表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/56

感情と仮面の綻び 3


 ギルドの空気が、ひんやりと冷えた。


 扉の前に立つ二人。

 ヴァルとリール。


 その姿に、フィリアの心臓はぎゅうっと強く握られたように痛んだ。


 


(嘘⋯⋯なんであいつらがここに⋯⋯)




 足が竦む。心がざわめく。

 それでも、フィリアは仮面を崩さず立ち上がった。




「久しぶりね、フィリア?」




 赤い口紅が妙に艶やかに映えるリールの唇が、冷笑を描く。




「⋯⋯久しぶり、リール。ヴァル」




 フィリアは微笑んだ。“何もなかった顔”で。


 その表情に、レイが眉をひそめ、ジークが腕を組む。


 一方、リリィはカップを置いて立ち上がり、カルドへと視線を送った。




「彼女たちの“所属”は? このギルドに認可されたのかしら」


「⋯⋯正規登録ではない。だが、昨日“異動願”が受理されたばかりだ」




 カルドが重たく言葉を吐く。




「正式な調査前に、ひとまず顔を出しに来たってわけか」


 


 ヴァルが傲慢な笑みを浮かべて、フィリアに近づく。




「久しぶりだな。相変わらずお前は可愛いよ。俺に夢中だった頃と変わらない」


「は?」




 レイの眉が跳ねた。


 だがそれ以上に、静かに空気が冷えた。


 視線の先。

 エリオンが、まるで影のようにフィリアの隣に立っていた。




「下がれ」




 その声は低く、冷たい――蛇のように。


 


「⋯⋯あ? なんだお前、誰に向かって――」




 その瞬間、ヴァルの足元に、何かがスッと滑った。



 細く、しなやかな尾。

 それは、エリオンのものだった。



「危害は加えない。だが二度と、“その口”でフィリアの名を呼ぶな」


 


 ピリ、と空気が裂ける。


 誰もが感じた。エリオンの“理性”が、ほんの一歩、限界に近づいていたことを。


 


 フィリアは一歩、エリオンの前へ出た。




「⋯⋯平気。ありがとう、でも。ここは、あたしが話す」




 彼を見上げる目に、微かな微笑みと、痛みが混じっていた。


 


 エリオンは、尾を静かに引き戻す。




「⋯⋯わかった。けれど、何かあれば、すぐ呼べ」


 


 フィリアはうなずいて、深呼吸をした。




「⋯⋯で? 何しに来たの。ここに」




 リールが、唇を吊り上げる。




「もちろん、謝罪に来たのよ。ほら、“昔のこと”ってやつ。許してくれる?」


「“川に突き落とされたこと”も、“変な噂を流されたこと”も、“他の仲間に見放されたこと”も?」


「昔は未熟だったのよ。ねぇ、ヴァル?」


「あぁ。まあ⋯⋯でもお前も、ちょっと調子乗ってたところあるだろ?」


 


 フィリアの仮面が、微かに軋む音を立てた気がした。


 後ろで、リリィがささやく。




「フィリア。あなた、今のままじゃまた“飲まれる”わ」


 


 けれどそのとき。




「いい加減にしろ」




 響いた声は、深緑の短髪後ろ刈り上げてる。青緑色の目をリールとヴァルを睨みつけているライザのものだった。


 リールたちの後ろから現れたその男は、やや乱れた呼吸のまま、ギルドに足を踏み入れる。




「お前ら、また同じこと繰り返す気か? ここは“あの頃”とは違うぞ」


 


 フィリアが小さく息を呑む。




「ライザ⋯⋯」


「よぉ、元気そうだな。⋯⋯変わったな。顔が、前よりずっと、柔らかい」


 


 リールとヴァルは、やや不機嫌に舌打ちをしてからカルドに頭を下げた。




「じゃ、今日はこの辺で。ご挨拶、以上。お邪魔しましたぁ」


 


 ギルドの扉が再び閉まったとき、ようやく空気が戻る。


 


 フィリアは俯いたまま、小さく震える肩を隠していた。




「⋯⋯あたし、まだダメかも。怖いんだ」




 その声に、エリオンはそっと近づき、ただ一言だけ呟いた。




「⋯⋯怖がっていい。だけど、もう一人じゃない」


 



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