不規遭遇戦
開戦の砲火は……非常に静かな物だった。オーラ兵装の特徴は搭乗者の体力を使用しての光学兵器。そのため銃である遠距離武器においても、火薬などを用いていない。故に、火薬を爆発させるという過程が存在せず、またゲームでもないのでBGMもない。
さらにいえば、まだライフルで撃つ位の距離であるため……あちらの音もまだ響いてこないのだ。そして光学兵器ということで、最低でも亜光速で飛来するその銃弾を見ることも当然叶わず……私たち三人が射撃した攻撃は、相手に綺麗に吸収された。
「「「■■■!?」」」
距離もあるというのに……何故か聞こえた気がする、FMEの声なき悲鳴。その悲鳴を短く上げると共に……撃たれた三体の中型FMEが頽れてやがて霧散した。しかしその程度では焼け石に水程度でしかない。そのため……遠距離射撃が出来る私たち三人の容赦ない砲撃が、敵を襲う。
「「「■■■!?」」」
しかしそうはいっても、所詮三つしかない砲撃だ。しかも爆発するような攻撃でもないので、二次被害もない。やらないよりはマシだが……劇的に数が減るわけもない。しかもその内の一つは私の射撃だ。照準点に向かって飛んでいくのがわかっていたとしても、動いている相手に撃つのは、そこまで上達していない。
(ゲームみたいに、コントローラーならまだマシになったかね!?)
右腕全体を敵に向けて撃つ。これだけでだいぶ感覚が違う。そのため、けっこうな数を撃っているのだが、半分程度の命中率だった。正しくは、敵の数が多いので命中はしているのだが、狙った敵に当たっていないのが正直なところだった。
しかし、残りの二つ……ドゥ大尉と真矢さんは凄まじい腕前を有していた。百発百中を地でいくという感じで……凄まじい勢いで連射している。実際には弾であるオーラ熱線が見えていないので、何とも言えないのだが……二人の指が動き、わずかに銃口を傾ける動作が凄まじい速度で行われている。
マシンガンとかではないので、引き金を引く度、銃口を傾ける度に撃っていると予想できるが、まるで指を動かした瞬間に相手が死んでいる……というような状況である。
(凄まじいな)
「駄目だ。予想通り大型のグカムボは落とせねえな。中型は半分に出来たが……。各員、乱戦になることが予想される。各々味方の位置をくれぐれも見失うなよ!」
ついに普通に目視でも見える程度の距離になった。そのため、各々が自らの武器を抜いて……戦闘態勢へと移行する。私もそれに倣って……気持ちを引き締めつつ、木刀を出現させて、両手で握った。乱戦で私が味方誤射をせず立ち回るのは、どう考えても無理だ。だが流石に接近戦であれば、誤って殴りかかることはないだろう。
「先行して少し数を減らすのと……敵を間延びさせるわ。P1、P3、付いてきて!」
言うやいなやこちらの返事を待たずに、燐中尉がブースターを噴かして敵へと突っ込んでいった。中型を半数にしたとはいえ、人型種はほとんど数を減らせてない。確かにオーラスーツよりは小さいが、それでも十分な大きさのFMEに自ら突っ込むというのが……なかなか肝の据わり具合と言えた。
そして部隊員もやっぱりみんな肝が据わっていた。誰も一人で突貫したことを咎める人がいなかった。それだけ燐中尉の……皆の腕前を信用していると言うことなのだろう。
「P1、行けますか?」
流石に一人にするわけにはいかない。しかし私が動けるかという不安要素もある。気を遣って真矢さんがそう問うてくれた。正直……不安がないと言えば嘘になるが、それ以上にそこまで緊張していない自分がいたので、私は素直に答えた。
「行きましょう」
私も……内心で少々緊張しつつも、真矢少尉と共に燐中尉の後に続いた。
「P2。フォローはするが、基本的にP1を優先するからな! あまり派手に暴れ回って孤立するなよ?」
「あら? 誰に言っているのかしら? PL!」
接敵したその瞬間……燐中尉の動きが劇的に変化した。まさに突撃していた直線的な動きが、接敵するわずか数秒前に……重心を低くして滑るようにして敵をかいくぐって、右手に持ったマテリアルハンドガンが火を噴いた。
「「「■■■!?」」」
