哲もない右ストレート。でも悪魔は吹っ飛びながら黒い霧になって消えたわ。
捨て台詞すら残す間もなく、自分が何をされたのかも、ましてや自分が死んだ事すら気づかない様な一瞬の事だった。
絵梨花の身体強化魔法とは根本的に違うなにか。嬉しくなっちゃうわね。絵梨花も頑張ったらあそこまで強くなれるんだって。
「ありがとう、真一」
香苗より先におじさんに駆け寄って、一言だけお礼を告げてからおじさんの頬に唇を押し付ける。
香苗に後で怒られちゃうかもしれないけど、いいわ。だっておじさんは香苗の使い魔であると同時に絵梨花の魔法の先生でボディーガードなんですもの。
これからもよろしくお願いするわ、真一
閲覧ありがとうございました。
シモヘイです。
これで第二章は完結となります。
一区切りとなりますので、この段階で良かったら評価の方、宜しくお願いします。
次回から第三章に入ります。
出来るだけ早い更新を頑張りますので、目に見える反応をお願い致します?
 




