■75 賢者と大賢者
侵入者にされるところだった大賢者様を、やっとの思いで貴賓室にお連れした。さっきの現場を知らなかった侍女や使用人さん達は、え、この人どこから来たの!? と言いたそうな顔を向けていて。まぁ、あとで説明しよう。
「いらっしゃるなら事前にお伝えください、皆が驚きます」
「いやぁ、それは失礼したの。じゃが、まさかステフちゃんがこんなに出世してたとは思わなんだ。あんな歓迎をされるとはなぁ」
「窓から入ってくるからです。ちゃんと入り口から入ってください」
「門前払いされたのでな」
「……申し訳ありません」
「よいよい、結果良ければ全てよしじゃ!」
……ありがとうございます。寛大なお心の持ち主で良かった。
後で皆に言っておこう、また来訪されるかもしれないから。
「それで、来訪目的は何でしょうか」
「何じゃ、何かなければ来てはいけないのか?」
「いえ、そういう訳では……」
「以前にも言ったじゃろ、また来るとな」
あ、そういえばそうだった。首都に住んでいた時に来訪されて最後にそう言っていたな。
「というのは冗談じゃ。面白いものを見たからのぅ、来てみただけじゃ」
「あぁ、湿地帯の件ですか?」
「そうじゃそうじゃ、頑張ったのぅ」
そう言い頭を撫でられた。お師匠様と正反対な返しに戸惑ってしまう。照れるな。
「え、えぇと、部屋をご用意いたしましょうか。どうぞ休んでいってください」
「ほほぅ!! 良いのか!!」
「必要ない」
「ほぅ、来たな小僧」
「ん?」
扉を思い切り開けたのは、怖い顔をしているバートン様だった。さっきまで青い顔してたのに大丈夫なのだろうか。
というか、お知り合い……?
そう考えていると、スタスタと窓まで行き開ける。
「どうぞお帰りください」
「えっ……」
「相変わらずじゃなぁ悪戯小僧よ、元気そうで安心したぞ?」
一体、どんな関係なのだろうか?
そして入ってきたサマンサに、一応人払いをしたほうがいいかなと思い退出してもらった。
「それで、まぁだその遊びをやっているのか」
「遊びじゃありません」
そう言いながらバートン様からランディさんに戻った彼。結構付き合いが長いのだろうか、こんなに親しく会話してるし……
「ほぅ、気になるか?」
「え?」
「こやつはワシの息子…」
「違う」
「反抗期はまだ続いていたか、はっはっはっはっ」
あ、やばい、殴りかかりそうな雰囲気。あ、拳が……
「あ、あの……どんなご関係かお聞きしても……?」
「さっき言ったじゃろ?」
「血は繋がってないでしょ〝師匠〟」
「繋がってなくとも、ワシはお主を息子のように思っていたのじゃが」
「……」
「はっはっはっ、そんな顔をするでない。そんなに会いたかったのか、ワシに」
「黙れ」
「はっはっはっ!!」
し、師匠という事はこの人の弟子という事か。とても、仲の良いというか何と言うか。こんな公爵様、いやランディさんか。見たことない……
「この人は全く血の繋がってないただの師匠だ」
「可愛くないのぅ」
「黙れ、何しに来た」
「息子の顔を見に来たのじゃ」
「来なくていい」
「素直じゃないのぅ、もっと素直になった方が可愛げがあるというのに。まだ可愛かった頃が昨日のように思い出すわい」
「黙れ」
うん、とっても仲良しだ。師匠と弟子、でもこんな風に会話する人達もいるんだ。
「それより、いとも簡単にボロを出してたの」
「……ま、まさか見て……!?」
「それに、ステフちゃんの補助のくせしてくたばりおって、まだまだ修行が足りぬようじゃ」
「う”……」
「ま、ひよっこでベソかいてたあの頃に比べればだいぶマシにはなったかの? 嬉しいぞ?」
「師匠、もう黙ってください……」
ずーん、と頭を抱えてしまったランディさん。
私、話に置いてかれてる……? でも、聞いているしかできないし……
「あぁ悪かったの、ステフちゃんは知らないのじゃったな。そうじゃなぁ……初めて会ったのは何年前じゃ?」
「僕が10歳の時ですから、192年前です」
え……てことはランディさんって今202歳!? あ、いや、750年生きている私が驚いちゃダメか。
「アスタロト家に三男坊として生まれた僕、ランドルフは教育に嫌気がさしてしまっていてね。そんな時丁度出会った師匠に錬金術の存在を教えてもらいそっちに没頭したわけだよ」
「な、るほど……」
「お主、今何回目の当主じゃ?」
「3回目です、ついこの前拝命しました」
「えぇ!?」
「実に面白い遊びじゃろ? 1人2役じゃ」
「遊びじゃありません、アスタロト家を守るための手段です。公爵家に賢者がいるとなれば貴族派が黙っていません、まぁアスタロト家は色々と融通は利きますがね」
「誰もが恐れる裏社会の猛獣アスタロト家。あんなにヒョロヒョロのベソかき坊ちゃんが随分成長したのぅ」
「煩いですよ。これでも隠しながら貴族派達を抑えるのに苦労したんですから」
す、すごい。じゃあ、奥さんとかってどうしてるんだろう。奥さんがいなきゃ後継者が産まれない。本物はいなくてもいいわけだけど、表向きでは夫人という人物がいないと周りから怪しまれちゃうわけだし。だから、この事を知っている協力者がいないと出来ない事だよね?
