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実地訓練

 部隊の編成が終え、一応明日の指示も出ているらしいのでそれが伝達されて解散となった。その後はいつも通り食堂で真矢さんと、夕ご飯をいただいて自室へと戻り就寝した。

 そして翌朝……朝食をいただいて直ぐに指定された場所である第七格納庫へと、真矢さんと向かった。本日の……というよりも、今後の予定は部隊での訓練だった。

 格納庫に集合して、機体を輸送機へと積み込む訓練。そして離陸して仮想敵がいる関東平野外縁部に急行し、輸送機より降下用の防護コンテナにて落下。地上に落下後陣形を組んでの作戦行動。という訓練だ。

 私の場合は機体の積み込みがないので、輸送機の上下左右に設置された銃座への移動訓練を、降下訓練まで行うこととなっている。今回用意された輸送機は、通常の防衛装置の他に私のパワードスーツで運用することを想定した、銃座が用意されているのだ。

 生半可な装備を固定するよりも、私のアームキャノンの方が威力が高いからだという。確かに兵装を装備しない分重量も軽くできるので、合理的と言えなくもない。

 降下後は行軍訓練を行い……ある程度行軍訓練をしたら今度は逆に、戦場で輸送機に乗り込むための訓練だ。その一連の訓練を一週間ほど行うという。

(一週間か……)

 一週間後の事は説明されなかったが……まぁその後の予定については、お察しといったところだろう。具体的に期限が設けられると……正直足が竦みそうになってしまう自分がいて、私は輸送機の中の上下左右に設置された銃座に移動しながら、内心で笑っていた。

「明日にも死ぬ身だったというのに……未だ死が怖いのか……」

 病魔に巣くわれ、私の命はもう幾ばくもない状況だった。長くはないがそれでも決して短くない時間を生きてきた。

生きてこられた……生きていけたのは友と趣味のおかげだった。故にこそ……少しでもそのありがたい存在に恩返しが出来ればと思い、奉納刀を再度奉納しようと思った。その神社と何度も打ち合わせをして、奉納の日に向かったその日……私はこの世界に来た。


 老いと病魔に蝕まれた……肉体を若返らせて。


 己が何者であるか?


 この問いが持つ呪いは、手軽でもあるが、複雑でもある。人とは変化する生き物だ。以前はこう考えていても……時間が経てば変わるというのはよくある話だ。それが肉体の老いによる変化もあれば、心境の変化もある。そして……時間による変化だってある。

 故に、己は己である……と、そう答えを出してもいくつもの要因でその答えは変わっていく。ならば……今の自分は果たして何者なのであろうか?

 老いによる変化、心境による変化、時間による変化。あらゆる変化を遂げていたというのに、それを平行世界に渡ることで再び変化を強いられた……己という存在は?


「降下ポイントまでもうすぐだ。みんな、準備はいいな?」


 どうでもいいような、どうでもよくないような事を考えていたら……ドゥ大尉より通信が入った。無駄に無駄な思考をしていた頭を切り換えて……ドゥ大尉へと視線を投じた。といってもすでに全員がオーラスーツに搭乗しているので、顔を見ることは叶わないのだが……網膜直接投影装置で、視界の端に各隊員の顔が映し出される。

(凄まじいな)

 未だ慣れないこの未来技術だが……その中で私だけは普通に顔が出ていないのが間抜けに見えて、思わず内心で笑ってしまった。

「降下訓練と陣形展開及び部隊での行軍訓練だ。接敵が絶対にないとは言えないが、しばらくは戦闘する予定はない。気楽にいこう」

 私を除けば皆歴戦の勇士。明らかに私を緊張させないための言葉だと理解できる。しかし誰もそれを茶化すことはなく、真摯に頷いていた。本当に人格者が多い部隊である。

「宗一少尉も、まぁ……そのパワードスーツのスペックを考えれば、逆に死ぬ方が難しいとも言える。ある意味で気楽にいけるから、あまり緊張するなよ?」

「了解」

 確かに……色々検証や実験でわかった結果として、このパワードスーツは本当に頑丈である。それこそロトメイドのパワードスーツそのものと言っても良いレベルで。ならば確かに……逆に緊張しないでもいいと言えるかも知れない。

「降下ポイントまで後10秒。5秒よりカウント開始」

 すると機内アナウンスが流れて……ついに降下のカウントダウンが開始された。

「よし……5、3、4、3、2、1、降下!」

 その言葉と共に、後部ハッチが開いて、防護コンテナが射出される。本当にいわゆる四角い箱だ。その箱の下部に減速用のブースターを搭載し、オーラスーツが降下するまでの間、文字通り防護する箱である。私のパワードスーツを固定するためのハンガーも増設された、特注品である。

