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混戦

 部隊全員でFMEを討伐しながら……その皆全てが、宗一を見て驚いていた。訓練期間は一ヶ月。しかも平行世界の住人で、その平行世界は平和な世界であり、喧嘩すらもまともにしたことがないという。故にまともに戦うことなど出来ないだろうと、誰もが予想していた。

 幸いなことに、ダヴィ中佐が太鼓判を押す特殊な兵器を装備していることで、即死するような事はないと判断が出来た。またその特殊装備も、いい意味でも悪い意味でも問題がないという事を聞かされていた。故に……最悪は部隊全員で慣れるまで文字通り、お守りをすれば良いと考えていた。

 しかし実際には違った。FMEとの戦闘になって、戦うどころか固まってしまって動けなくなる、最悪はパニックになって暴走してしまう……そんな事態も予想していた。だというのに宗一は冷静に着実に戦闘を行って……次々とFMEを葬っていた。

(これは……凄まじいな)

 そしてそれを見ることが出来るのは、もっとも遠くにいつつ、ポジションとして全体を見る必要があるドゥーラだった。周囲に群がるFMEを左手のマテリアルハンドガンで、味方の援護を右腕で持ったマテリアルライフルで撃ちながら、宗一の様子を観察していた。

 録画データとして宗一の動きは見ていたので、間違いなく慣れれば十分な戦力にあることはわかっていた。しかしどうしても、本人の気質として戦うのが駄目……という人間もいる。宗一がそのタイプであることも多少は心配していたのだが、平和な平行世界であるとはいえ、型による人間と相対した稽古や、安全に配慮した形で打ち合いもしていた事でその心配は無用だと思っていた。

 しかしまさか……戦場に初めて降り立ち、慣れさせる訓練で不規遭遇戦となって、これほど普通に動けるのはあまりにも予想外すぎたのだ。しかも武装全てが既存兵器と逸脱している。隊員達の衝撃は一入だった。

(まぁ良いことについては、一端おいておこう)

 ドゥーラ自身もかなり驚いていたのだが、驚いてばかりもいられないのが部隊長という立場だ。もっとも不安要素だった宗一が問題なく動けることで、このFMEとの遭遇戦はほぼ問題なく勝てるとは直ぐに結論に至った。何故こんな小規模でFMEが攻めてきたことも気にかかるが、それは今考えるべき事ではない。部隊長としての仕事は……この部隊を無事に帰投させることである。

(そのためには……厄介なのがいるな……)

 ドゥーラは自分とはもっとも遠い位置にいる……大型のFMEへと意識を少しだけ傾けた。

 大型FME、呼称名グカムボ。宗一が言ったとおり、4本足のサソリとでも言うべき形態をしており、甲殻という外骨格で覆われたサソリと同じように、体表が非常に堅牢であることが特徴である。しかも固いだけでなく、その4本足での動きは非常に俊敏で、見た目からは想像できないほどに早く動くことが出来る。オーラスーツでようやく動きが捕捉できて、対処できるほどである。

 更に一番厄介なのは……武器が豊富にあると言うことである。両手とも言える左右の鋏は、オーラスーツ用の物理の大型シールドですら、容易に引き裂きながら潰すことが出来る。尾の先端は、まさに剣と言うべき物でこちらもシールドを容易に貫通し、切り裂く。あげくに先端から腐食液を高速で飛ばしてくるおまけ付き。この腐食液の射程は、優に数十メートルに及ぶ立派な中距離武器として機能する。

 最後に防御にも死角がなく……両手の鋏の後ろには、その体を覆う甲殻よりもより強固な楯があるのである。体を覆う甲殻ならば、何とかオーラサーベルなどでダメージを与えることが出来るが、その手の楯に関しては完全にオーラ兵装では歯が立たなかった。大型のマテリアル兵装でようやく壊すことが可能となり、グカムボの討伐が可能であるという、実に面倒な個体だった。

(幸い……俺のマテリアルバスターソードで討伐は可能だが……)

 ここである意味で面倒なのは……ここにこのグカムボを討伐可能な人員がいるという状況だった。これが一般部隊……マテリアル兵装を所有していない部隊であれば、ある程度FMEの数を減らした上で撤退するという選択肢しか出てこない。しかしドゥーラにはそれが可能だった。