「ま、お主は良いとして、ステフちゃんじゃ。この子が現れて煩いのではないのか?」
「まぁ、そうですね。抑えてはいますけど、貴族は貴族。どうせろくな事しか考えてませんよ」
「あやつの可愛い可愛い孫の存在なステフちゃんを脅かす輩なぞ食人花にでも喰わせておけばよい」
「え”!?」
「サーペンテインを血の海にするつもりですか」
「一度一掃すればよいのじゃ」
「はぁ、相変わらずですね。そういうのは口を慎んでくださいと何度言った事か。誰かに聞かれたらどうするんですか」
「はっはっはっ!」
この人がこんなことを言うなんて思いもしなかった。こんなに穏やか? で冗談を言うような人なのに……
部屋をご用意しますとは言ったけれど、また来ると一言残し帰っていった。さっさと帰れとランディさんが言っていた事には目をつぶった。
「それで、何が聞きたいのかな」
アスタロト公爵ならぬ、ランディさんが私にそう聞き微笑む。私の疑問は、もうすでに分かっているようだ。
「アスタロト家を守る為、と言ってましたけど……」
「そう、野暮な貴族達から家族を守る為だ」
家族、を……守る……
「まず、僕達と一般人の違いは何だろうか」
違う所は、いろいろある。けど、一番は……
「生きる時間が違う、事ですか?」
「そう。でも、この事はサーペンテインの国民はあまり知らない。この国には大賢者も、公表されている賢者もいなかったからね。だから、僕達を守ってくれるものは何もない。
じゃあ、このことを知った国民はどう思うだろうか」
「どうすれば長寿になれるのかを知りたがる」
不老不死、それは誰もが欲しくなるものだ。とランディさんは言う。
だけど、私達はそんなものではない。いつかは死ぬし、大怪我をすれば死んでしまう事もある。生きる時間が長いだけで、他は一般人と一緒だ。けど、それに近いものがあるなら手を伸ばしたくなる。
「そうだ。主に貴族かな。貴族は少し強引だからね、狙ってくるだろう。少々手荒な手段を取ってくる事もある。
そうなれば、自分の家族達にまで手を出される可能性があるんだ」
な、るほど……守る手段という事か。だからここまでするんだ。
それは、なんとなく分かる気がしていた。
私の家族と言える人物はいなかった。血の繋がりという点では。ただ知らないだけなのかもしれないけど。一緒に長い時を生きた人物なら、お師匠様だ。でも、きっとお師匠様に言ったら、お前と一緒にするなだななんだの言われそう………
けど、この国に来て、沢山の人達に出会った。
巻き込みたくない人、と言われれば数えても数え切れない。首都にも沢山いるし、この領民達も、そしてジョシュや屋敷のみんなも。
「君は、賢者だ。その事実は男爵になった時に公表されたも同然だ。皆チャンスを狙ってるだろうな」
「そんなに、貴族というのは危険な人達なんですか」
「ま、全員ということではないよ。因みに僕も貴族だけど」
はっ、そうだった! それに侯爵様も!
でも、確かに硬貨偽装や、奴隷とかそんな人達がいた。だからそちら側の人達という事か。
「欲深い奴等はいる、そんな奴らにとって君はお宝だね」
「そんなぁ……」
「まぁ、そんなに怖がらなくても良いさ。君には強い後ろ盾がある。モルティアート侯爵家とか、僕とか。王家も、今何か対策を考えてくれている事だろうからね」
時間を掛けて対策していけば良いさ、と言ってくれた。対策かぁ、一体どうしたら良いだろうか。
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