第52話 夏の終わりから秋の始まりにかけて(その6)
9月15日、日曜日。曇天。残暑の中とはいえ、今日のような曇り空で本当に良かったと思う。お彼岸はまだだけれども、今日を境に、秋の気候に切り替わったんじゃないかと思えるような、すっ、とした空気の感触が髪の毛の隙間から流れてくる。
朝まだ早い時間に駅の北口改札に皆、わらわらと集まって来て、とりあえずおはよう、と言って、そのまま電車に乗り込んだ。
「小田」
「はい」
走り幅跳びチーム2年の武田さんが僕に訊いてきた。
「あの子は、小田の、彼女?」
僕は、さつきちゃんには分からないように、
「違います」
と、小さな声で返事した。
「じゃあ、小田とはどういう繋がりなの?」
僕は、即座に返事した。
「同じクラスです」
武田さんは、笑いながら、僕に訊き続ける。
「それを言ったら、みんな、同じ学校、っていう話じゃない。そうじゃなくて、小田に一緒にくっついてマラソン大会に来る、って、どういう間柄なのかな、ってこと」
近くの座席にいる短距離チームの1・2年生何人かも話に顔を突っ込んできた。さつきちゃんは、遠慮してか、車両の端の方の座席に座っているので、こちらが何を言っているかは、多分、分からないだろう。
単距離チームの1年生が言った。
「たまに小田のクラスに行くことがあるんですけど、あの子と結構仲良さそうに喋ってるんですよ」
ほー、とみんな大げさに相槌を打っている。さつきちゃんに見られたり、他の女子部員に気づかれたりしたくない、とばかり思っていた。
「ほんとに、そんなんじゃないんですよ。なんていうか、部活に入ってないのが寂しい、って言うんで、じゃあ、マラソン大会があるから、一緒に出てみない、って声をかけただけなんですよ」
みんな、分かったから分かったからというような意味不明の頷きをして、はいはいという感じになった。
「すごく、真面目そうな、感じのいい子だね」
武田さんは、さつきちゃんのことをそう評した。
「はい。ほんとに真面目で・・・それと、運動能力は多分、抜群だと思いますよ」
僕がそういうと、
「じゃあ、部活入ってなくて寂しいんなら、陸上部に誘ったら?」
武田さんはこう言ってくれたが、僕は、家の家事手伝いがあるからそれは無理だということを説明した。
短距離チームの2年の先輩が、
「かわいい子だから、ちゃんと捕まえておいた方がいいぞ」
と、笑いながら、言った。
あれこれ言うのもなんだか大変そうなので、僕は、
「はい」
とだけ、返事した。