 しかしそこで問題なのが……この部隊はお守り部隊であるということだ。本人含めて……この部隊の人間全ての存在が、宗一という存在を守るために結成された部隊であると理解していた。そうでなければ、腕がいいだけでなくマテリアル兵装を託された人員をここまで一つの部隊に組み込む理由がない。

 新部隊に招集され、同じように呼ばれた己以外の部隊員を把握して、誰もがこのメンバーに違和感を覚えていた。そしてその理由が全く知らない「真堂宗一」という存在だとも察しは付いていた。わからないのはその理由だったのだが……それも先日の部隊結成の日で疑問も氷解していた。

 細かい説明は誰も受けていないが……宗一が身に纏った装備は間違いなく異質で異常な兵装だった。そしてマテリアル兵装の使い手であるこの部隊の精鋭達は、宗一が纏った物が何であるのかも理解していた。

 オーラマテリアルを利用した物であると。

 いや、利用している……なんて物ではないということはすぐにわかった。あまりにも異質すぎる。そしてそれを……世界的にも有数の科学者であるダヴィ中佐が、お手上げといっていることで証明されていた。

 マテリアル兵装の威力は、攻撃するさいの感情、使用されているオーラマテリアルの使用率によって大きく異なる。次にマテリアル兵装にする物が、歴史が長く……想いが込められた物であればあるほどさらに威力が向上するのが通説であり、常識だった。そういう意味で……間違いなくこの部隊でマテリアル兵装であれば、ドゥーラが持つマテリアルバスターソードがもっとも強力な武器である。実際グカムボを何度か討伐した経験も、ドゥーラにはあった。

 しかし今回のこのFMEの奇襲には……どこか違和感を覚えていたため、非常に判断に迷っていた。数による面的制圧がFMEの最大の攻撃である。そのため偶発的な接触であったとしても、直ぐに相手の増援がくるのだが、その気配すらもない。更にグカムボも何故か知らないが、遠巻きにこちらと配下のFMEの戦闘を見ているだけで、戦闘に加わってこないのである。

 あまりにもいろいろな変な要素が絡まっていることで……ドゥーラはどうすべきかを決めるかを悩んでいた。逆に言えば、危機的状況とも言えるこの場面で、悩むことが出来るのがこの部隊の異常なところと言えるだろう。

「どうするんだPL?」

 そしてそんな異様な雰囲気を察しているのは、ドゥーラだけではなかった。直ぐ側で戦っている煉道が、そうドゥーラに問いかける。

「どう思う?」

「そうだな。異様なのは間違いないから……俺らが討伐した方が良いとはおもうな」

「……だよなぁ」

 戦闘中故に、細かいことは話さない。それは悠長に話すような場合ではないということと、話さなくても意思疎通が出来るという信頼からだった。そして煉道がいったのは……あの異質なグカムボを、ここで討伐すべきだという意味だった。

(確かに……この異質なグカムボが、別の部隊と遭遇するのは避けたいな……)

 部隊としてかなり優遇されたこの部隊ですら、グカムボを討伐することが出来るのはドゥーラのみだった。他の人間も、時間をかければ討伐することは可能だろう。しかしそれは時間をかけてという……あまり現実的ではない前書きが付いてしまう。無論ドゥーラであっても即死させる訳ではないが、少なくとも他の部隊員よりもマテリアル兵装の関係もあって、グカムボの討伐は速やかな討伐が不可能ではなかった。

 初の実戦でこんな異様な雰囲気というのは宗一が少々気の毒に思えなくもなかったが、しかし全体を考えれば……異様な雰囲気という不安要素に、宗一という素人の不安要素をおしてでも、この異様な個体を討伐すべきと判断した。

 まさに、その瞬間だった。

「■■■■■■!!!!!」

 辺り一帯に響いたと思える……異様な聞こえない金切り声。それが響くと同時に……グカムボが一直線に、宗一に向かって突撃をし出した。

「「なっ!?」」

 遠くで全体を俯瞰していた、ドゥーラと煉道が驚きの声を上げる。そして他の人間も、グカムボが動き出したのを把握して……戦慄した。

「PL! P1に向かってる! 何とか注意をそっちにそらせない!?」

 近くにはいるが、直線上にいない燐が直ぐにドゥーラへと通信を飛ばす。ドゥーラもその通信を聞く前から……両手でマテリアルライフルを構えて、全力での狙撃を行う体勢を取っていた。隙だらけになるが、側に煉道がいるから問題ないという、信頼だった。