更に左手で持ったオーラナイフで近寄って、自らの間合いに少しで入る奴だけを正確に狙って切り捨てる。背面のバックパックに増設された可動式のブースターが縦横無尽に高速で動き回り……そのブースターの動きよりも更に加速した動きで、オーラスーツを操って右手のマテリアルハンドガンで相手の命を的確に抉り、オーラナイフで敵の肉を焦がした。
私は間近でオーラスーツが格闘行為を行うのを初めて見たのだが、それは凄まじい物だった。オーラスーツだけじゃなく、燐中尉の戦闘が凄まじいというのも大きな理由なのは間違いないのだが……それでも、本当に、冗談かと思えるほどの速度と機動で、文字通り縦横無尽に駆けて敵を殺している。紙一重で攻撃を避けて、的確に自らの攻撃を相手にたたき込んでいる。
「行きます!」
そしてそれに追従する真矢さんも、凄まじかった。狙撃手として優秀なのは身をもって知っているのだが、中距離でも何ら問題のない戦闘を見せてくれた。装備を変更したため、バックパックの固定装備がオーラアサルトライフルになっている。それを展開し、射撃を開始した。
オーラアサルトライフルから放たれる、亜光速の弾丸。バラまく目的の武器のため、全てが命中しているわけではないが、相手を怯ませ、なおかつ倒すのには十分すぎる威力を誇っている。先ほどまで手にしていたマテリアルライフルは背中に担架し、手にオーラハンドガンを装備していつでも撃てるようにしている。
「さぁ~て。私も行きますか!」
真矢さんの射撃に感心していると、後方より対比できるような声が上がる。それは行動にも現れている感じだった。璃兜少尉が左手を前に突き出しつつ、右手にオーラソードを持って突貫していく。
シールドの体当たりで自らの前方の相手の体勢を崩して、右手のオーラソードで斬り殺した。更に背後や届かない位置にいる相手はバックパックのオーラアサルトライフルで撃ち抜いている。背後に目があるのかと疑うほどに、狙いが正確だ。
「みんな元気だなぁ。俺はのんびりやりたいんだがね」
対して煉道中尉は手持ち武器であるマテリアルアサルトライフルと、バックパックの固定装備のオーラアサルトライフルを構えて斉射した。
「そういうな、P5。後進が育つんだから、その分俺達も楽できるだろ?」
「いうほど、俺もお前も歳いってないだろ!」
お気楽なやりとりをしているが……その攻防は凄まじい。すでに自らも接敵している状況で、無駄口を叩きながらも敵の攻撃を回避しつつ、右手に持ったマテリアルライフルを撃ちまくっている。見た目的にスナイパーライフルっぽいのだが、それでも何ら問題なく扱っている。しかも左手は左腰に装備していたマテリアルハンドガンに持ち替えて、周囲の敵の掃討まで行っている。遠と近。どちらも明確に相手を撃ち分けながら殺しまくっていた。
「それと、まだ俺は戦線から降りるわけにはいかないなぁ。いや、出来ることなら今すぐにでも退役したいんだがな……。子供ってのはやっぱり金がかかるんだよな!」
煉道中尉もドゥ大尉に負けず劣らず変態的な戦い方だ。群がってくる小型種の中で、ドゥ大尉に近寄って害を為そうとする個体を、的確に見抜いて手に持ったマテリアルアサルトライフルで撃ち抜いている。そして自らに接近してくる物はバックパックのオーラアサルトライフルで屠っていた。
「でも愛しているから頑張れるんだろう?」
「まぁそうだけどよ」
「照れるなよ。いいことじゃねぇか」
軽口を叩きながら、敵はどんどんと数を減らしていく。マルチタスクとは少々違う気がするのだが……おしゃべりと攻撃を平行して行っている。
(すごいな。まさに精鋭だ)
内心で感心し、舌を巻くしかなかった。そしてそれは自分自身にも思えることでもあった。言うまでもないことだが、私も今この場にいる。つまり……四方は全てFMEという異星起源生命体がいる状況なのだ。そしてそれは当然私を襲ってくるのだが……私はその中で驚くほど冷静に攻撃を躱して、自らも反撃を行ってFMEを殺していた。
周囲にいる他の隊員が、効率よく倒していくのを把握しているのは、私も同じように動き回ってFMEを殺しているからだ。殺しつつ……視界の端に見える皆の様子を捉えているからだった。
そしてその自らの身体能力と思考能力のあまりの異常さに……内心で少し戸惑っていた。
(この世界に来てから、生涯を通して数回しか経験をしなかった意識の加速と先読みがこうも頻繁……というよりも、高揚した意識では確実に起こるのはどういうことだ?)
