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月影浴1 おつきさま  作者: @naka-motoo
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第1話 はじまりは今(その1)

 僕は、小田 かおる(おだ かおる)。県立鷹井高校の一年生男子生徒。「かおる」という平仮名の名前から、女子生徒と間違われることがあり、小学校以来、クラス替えの度に自分の名前が呼ばれるのをなんだか恥ずかしく感じていた。お母さんに、なんで「かおる」なのか聞いたことがあったが、長男である兄の次は女の子が欲しかったので、女の子らしい名前を考えていたからという返答だった。僕が聞きたかったのは、なぜ生まれてきた男の子の顔を見て、それでもこんな可愛らしい名前をそのままつけたのかということだったのだけれど、赤ちゃんの頃はそれはそれは女の子のようなかわいい顔だったからだという、お母さんの言葉を聞いて、恥ずかしくてその場をさっと去ってしまうということしか僕にはできなかった。

 僕は、教室の後方の自席で次の授業の教科書を準備したりする振りをして、斜め前の席の、日向 さつき(ひなた さつき)が、女子生徒たちと話すのを見ていた。日向 さつきは、僕が唯一フルネームを覚えている女子生徒だ。直接訊くことはとてもできないが、以前、彼女が女子生徒同士で話すのを聞くところによると、「私、五月に生まれたから”さつき”なんだよ。」、ということだった。

 僕が彼女を意識する理由は自分でもよく分からない。確かにかわいらしい子なのだけれども、美人ということで言えば、同じクラスの中にももっとたくさんいた。ショートカットに少し浅黒の肌で背は標準よりかなり低い「日向 さつき」という子はきっといい子に違いないという、僕の根拠の無い先入観なのか。それとも、他の男子生徒はきっと彼女が実はかわいらしいということに気づかないだろうという、売れないけれども美しい曲を作り続けるバンドを見つけた時のような気分なのか。けれども、僕が彼女のことをかわいいと感じるということは、男子生徒の何人かは「日向 さつきがかわいいということを見つけたのは俺だけだ」と思っているのだろう。

 日向さつきの自然な笑顔を見ながら、けれども、僕は、今朝の登校途中の別の女性の顔を思い出していた。

 毎朝、僕が登校経路を大きく遠回りして歩いているコースの大通りに建っている古い木造の家がある。

 その家の住人だろう、老婆の笑顔だ。


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