「何とかする!」

 恐らく死ぬことはないと思っても、何が起こるのかがわからない相手である。何せFMEは死亡と一緒に消失するため……全くと言っていいほど生態研究が進んでいない。そもそも生物なのかも怪しいレベルなのである。そのため、FMEがどのような行動を起こすかもよくわかっていない。なので……普通の個体と違う行動をしたということは驚くことではあるのだが、悲観することではない。そして直ぐに対応することが出来るくらいに、この部隊の人員は優秀だった。

「喰らえ!」

 ありったけの怒気と殺意を込めて……ドゥーラが引き金を引く。想いに反応するマテリアル兵装は、使用者の激情に反応する。新人隊員を救うために、ありったけの想いを込めて放たれたその一射は、突進するグカムボの頭部とも言うべき場所へと飛来し、命中した。

(!?)

 グカムボに命中したことにドゥーラは驚いた。射撃が命中した事に驚いたわけではない。異常な事態に戸惑っていないといえば嘘になるが、それでもドゥーラは歴戦の勇士。その程度で狙撃を外すことはない。驚いたのは……いくら遠距離であるため必殺とは言えない攻撃とはいえ、グカムボが防御する仕草すらも見せないことだった。

 自身の経験上……自らが放った弾丸に対して一切反応を見せなかったFMEは、一体とていなかったのだ。奇襲してきたこと、何故か動かない大型のグカムボ。そして……動き出したと思えば、防御すらもしない。イレギュラーなことがあまりにも多すぎた。

「P1! 大型が向かってるのわかってるか!? こちらもフォローしているが、どうなるかわからん! 注意しろ!」

 注意しろという……実に中途半端な指示しか出せないことに、ドゥーラは歯嚙みした。

「了解しました」

 直ぐに返事をしてきた宗一。返事が出来たことに安心と不安を覚えた。見ている限り動きに固さはない。違和感もない。戦えていることは悪いことではない。

 しかし……不規遭遇というイレギュラーな状況での初陣だ。普通に戦えている方がおかしいと言えるレベルの状況である。そして、大型が迫ってきているというのに、何も変化がない。そのあまりにもおかしな態度に……不安よりも恐怖を覚えた。

 その恐怖を感じたため……ドゥーラがマテリアルライフルを担架し、両手にマテリアルハンドガンを持ち、突撃するために姿勢を低くした。

「!? おいドゥ!?」

「ほっとくわけにはいかないだろう! 行くぞ煉道!」

 緊急事態とも言うべき状況だからか、コールサインではなく通常の呼び名でそう呼び、ドゥーラが両手の拳銃の引き金を引いて……群がってくるFMEに向かって突撃していく。あまりにも特殊な兵装を纏った宗一の元へ。

「ったく! しょうがないな!」

 突撃されてしまっては煉道も動くしかない。ドゥーラの後を追って……走り出していた。連射性を意識した、低出力状態の射撃と言っても、二つしかないのでは数に対応しきれない。煉道のオーラスーツが装備した三つの銃口から放たれるオーラアサルトライフルが火を噴いて、合計五つの銃口で群がる敵を排除するが……何故かグカムボが動き出した瞬間から、人型の動きが如実に変わっていた。

 その動きは……明らかに宗一へと援護に向かうのを妨害する動きだった。組織だった動きは珍しくもないが……明らかに単体の個体を狙ってのこの動きは、誰もが経験がなかった。

(いや、それも当然なのか?)

 驚きつつも冷静に対処するドゥーラの脳裏には……敵の動きの違和感に、直感的にその原因に気付いていた。というよりも、それしか考えられなかった。こちらも未知数なのだ。ならば……FME側としても、宗一のパワードスーツに対して警戒するのが、当然なのかも知れない。

(しかし……何故正確に此方の位置を把握してきた?)

 人類側としてもパワードスーツは未知数であり、それは敵側も同じであると考えれば、この奇襲には説明が付く。だが……なぜここまで正確に宗一を狙うことが出来たのか? それがあまりにも不思議だった。

 そう思考しつつ、宗一のカバーに入ろうと全員が必至になって引き金を引き、オーラサーベルを振るった。しかし……敵の数に対処しきれず、宗一とグカムボの戦闘の火蓋が切って落とされた。




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