■44 晩餐会
案内された部屋には、もう既に子爵様達が座っていた。子爵様と、夫人、そしてご令嬢であろう16,7くらいの女性が2人だ。
ご令嬢達は、公爵様が入ってくるなり視線が彼に釘付けで頬を赤く染めていた。美男子だから当然だろうけれど、食べづらそうだなぁ。気にしていないご様子だけれど。
一応、モルティアート侯爵様のお誘いでこういった場での食事は2.3回ではあるけれど一応経験がある。マナーも大体は分かる。けれど……
この量は食べられないよぉ!!
テーブルいっぱいに並べられてしまっている豪華な料理。これ全部食べるの? と思ったら、子爵達は殆ど残している。何と勿体ない事を……!!
「あら、ステファニーさんは貴族のお食事に慣れていらっしゃらないのね」
「あぁ、私達はいつもの事でしたから気が付かなかったわ。言ってくださればよかったのに、ね? お父様?」
これは、馬鹿にされてる? 自分でもぎこちないとは思っていたけれどさ。いつもはカトラリー1本ずつだし、こんなにたくさん使うだなんて大変だよ。
「デイム」
「……?」
隣から私をこっそり呼ぶ公爵様。真似してみろと言っているよう。ありがとうございます。
けど、前の席にいる令嬢二人からの視線が痛くなってきた。
わ、私だって紅茶飲むくらいだったらちゃんと出来るんだからね! お茶会で練習したんだから! 殿下にクスクス笑われながら。
「子爵殿。この食器、これはケンドルファ社のものでは?」
「おぉ! 公爵様はお目が高い!!」
「とても希少なものですから、手にいれるのに苦労したのではないですか?」
「そうなんですよ!」
とっても褒めちぎる公爵様に、気持ち良くなってしまった子爵様はお酒がどんどん進んでいく。強い方なのかな。
「公爵様、ついこの前娘のラナフィーが16になりましてね」
「へぇ」
「公爵様はまだ婚約者がいらっしゃらないとお聞きしました。どうですかな。娘は優秀でしてな、きっとお気に召されると思います」
「私の婚約者の事まで心配してくださるとは」
結婚話かぁ、貴族間では政略結婚が普通だったよね。大変そうだなぁ。なーんて思いながら空気のようにご飯を食べ進めていた。
「子爵はとても優秀な実業家ですね。秘訣を教えて欲しいくらいです」
「いえいえ、それほどでも」
「でしたら、後でまたお話しましょう。_____他にも、新しい事業がおありでしょうし」
「!?」
ん?
新しい、事業?
「そういえば、ステファニーさんは錬金術師でしたわよね」
「あぁ! お噂は聞いていますわ! とても優秀な術師だと」
「社交界でも話題になったこともあるのですよ」
「ぜひ見せて頂きたいですわ!」
公爵様の妙な発言に気付かなかったご令嬢二人がこちらに話題を振り目線を向けてきた。
「あっ……でも杖がないとできませんわよね」
「まぁ、そうですの? 杖がないとできないだなんて聞いてなかったわぁ」
「ごめんなさい、無茶なことを言ってしまいましたね」
これって、術師を馬鹿にされてるのかな。術師なんて、所詮杖がなければ何もできないって。私は長い杖を使っている事を知っていたのね。
「……」
とりあえず、真顔になりそうな顔を頑張って笑顔を崩さないように保った。馬鹿にされてカチンと来ない人がいるわけないじゃない。
まぁ、収納魔法陣を開けば中に入れてある杖をこの場で取り出してもいい。けれどここまで小馬鹿にされるのだ。そう思いつつ人差し指を立てて陣を開いた。
『Ventus』
私に用意されていた、口をつけていないコップの水を風魔法で空中へ。
『Glacies』
氷魔法を加える。
『Creare』
出来上がったのは、ガラスで出来た薔薇の花束。
座りのいいように作ったためにテーブルの真ん中に静かに置かれた。
そして、飾られていた花瓶の花を一本。
『Ventus』
風魔法。
『Lux』
光魔法。
『Creare』
出来上がったのは、レースのリボン。先程作り出した薔薇の花束に括りつける。
「「!?」」
「おぉ!!」
「まぁ! 何と綺麗なのでしょう!」
「いかがでしょうか」
「やはり他の術師とは腕が違うなぁ! 優秀だとは聞いたがここまでとは。目の前で見ることが出来て光栄だよ」
「ありがとうございます」
まぁ、これくらいなら指一本で出来る。杖とは、マナの出口を開く為の補助の役目を担うものなのだ。
だけど、所詮補助は補助。この程度の錬金術は補助なしでも可能な範囲なのである。
「しゃ、社交パーティーの際には自慢が出来ますわ……!」
「え、えぇ……!!」
仕返しは出来ただろうか。と思ったけれど、隣に座っていた公爵様が微笑んでくれたから上手くいったらしい。良かった。
結局、あの引っかかった公爵様の発言は分からないまま晩餐会は終わりを告げたのだ。
あれから部屋に戻り、お風呂にも入りもう寝る準備は万端。
そういえば公爵様にマギーさん達の事を聞き忘れていたな。あぁあとお礼も言ってない。
明日言おう、そう思いながらそろそろ寝ようかとベッドに座った時、この部屋のドアからノックの音がした。
「あの……」
ドアを開けて、立っていたのは見知らぬ男性。
「誰か確認せずに開けるのは駄目ですよ」
「え?」
「公爵様の部下のジェフリーです。初めまして、デイム・ステファニー」
「あ、初めまして。どうぞ」
「レディ、こんな夜中に男を自室に入れるのは危険ですよ」
「あっ……」
そっか、そうだよね。こういうのあまりないから間違えてしまった。申し訳ない。
「どうかこのままで。公爵様から、今夜はここから出ないよう伝えるよう申し遣っています」
「何かあるんですか?」
「えぇ、まぁ。ですがレディ、私は外にいますのでご安心ください。何かあっても外に出ないよう。例え、何かが聞こえたとしても」
……ん?
という事は、これから何かが始まるって事だよね。ジェフリーさんが近くにいるって言っているし。
一体何があるのだろうか。
そんな時、あの晩餐会の事を思い出した。あの、公爵様の妙な発言。
「……分かりました。ですけど、ジェフリーさんもしかして一晩中ここに立っているおつもりですか? 私なら大丈夫ですよ?」
「公爵様からのご命令ですから」
「わかり、ました……ありがとうございます」
「はい。ではレディ、安心しておやすみなさいませ」
一体これから、何がこの屋敷で始まるのだろうか。
あんなこと言われて眠れるわけない。けれど、私は何もできないし……
とりあえず杖を握りしめて一緒にベッドに入った。




