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全7話の短めの連載でこざいます。
短編版の連載バージョンになります。
よろしくお願いします。
暁の頃、森の奥の小さな家の部屋の一室で、金髪の美しい顔立ちの女性が、眉毛をギュッと寄せ怖い夢を見ているのか、うなされている。
そこへ、静かにドアを開け黒髪の男性が、そっと入ってきた。
彼の名前は、カズマこと中黒和真。
和真が金色の髪を優しく、そっーと撫でると、ギュッと寄っていた眉毛の力が抜けていき、穏やかな表情になっていった。
その表情を確認すると、和真はほっと胸を撫で下ろし、愛しい人を優しい眼差しで見つめながら、そうっと撫で続けた。
♢
(うなされるほど君を苦しめているものは何だい?)
うなされるのも無理もないのだ。
この世界に来てからというものの、悪役令嬢としての役割を全うしたのだから。
婚約者でこの国のチャランポラン第一王子と、浮気相手の性悪聖女に、数々の嫌がらせをされ冷遇されてきた。
頭ごなしに批判され、言ってもないことをでっち上げられる。真実をねじ曲げられる。
そして、極めつけには先日の舞踏会で、皆のいる前で晒すように断罪・追放されて、この森の奥に追いやられたのであった。
♢
ここは、よくある物語のような乙女ゲームの世界である。
すやすやと眠る金色の長いふさふさの睫毛の女性は、悪役令嬢アイシャこと中条 美百合。
この王国のヘルズマン公爵家の娘である。
♢
中条美百合と中黒和真は転移者だ。
2人とも、元々は日本に住んでいた高校生だった。
転移したきっかけは、トラックの事故である。
─その日は、高校の定期テストの最終日であった。
朝の登校時、テスト勉強で徹夜続きが祟ったのか体調不良であった和真に、たまたま後ろに歩いていた美百合が、声を掛け肩を貸したのであった。
2人がその場に立ち止まっていた時、大型トラックが物凄い勢いで突っ込んで来たのであった。
事故の後……。気が付くと美百合は悪役令嬢アイシャに転移していた。
和真は元いた世界のそのままの姿で、チート級の能力を得て、この乙女ゲームの世界に転移したのである。
♢
暫く和真は美百合を撫でていたが、穏やかな表情で寝ているのを確認すると、胸ポケットからスプレーを取り出し、辺り一面にシュッシュッと振り掛けた。
ラベンダーの香りに包まれる。
美しい女性をまるで壊れ物を扱うかのように、金色の前髪をそっと手でかきあげると、そこにキスを落とした。
「和真君……。フフッ。」
思いがけず、愛しい人の可愛らしい声がした。一瞬びくっとなり、顔を覗き見ると、まだ寝ているようだ。
ポンポンと頭を優しく撫でると、またフフッと笑う。
暫く、その愛らしい寝顔を見つめた。
先程とは違い楽しげな夢をみているようだ。
(その夢の中には、俺もいるのかな?)
愛しい人の寝顔にうしろ髪を引かれながらも美百合の部屋を後にした。
♢
鳥のさせずリが聞こえてきた。
夜が明けようとしているようだ。
転移してからの約1年間。
美百合にとって辛い出来事が多かったが、それも、もう終わったのだ。過ぎた事だ。
これからは、少しでも快適に、幸せに過ごしてもらいたい。
和真は手にぐっと力を入れた。
その為には……。和真は自分の身支度を手早く始めた。
顔を洗い、ピシッとした執事服に身を包む。
フレームの細い眼鏡を掛け、黒髪をピシッとセットした。
エプロンを身に付けキッチンに立つ。
毎日の食事から幸せを感じて欲しいのだ。
(俺の作る食事が愛しい人の栄養となり体を作り上げていく。)
少し熱を帯びた眼差しで、2階を見つめる。
キッチンには、ヘルズマン公爵家から持たされた食材や調味料、調理器具が沢山あった。
ここサルベニア王国は、西洋風なのだが、ヘルズマン公爵家では不思議と前世の日本の物と似かよった食材、調理法か多く馴染みやすかった。
そのお陰か食事に関しては何不自由なく過ごすことが出来たのであった。
美百合が日本にいた時好きだった抹茶ラテも、毎日のように出すことか出来たのである。
心が壊れずにこれたのも、これらの食べ物が支えてくれたのも一つであろう。
♢
朝食の献立は……。
大根、玉ねぎ、人参など野菜がたっぷり入った味噌汁。だし巻き玉子。鍋で炊いたご飯。
米があるのも大変ありがたかった。
そして、デザートには苺だ。
野菜を包丁で次々と切っていき、魔法で火をつけ、手際よく朝食を作っていく。
美味しそうな匂いがしてきた。
味噌汁の味見をする。麹が効いていてなんとも風味豊かな味わいだ。
(ん?…。)
物音がして2階をチラリと見る。
美百合が、2階から青色の瞳を擦りながら階段を降りてきた。
「和真君。おはよう。……ごめん。今朝も和真君にご飯作ってもらって。」
首を横に振り、にこりと微笑む。
朝から何とも色香の漂う笑顔に美百合は一瞬怯んだが、ささっと洗面を済ませ朝食の準備を手伝った。
「お嬢様は座っていて。」
「もう、お嬢様でも何でもないよ。やらせて!」
ススッとカズマの横につき、盛り付けたりテーブルを拭いたりとパタパタと動きながら一緒に朝食を完成させていく。
その愛らしい動きを目の端でとらえる。
美百合がいると、一気にその場が華やぐのだ。
「うーん。美味しそうな匂いだね。幸せ。」
にこにこと笑いながら表情豊かに、話しかけてくる。
(幸せなのはこっちだよ。)
和真はコクンと頷いた。
そんな和真を見て、またフフッと笑う。
テーブルには朝食が並べられていった。
和真は椅子をスッと後ろに引きエスコートする。
「和真君。ありがとう。でも、もう私はお嬢様じゃないから自分でやるよ。」
後ろを振り返り『ねっ…。』と小首をかしげるが、これ位はやりたいと、和真は譲らなかった。
美百合は、根負けしてエスコートしてもらい椅子にストンと座った。
『執事』として何でもやってくれるが、もう、悪役令嬢としての役割は終わったのだ。
姿はアイシャであるが、これからは中条 美百合として生きていくのだ。自分の事は自分でしていかなければいけない。
美百合は、鎖骨中央にある制約印を、そっと指でなぞった。
この制約印は、断罪・追放イベント終了後に施された印だ。
一生この家から半径5メートル以上は、決して出る事が出来ない呪いのようなものだ。
(私は、ここから一生出られない。でも和真君は?)
追放された私に付いてきてくれた和真君。
物凄く頼りになるし、心強いし、嬉しい。
でも……。
好きな人と一緒にいれるのは嬉しいよ。
だけど、私に合わせてこんな森の奥に一生過ごす道を選ばせなくても良いと思うのだ。
元いた世界でも優秀だったけれど、この世界に来て益々磨きがかかり光輝やいている。
魔力量も多く何をやらせても出来る…。そんな才能溢れる人をここだけに止めるのは駄目なような気がするのだ。
和真君とは、きちんと話さなくちゃね。
美百合は、またそっと制約印を確かめるように触ったのであった。
お読み頂きありがとうございます!
いつもは短編執筆しておりますので短い連載ですが長く感じました。
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