第3話 はじまりは今(その3)
授業が終わって着替えると、僕はグラウンドに出て一人でストレッチを始めた。僕は中学と同じ陸上部に入った。高校の部活で驚いたのは、いわゆる全体練習というものがほとんど無いことだ。僕は走り幅跳びを専門にしようとしているので、同じ走り幅跳びを専門とする何人かの先輩方と砂場を共有する程度で、練習メニューはコーチ兼顧問の先生と個人個人で相談して決める。ただ、他の高校が全てこんなやり方をしているのかどうかは分からない。
先輩方もグラウンドに一人二人とやってきて、それぞれのメニューをこなし始める。練習は短時間で集中して、という感じにならざるを得ない。ナイター設備を毎日使う訳にはいかないので、そろそろ夕暮れという時間には片付けを始めないといけない。先輩方は走り込みは早朝・夜や土日に個人的にやっていると教えてもらったので、自分もそうしている。
「お疲れ様でした。失礼します!」
「おっ、今日は早いな」
三年生の春日さんが話しかけてきた。
「はい、友達と旭屋に寄っていくんで。」
「友達って、女子じゃないのか?」
二年生の久我さんからも声をかけられた。
「いえ、残念ながら男子です。」
こんな、他愛無いやりとりだけでも、自分の高校生活がとても充実したものだと感謝したくなる気持ちはある。それでも、僕は、やっぱり心の中に言いようの無い寂しい小さな塊があるのだ。
僕は太一と並んで旭屋へと歩いた。当然最短距離を移動するため、気にはなったが、今朝のおばあちゃんの家の前は通らない。