銀月の誓い
銀月の誓い
ギルド《銀月の帳》は、今日だけ静かに、そして熱く燃えていた。
いつもは殺気や汗の香りが満ちるこの場所に、花の飾りと光が踊る。
掲示板には“臨時休業”の紙が貼られ、下には一言だけ──
「巻きついたら、もう離さない」
「⋯⋯やっと、だね」
ティナは受付からそっと目を細める。
整えられたホールの中央には、白い布が敷かれ、結界で守られた簡易祭壇が置かれている。
リリィが結界を調整しながら、ひとつ小さくため息をついた。
「こんなことに魔力使うとはね⋯⋯ま、似合いすぎて笑えるけど」
ジークは大きな盾を祭壇横にそっと立てかけ、式の進行役としての立ち位置に立つ。
レイはというと、すでに端の席で「うぉぉん、無理、これ泣ける⋯⋯」と号泣中。
「お前まだ始まってすらねぇだろ⋯⋯」
ジークが呆れて言った。
そして──
扉が開いた。
静寂が、落ちた。
そこに現れたのは、黒と紫を基調にした礼装を纏ったラミアの男。
上半身には装飾を抑えた静かな品位が漂い、下半身の蛇の尾には美しい銀の装飾が絡んでいた。
エリオンは、まっすぐと歩く。
その瞳は、真っ直ぐにフィリアを捉えていた。
フィリアは──
薄紫のドレスを身にまとい、銀の花飾りを髪に差していた。
その腰には、儀礼用の小さな短剣。
彼女らしく、どこまでも優しく、そして強く。
「⋯⋯きれいだ」
エリオンが、息を吐くように呟いた。
その言葉だけで、フィリアの頬が染まる。
ふたりは並び、壇上に立った。
ジークが口を開く。
「今日ここに集まったのは、俺たちの仲間であるエリオンとフィリア──
長い旅路と絆の末に、互いの“真実”を見つけたふたりの、誓いの時を祝うためだ」
「誓いの言葉を──」
エリオンが、ゆっくりとフィリアの手を取った。
「⋯⋯俺は、お前に巻きついた。これは俺の本能だ。だが、それ以上に──
お前が“渇き”を満たしてくれた。だから俺は⋯⋯もう、離さない」
フィリアの目に、静かな涙がにじんだ。
けれどそれは、哀しみではない。
「⋯⋯あたしはね、怖かったんだよ。誰かの本気も、自分の本音も。
でもあんたが、本気で巻きついてくれるなら──あたしも、逃げない。
ずっと、そばにいる。⋯⋯それが、あたしの本音」
その瞬間──
エリオンの尾が、フィリアの腰に静かに、そっと巻きついた。
ざわ⋯⋯
空気が揺れ、歓声が爆発する直前、
ティナの声が響いた。
「はーい! 誓いのキス、お忘れなくぅ〜♡」
一拍。
フィリアは笑って、エリオンの胸に身を預ける。
そして──
エリオンが、そっと額を合わせ、唇を重ねた。
リリィはふっと肩をすくめる。
「⋯⋯やっとね、ほんと」
レイは目の端をぬぐいながら、
「うおおおぉぉ! ハッピーエンドだぁぁ!!!」
と、叫んだ。
ジークは思わず笑い、手を叩いた。
カルドは最後列から静かに見守り、言った。
「よし、次の任務は⋯⋯新婚旅行ってことでどうだ?」
笑いと祝福が満ちるホールの中、
ひとつの物語が、静かに幕を閉じた。
しばらく後。
街を離れるエリオンとフィリアの背に、仲間たちの声が届く。
「幸せになれよー!」
「巻きつきすぎんなよー!」
エリオンは尾を少しだけきつく巻いて、フィリアの腰に触れる。
「⋯⋯永遠に、離さない」
「⋯⋯あたしも、逃げない」
──《銀月の帳》の看板が、静かに風に揺れていた。
――Fin――




