07:開き直って吸血鬼として生きることにした
――嬉しい
やっとリルが私の仲間になってくれた。
これで、彼女を避けなくて済む。秘密を持たなくて済む。
また、以前の様に仲良くできる。
文化祭以来、久しぶりに登校した彼女の姿を見てすぐに分かった。
……リルが、彼のものになったのだと。
まだ、新しい自分に慣れていないようで、動作がぎこちない。
少し前の自分を見ているようで、助けてあげたい欲にかられた私は、すぐさま彼女のフォローに回った。
所有者が会長……という事は、彼女の寮も私と同じローザだ。やった!
生徒会のメンバーは全員ローザ寮のはずだから。
私は、早速リルに引っ越しを勧めた。
※
リルの荷物は驚く程少なく、引っ越しはあっという間に済んでしまった。
ローザ寮は全ての寮の中で最も広く、ワンフロアがまるまる一つの部屋になっている。
会長とリルは最上階、私とユンナ様のすぐ上のフロア。すぐに遊びにいける距離だ!
ユンナ様も女の子が大好きなので、リルが引っ越して来てご機嫌だ。
「これで、あの男がいなければパラダイスね」
さり気なく、酷いことを言っている。「あの男」こと会長だが、リルに対して恐ろしく過保護な人だった。
ユンナ様も私に対しては過保護だが、彼の場合はちょっと度を超していると思う事もある。
「あの粘着男」
……と、ユンナ様は言っているが、まったくもってその通りだ。
私にまで焼きもちを焼かれても困るんですよ、会長。
※
二学期も終わりに近づき、クラスの子達は全員私達の仲間――すなわち吸血鬼になった。
三学期が終わると、何も知らない新入生が入ってくる。
私は二年生になるが、ユンナ様はそのまま三年生を続けるとの事だ。
吸血鬼はある年齢以降は年を取らないのでやりたい放題だった。
この学園では、生徒会も教師もグルだ。
私がユンナ様の家に泊まり吸血鬼にされた日も、教師はそれを黙認した。
学年変更も自由なのだろう。
「ああ、楽しみ~、美味しい子が入ってくるのかしら」
クラスメイトの女の子達が、今からワクワクしている。
「二年生になったら、狩りをしてもいいんだよね?」
「ルールや手順は守らなきゃダメよ。可愛い男の子、入ってこないかしら?」
……この子達、肉食だわ。
人から吸血鬼になった私達は、マスターの血さえ貰えれば、普通の食べ物だけで暮らしていける。
だから、わざわざ新入生を狩る必要も無い。
ユンナ様が「浮気はイヤッ」と言うので、私は狩りをする気はない。
する気はないけれど……。
けど、たまに……どうしても、目の前の人間が美味しそうだったりすると、吸血鬼は理性を押さえきれずに齧ってしまう事があるのだとか。
その結果が毎年出る、大量の途中リタイアの生徒達だ。
中途半端に噛まれた彼らの多くは、吸血気になる事が出来ず死んでしまう。
その度に生徒会や教師が奔走し、犠牲になった生徒の家族の記憶を改ざんしたり、何も知らない生徒達に嘘を教え込んだり、隠蔽工作に走る。
初めて聞いたときはショックと怒りで感情を抑えきれず、ほぼ一ヶ月にわたり生徒会に乗り込み、ユンナ様をはじめとする生徒会メンバー達に当たり散らした。
ユンナ様は涙目になって私に謝った。ごめんなさいユンナ様、ちょっと言い過ぎました。
対照的に、会長が鼻で嗤ってムカついたので、リルにその事を吹き込んでやったら、次の日に目に見えて彼の機嫌が悪くなっていた。
怒られたのだろう、いい気味だわ! 当然、リルにも知る権利があるんだから!
今でもこのことには納得できていない。
私は齧られそうになっている一年生を見つけたら助けると心に決めた!
それにしても……義母よ!
なんて所に私を入学させてくれたの!?