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◇syo bel ttil yn am del lik reh to mym

 嵐がやってきた。本来なら二時間目の授業が始まっている頃合いだというのに、教室はざわざわと騒がしい。台風が想定以上の早さで進んできたため、警戒警報が特別警戒警報になるかもしれず、職員会議が開かれているのだ。

 どうせならもっとはやく警戒警報を出してくれていればよかったのにと直樹は思う。そうすればわざわざ学校にきて一時間目の授業をうけずとも、家でのんびりしていられたはずだ。この状況で特別警戒警報になるかもしれないとなると、帰宅が危険だと判断されて体育館で待機なんてことにもなりかねない。そうなったら最悪だ。

 クラスメイトの何人かは親と連絡を取り合っている。これは学校の決定がある前に向かえに来る親も出てきそうだ。避難するなら家族一緒にいたほうが安心だから仕方ないのかもしれない。

 直樹の手前の席で足をブラブラと揺らしていた両国瑠美が口を尖らせた。

 

「あーぁ、どうせならもっと早めに警戒警報だしてくれればよかったんですよぅ!」


 隣で椅子の後ろ側を前にして座っているリアトリスも瑠美と同様不満げな声をあげる。

 

「まったくですー! ちゃんと仕事しやがれってんですよ。体育館にすし詰めはカンベンですよー!」


 窓ガラスにバチバチと雨が打ち付けていた。風も強く木がたなびいているのが見える。今にも枝が折れそうだ。

 直樹がぼんやりと外の風景を眺め、本当に体育館にすし詰めになるかもしれないなと思っていると、後ろから焦った様な声がした。

 

「あれ、お母さん? ちょっと、もしもーし! ……圏外になっちゃった……」


 クラスメイトの一人が通話中圏外になってしまったらしい。彼女の声を皮切りに、教室のあちらこちらで不満そうな、あるいは困った様な声があがる。

 

「お母さん! だめだ私も圏外だ」


「俺もだ。天気悪いからかなぁ?」


「どっかでアンテナ折れたとか?」


「やだなぁ はやくもどんないかなぁ、これ」


 直樹が自分の携帯電話を取り出すと、やはりこれも圏外だった。ためしに電話をかけてみるが繋がらない。ツー、という単調な電子音にプツプツと妙な音が混じっている。しばらく電話の音を聞いていた直樹は、その状態のままリアトリスと瑠美を見た。

 

「……ジャミングされてる」


 瑠美が不思議そうに眉をひそめる。

 

「……冗談ですよね?」


 リアトリスも首を傾げた。


「なんのメリットがあるんですか、それ」


「わからないけど。でも電話に妙な音が混じってるよ。聞いてみて」


 瑠美とリアトリスが携帯電話を取りだし、耳に当てる。すこしの間耳を澄ませていた瑠美が小さく呟いた。

 

「……本当ですね」


 直樹が椅子から立ち上がる。瑠美とリアトリスの目が彼をゆるりと追いかけた。直樹は携帯電話をポケットにしまって、教室の扉を指差す。

 

「ちょっと原因探りに行こうか」


 知りたがりの男子生徒の提案に、隠し事が嫌いな女子高生と暇つぶしが好きな女子高生が反対するはずもなく、彼らはどこか苛立った様子で、あるいはどこか楽しそうな様子で騒がしい教室内を後にしたのだった。

 

 ◇

 

 その日彼女は学校に行った娘を迎えにいくつもりだった。特別警戒警報が出るまえに合流できる家族は合流したほうがいいと考えたのだ。まだ学校から帰宅指示は出ていなかったが、まかりまちがってこのまま特別警戒警報が出され、娘と合流できなかったら悲惨だ。娘に迎えに行くと伝える最中、携帯電話が圏外になってしまったけれど、学校にいけば見つけられるだろう。

 しかし彼女の目論みは外れてしまう。

 ウインカーを出して曲がり角を曲がると、学校へ続く道が通行止めになっていたのだ。赤いライトを持った男に近づいて窓をあけると、外人のような顔立ちをした男が話し掛けてくる。

 

「すいません、ここ通行止めなんですよ」


 女は強風の中なるべく相手が聞き取りやすいように大きな声を出した。


「あの、花神楽高校への迂回ってどうしたらいいですか?」


「あー、丁度高校の前が冠水しててね。行けないんですよ。どこも通行止めで」


「学校に子供がいるんですけど」


「学校にいるほうが安全ですよ。避難場所に指定されてますしね。奥さんも、今後避難指示があるかもしれませんから、防災情報を気にしていて下さい」


 彼女はしばらくその場で迷っていたが、小さくため息を吐いて諦める事にした。

 

「……わかりました」


 娘と連絡が取れずに不安ではあったが、通行止めと言われては仕方がないし、確かに学校は避難場に指定されている。ヘタに移動するより安全かもしれない。

 

 彼女が引き返した後、ヘルメット男は腰にぶらさげたトランシーバーのスイッチを入れた。

 

「こっちは封鎖したぞ」


 トランシーバーの向う側から、ハンドベルのように澄み渡った女の声がする。

 

『ありがとう。残りの三箇所も封鎖完了したそうよ。ジャミングも順調なようだから、さっそく遊んでくるわね』


「了解。楽しんでこいよ」


『ありがとう。じゃあ、いってくるわ』


 歌うような声がして、通信が途切れる。風が強くなってきた。


「こっちは金が貰えるならなんだっていいや」


 男は小さく呟いて、周囲に車がいないことを確認すると待機用のワゴンに乗り込んだのだった。

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