「到着までカウント、10秒前」

「よし、事前に説明された通り、降下後はそれぞれ散会し、陣形を形成する。ちんたらするなよ!」

 煉道中尉のカウントとともに、ドゥ大尉の指示を聞くと……ブースターによる減速が開始されて減速Gが体にのしかかる。

「っ」

 防護コンテナやパワードスーツでほとんど感じないのだが、少しは感じるので思わず小さな吐息が漏れてしまった。しかしそれも直ぐに終わり……着陸はしなかったが、それでも地上に降り立ったので、直ぐに行動を開始した。

 天上含めて四方の壁が展開するコンテナより飛び出て、周囲を確認する。それを全員が行うため、角度だけで言えば60度の視界範囲を確認できればそれで良かった。

 ましてや今私がいるこの関東平野は……FMEによって更地にされた影響で、高い物体が存在しない。あってもせいぜい人間がいなくなったことで、育った雑木なんかがあるだけだ。ほとんど視界を遮る物はなかった。そのため……各々自分の担当範囲が問題ないと直ぐに報告する。

「では行軍を開始する。陣形を組んで周囲を警戒しつつ……回収ポイントへと向かう」

 回収ポイントは、今いる日高市より西にある……川越の中心地だ。距離にしておよそ11km。私の世界では車でもそれなりの時間がかかるが……この世界では信号などあるわけもなく、しかも更地だ。オーラスーツの性能も相まって、そう時間をかけずに到着することが可能だ。

「P1、P2は前方警戒を。念のため上空及び下からの警戒も忘れるな。P3、P4は主に横を。P5は後方を警戒」

「「「了解」」」

 コールサインはPとなった。これは平行を意味するパラレル(Paralel)の頭文字を取っている。ナンバーについては「P1私」、「P2燐中尉」、「P3真矢少尉」、「P4璃兜少尉」、「P5煉道中尉」、「PLドゥ大尉」となっている。ドゥ大尉はリーダーのため数字ではなくLとなっている。

 そうしてしばらく陣形を組みつつ……普通に行軍できていたのだが、真矢少尉が異常を検知した。

「P3より隊員各位。一時の方向で……振動を検知。要警戒」

 警戒という真矢さんの言葉が少し震えているのに気づいたのは、恐らく私だけではないだろう。しかしそれをわざわざいう理由はない。前方を警戒しつつ……私はパワードスーツを装着していることを意識して、真矢さんが言った方角へと視線を投じる。

 すると私の思いに応えてくれたパワードスーツが意識した方角を望遠、拡大してくれた。そして見えた物体を……伝える。

「FMEが此方に向かってきてます。種別は先頭集団に人型種が相当数。中型が10。大型1」

 人型種に関しては……拡大した部分の前面全てを埋めているので、正確な数字はわからなかった。しかし中型と大型は数えることが出来た。

「此方のレーダーには反応がないが、目視できるか。凄いんだが……曖昧な報告だな。もっと正確に……といいたいが、宗一少尉のパワードスーツには、レーダーが搭載されてないんだったな」

 ドゥ大尉が苦情を漏らすが……直ぐに撤回した。そしてドゥ大尉の言葉が、まさに私のパワードスーツの長所と欠点を如実に物語っていた。

 パワードスーツは、所々凄まじい性能を所持している。身体能力の強化や防護性能。そして攻撃についても、アームキャノンとマテリアル兵装の木刀。それらは最高水準よりも更に上をいっている。また、望遠などの機能もかなり凄まじい。オーラスーツでは、まだ見ることが叶わない距離でも望遠が出来ていた。

 しかし、望遠が出来ても……細かい識別などが出来ない。というよりも、望遠できるだけなので、機械のデータにアクセスして敵の種別に数、相対的な距離が測定出来ない。私自身が行うので当然正確な数字が出せるわけもない。

 通信機器、録音録画装置が最低限しか積み込めないのと一緒で、レーダーなども後付けすることが叶わないのである。所々凄いのだが……いうなれば、人間の身体能力を本当に向上させているだけ、という感じなのだ。

「まぁそのうちわかるか。しかし……大型が1つか。どんなのかわかるか?」

「見た目4本足の巨大サソリですね」

「おいおいマジか? 面倒な相手が来たな」

 私の報告に全員が気を引き締めた。私も自らが見たFMEを、座学で学んだ知識を思い出していた。

 グカムボ。非常に固い甲殻とでも言うべき装甲に身を包んだ、サソリのようなFME。長い尾の先端は槍のように鋭く、オーラスーツを簡単に貫通する。また先っぽより、溶解液も撒き散らす。両手は鋏状になっていて、此方もオーラスーツを容易に両断する。

