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陰の俺と、輝く彼女。リタッチから始まる天使が恋に落ちるまで。  作者: 酒本 ナルシー。
第一章 春

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52/56

多分 52話

放課後。


 教室には、少しずつ人がいなくなっていく。


 亜里沙は窓の外をぼんやりと見つめていた。


 今日一日。


 気付けば、蒼真のことばかり考えていた。


 髪型。


 七宮と話していたこと。


 女子に話しかけられていたこと。


 「似合ってる。」


 その言葉まで。


 全部。


 頭から離れなかった。


 (……何でだろ。)


 自分でも分からない。


 その時。


 「ありさ。」


 瑠華が隣へ来た。


 「今日、疲れた?」


 その一言で。


 亜里沙はようやく現実へ引き戻される。


 昨日のこと。


 モデルの話。


 これからのこと。


 何も整理できていない。


 「ねぇ、瑠華。」


 「何でこんなにぐちゃぐちゃになっちゃったんだろ。」


 ぽつりと呟く。


 瑠華は少しだけ黙った。


 そして。


 静かに聞く。


 「ねぇ、ありさ。」


 「……米倉くんのこと、好き?」


 「え?」


 亜里沙は思わず瑠華を見る。


 「瑠華、何言ってんの?」


 「好き?」


 その言葉を、頭の中でもう一度繰り返す。


 好き。


 好きって……。


 「友達として、ってこと?」


 自分でそう言ってから、少しだけ考える。


 嫌いじゃない。


 むしろ。


 嫌いになる理由なんて一つもない。


 「……何でそんなこと聞くの?」


 瑠華は優しく笑う。


 「だって。」


 「今日のありさ、一日中米倉くん見てたから。」


 その言葉に。


 亜里沙の心臓がどくんと鳴る。


 「……そんなに見てた?」


 「うん。」


 「見てた。」


 亜里沙は視線を落とした。


 「……あたし。」


 「蒼真君が、頑張ってるところを見るの好きなんだ。」


 その言葉は。


 考えるより先に口から出ていた。


 「努力して。」


 「一生懸命で。」


 「そういうところが……なんか、眩しくて。」


 そこまで言って。


 亜里沙は自分の口を手で押さえた。


 (あたし……。)


 (何言ってるんだろ。)


 自分でも、自分の気持ちが分からなかった。


 瑠華は亜里沙の横顔を見つめながら、静かに続けた。


 「あとさ。」


 「今日の米倉くん。」


 「何か変わろうとしてた気がした。」


 亜里沙は顔を上げる。


 「変わろう……?」


 「うん。」


 「しんどいの、たぶんまだ全然引きずってる。」


 「でも、それを隠してでも前に進もうって決めた顔してた。」


 その言葉に。


 亜里沙は朝、教室へ入ってきた蒼真の姿を思い出す。


 前髪を上げた髪。


 ぎこちない笑顔。


 女子に「ありがとう」と返していた姿。


 七宮と笑っていた姿。


 全部。


 昨日までとは少し違っていた。


 「……そっか。」


 小さく呟く。


 そして。


 胸の奥が少しだけ締め付けられた。


 (辛いのは。)


 (蒼真君の方が、ずっと大きいはずなのに。)


 それでも。


 前を向こうとしている。


 やっぱり。


 すごいな。


 心から、そう思った。


 亜里沙はゆっくりと息を吸う。


 「……うん。」


 「私も。」


 「前に進まなきゃ。」


 その瞳には、昨日までとは少し違う光が宿っていた。


 瑠華は、ぽんっと亜里沙の肩を軽く叩いた。


 「よし!」


 「じゃあ、泣くのはもう終わりね。」


 「えぇ……。」


 「米倉くんも、ありさが泣いてるのは嫌だと思うよ。」


 その一言に。


 亜里沙は小さく頷いた。


 「……うん。」


 「あたしも、そう思う。」


 そう言ったものの。


 蒼真のことを考えた瞬間、また目の奥が熱くなる。


 涙が出そうになる。


 慌てて上を向いた。


 そんな亜里沙を見て、瑠華は苦笑いする。


 「まだ泣くんかーい。」


 「だって……。」


 「はいはい。」


 瑠華は笑いながら続けた。


 「ありさちゃんは、まだお子様だからさ。」


 「恋愛とか、よく分かってないんだよ。」


 「好きも。」


 「嫌いも。」


 「これから、ゆっくり知っていけばいい。」


 最後は少し茶化すように笑う。


 「……なに、その言い方。」


 亜里沙は少しだけ頬を膨らませた。


 「なんか今日の瑠華、ちょっと意地悪。」


 「えへへ。」


 「そう?」


 瑠華は悪びれる様子もなく笑っている。


 その笑顔を見ていると、不思議と少しだけ肩の力が抜けた。


 まだ。


 自分の気持ちは分からない。


 でも。


 逃げちゃ駄目なんだ。


 ちゃんと向き合わなきゃ。


 亜里沙は心の中で、そっとそう決めた。



読んでいただいてありがとうございます。

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