意識が加速していることで、冷静に確実に……私はFMEの攻撃を避けて、殺すことが出来ていた。以前にも思ったことだが、この異星起源生命は、本当に殺しているという感覚が薄い。故に命を殺すという事をほとんどしたことがなかった自分が、こうして敵を殺すことが出来ていた。
つまり忌避感が全くいないのだ。それはそれで異常かも知れない。
(といっても……近寄ってくる連中を殴殺しているだけなのだがな……)
それなりに訓練をしたが、未だ私の射撃の腕前は素人でしかない。しかもこの混戦状況では、誤射しかねない。ならば今まで長年培ってきた戦闘方法で戦うのが一番である。
そのため、私はマテリアル兵装となった木刀を両手で握りしめて、群がるFMEを捌きながら撲殺していた。イメージトレーニングはしていたのでそれなりに様になっていると思われた。
剣術の稽古は、けっこうイメージトレーニングが多い。何せ真剣を使うために、対人戦などはそう易々と出来るわけがない。なので相手をイメージしつつ型稽古などをおこなう。これは長年やっているので対人であれば容易なのだが……流石にFMEを相手にしたイメージトレーニングは少々骨が折れた。
しかしやらなければ自分が死ぬ可能性もあるため、素振りの時や就寝前等……時間を見つけては、頭の中で動いてFMEを殺す術を思い描いていた。最終的には効率的な別の戦闘方法が出来るようになるのが目標だが、今は出来ることをやるしかないだろう。
迫り来る敵の攻撃を避けては殴り、避けては殴る。死亡によって消失するFMEであること、また得物がマテリアル兵装化したことで頑丈になったこと、何よりもパワードスーツのおかげで、私は何とかFMEを殺すことが出来ていた。
(まぁ今のところ私が殺しているのは人型種のみ……果たして、デカ物相手に通用するのか?)
周囲のFMEを他の隊員と一緒に殺しながら、私は奥にいる大型のFMEへと目を向ける。四つ足のサソリというのが、私としての正直な感想である。
グカムボ。表面は金属製なのが嫌でもわかる感じで、陽光を綺麗に反射している。さらにつるっとしている訳ではなく、鱗というか……甲殻を纏っているという感じの体表。おまけに両手?の鋏は、鋏部分以外は頑丈な楯のような形状をしており、どう見ても固そうに見える。
(グカムボがいても戦っているということは、勝算があるということなのだろうが?)
FMEの集団が襲来したことで対処するしかなかったために、我々は今こうして戦っている。しかし戦い始めたと言うことは、少なくとも私を除いた五人はグカムボを倒すことが出来る踏んでいると見るべきだろう。
現に圧倒的に数で劣る私たちだが、人型や中型は今のところ問題なく駆除が出来ている。個体名称や特徴を知っていると言うことは、グカムボはそこそこ知られた個体であることも間違いない。
しかしその大型種は大型故か……此方にまだ近寄ってきていない。不気味な沈黙といえる。
もしかしたら人型や中型を殲滅したら、グカムボは相手をせずに部隊で逃げるのかも知れないが、とてもそうは思えなかった。
何か策があるのだろう……そう思いつつ、私は周囲のFMEを殺すことに専念した。