 オーラライフルでは決定打にならず、マテリアルライフルでも相当数打ち込まなければ倒すことが困難なのだが……かといって接近戦は、三つの攻撃手段を持つグカムボの懐に飛び込まなければならない。単体ならば何とかなるのだが、中型種も多数いる。面倒な相手が、配下を引き連れてやってきたような状況だ。確かに面倒だと嘆くのも無理はないだろう。

「このまま進路を変えたところで……無駄だろうな?」

「そうですね。レーダーに写らない距離から、此方を目指しているのです。やり過ごせるとは思えません」

 めんどくさそうな声を上げるドゥ大尉の言葉に、真矢さんが同意した。

「哨戒ルートからだいぶ遠くに来たんだがな? 相手は何で気付いたのかね?」

「さぁ? FMEの思考なんて誰もわからないでしょ?」

「ごもっとも」

 走りつつ言葉を交わしながら、思い思いの考察を口にするが……煉道中尉の言葉に、燐中尉が返した言葉が全てだった。交信する手段も持ち合わせていないため……FMEが何を考えているのかは、誰もわからないのである。

「まぁ来ちゃった物はしょうがないでしょ? どうするの、PL?」

 その言葉通り、来てしまっている以上は対処するしかない。問題はどう対処するかという事である。それを、璃兜少尉がドゥ大尉へと問いかけた。

「まぁ……やるしかねぇだろ? 各員……巡航移動出力から、戦闘出力へとオーラドライブを回せ。そう遠からず接敵するぞ」

「「「了解」」」

 これより戦闘に入ることが確定し……私は気持ちを整えながら、行軍を続けた。PLが、合流ポイントにすでに向かっている輸送機へと、接敵のため交戦するという通信をしていた。

「P1は……とりあえずパニックにならないようにしろ。最悪パニくっても、止まれ。絶対に突っ込んだりするな」

「了解です」

 そういわれて……私は気持ちを行軍から戦闘へと切り替えた。私のパワードスーツは、エンジンらしいエンジンがない。代わりといってはなんだが、私の思考と意識が、スーツに多大な影響を与えているのは、すでに訓練で検証が済んでいる。故に……落ち着けと自らに言い聞かせながら、私は右手を握りしめた。

(……妙に落ち着いているのが気になるが、パニくるよりはマシかね?)

 走りつつ……どんどん接近するFMEの様子を凝視する。まさに異形の怪物というべき巨大な生命体が私に近寄ってきている。私を殺しに。

 だというのに何故か……私の心はずいぶんと落ち着いている。下手をすれば自分が死ぬかも知れないのに。それも……異形の怪物に取り込まれ、吸収されて人として死ねないかも知れないというのに。

「どうやら……今のところ問題なさそうだな。しかし急な初陣だ。P1のフォローを皆忘れないように」

「「「了解」」」

「少し先の窪地手前で陣取るぞ。P3。俺と二人でライフルで応戦して数を減らす。恐らくグカムボは殺せないだろう。中型だけでも数を減らす」

「了解」

 当然ながら……皆落ち着いていた。急な接敵だが、それ以上に今までの経験があるから問題ないと思えるのだろう。真矢さんも、先ほど少しだけ震えていた声が収まっている。恐らく、武器を手に取ったことで落ち着いたのだろう。もしくは、スイッチが切り替わったのかも知れない。

 そしてドゥ大尉が指定した……窪地に入る少し手前で、私たちは止まって迎撃の準備を行う。窪地といっても、本当になだらかな下り坂になる手前でいるだけだ。遮蔽物もないので此方の射線がよく通る。そして前衛である私と燐中尉が下り坂に足を踏み入れて……各々の武器を構えた。

「P1。私が前に出るからフォローして。フォローというか……とりあえず私からなるべく離れないようにすれば、それで良いわ。それだけ考えて、誤射に……気をつけるのは難しいだろうから、なるべく接近戦で人型を狩るわよ」

「了解」

 確かに誤射を気にしながら、戦闘するのはまだ無理だろう。敵の数から言って、こちらにくるまでに殲滅するのは不可能だ。混戦になるのは必至だ。ならば……流石に間違えようのない木刀での攻撃が、ある意味で一番問題がない。

「先に殺っておいたほうが、気持ちも締まるだろう。宗一少尉も射程に入り次第、ある程度、遠距離攻撃で数を削れ」

「了解しました」

「では、諸君……イカれた遭遇戦の始まりだ! 派手に行こうぜ!?」

 その言葉と共に……ドゥ大尉と真矢さんのライフル。そして……私のアームキャノンから光が放たれた。








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