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番外編「名前で呼んで、」

 今日は休みのため、ご飯の材料を買おうとスーパーに寄ろうと思い、家を出た。スーパーは最後に後回しし、どこか買い物をしようとルンルンな気分で家を出る。

 肝心な「月下香」であるお父さんは旧友と出かけて行った。


「今日は一人だ! やっほー!」


 最近はずっとお父さんに振り回されてばっかりで心臓がいくらあっても足りない。ドキドキしっぱなしだ。

 それもこれも全てお父さんが悪い。お父さんがどこでもかしこでも迫ってくるのが悪い。


「でも……嫌だとは思わない」


 って、何を考えているんだ!と思いっきり首を振った。

 今日は一人の買い物を楽しむ。そう決めたはずだ。お父さんに惑わされては駄目と再度首を思いっきり振った。


「あっ……すみません!」


 考え事をしていた所為で前を見てなく、人とぶつかってしまう。急いで謝りながらぶつかった相手の顔を見た。

 可愛らしい容姿の同い年くらいの少女だ。そして私は彼女に見覚えがあった。

 そうこの子は別の学校の子であるが、主人公の親友となる子だ。そうここまでくれば分かるだろう。この子の父親が攻略キャラであった。

 今はもう既に私は「月下香」ルートに入っているため、関係はないが入る前なら焦ってたところ。だがこの子の父親は確か。


「あれ?」


 そうこんな感じの柔らかい声色の声の持ち主で、甘い顔立ちの我が高校の理事長であるグラジオラスだ。


「ん、理事長!?」

「ああ、紫陽花くん……こんにちは」


 優しく微笑むグラジオラスに「あれ、お父さんのところの生徒さん?」と彼の娘は不思議そうに私達を交互に見る。

 戸惑っている私に彼女は嬉しそうに笑みを浮かべた。


「えっと紫陽花ちゃんで合ってるんだよね? 私、貴女とお友達になりたい!」


 ねっ?とウィンクをし、彼女は私の両手を握りしめ、顔を耳元に近付けた。お父さんの学校の様子が気になるから教えてほしいんだ、って悪戯そうに微笑む姿は可愛らしいもの。

 ラーレ先生のところの娘も人懐っこく、それに父親が大好きなのはなぜなのだろう。ちょっぴり感じた罪悪感で胸が痛い。

 私は心底自分のことしか考えてないことが思い知らされる。


「……私でよかったら」


 チラッとグラジオラスを見ると彼は優しげな笑みを浮かべている。それは娘の成長を喜んでいるようでそれと同時に寂しい気持ち混じっているような気がした。


「おい、グラジオラス。どこに行ったかと思えば……ああ」

「ん?」


 グラジオラスの後ろから歩いてきた人物を見た瞬間に私は固まってしまう。旧友というのはグラジオラスのことだったのか、お父さんよ。と固まった体とは逆に脳内は冷静だった。


「おや、これは……ふむ」


 グラジオラスはお父さんと私を交互に見たと思ったら、次に自身の娘に「家に帰ろうか」と話しかける。唖然としている私、何かを悟ったお父さん。


「後は若い二人にお任せするね」

「あっ、紫陽花ちゃんバイバイー! また連絡するね」


 可愛らしく手を振る彼女に、何か変なことを言っているグラジオラス。


「てっ、はぁぁ!? ちょっとなにが若い二人なの! 理事長とお父さんは同い年だろぉぉ!」

「まっ、そういうことだから行こうか」

「何がどういうことなの!?」


 一人だけ状況が飲み込めない私の手をお父さんは握った。そう手を繋ぎ、まるで周りに恋人関係と言っているような。


「お父さん……?」

「今は俺のことを月下香って呼べよ、紫陽花」


 まぁ、お父さんって言われるとイケないことをしているようで興奮するんだけどな。そういい笑顔で言い放った言葉を聞きもらすことはなかった。


「最低だよぉおお!」


 今すぐにでもしゃがみ込んで顔を覆い隠してしまいたいほどの羞恥心が襲ってくる。ちょっと月下香って呼べよってところで胸がときめいたとか嘘なはず!


「さぁ、紫陽花デートをしよう」


 さぁ行くぞ、そう爽やかに嬉しそうに微笑むお父さんはかっこいい。一度認めてしまえば、溢れ出してしまう気持ち。

 気付かないように気付かないようにと心に封じてきたのに、それを無理矢理こじ開けたのは彼だ。


「げ……月下香、さん! 責任は取って!」

「……っ、紫陽花」


 可愛い、可愛い。お父さんは目にも入れても痛くないというほど私に可愛いと言い、頬を軽く触れるだけのキスをした。


「グラジオラスに相談してよかったなぁ」

「えっ、何を?」

「紫陽花とデートするにはどうしたらいいかとね」


 ふふっ、と妖艶に口元を歪めるお父さんにゾクッと背筋が凍った。そんなことを相談していたのか、しかもお父さんの旧友と言っても彼は私の高校の理事長だぞ。


「やっぱり最低だよぉぉおお!」

「そんな最低に惚れたのはお前だろ?」

「うっ……」

「あと惚れられたのもお前だ、紫陽花」


 ああ、捕まってしまう。そう感じる前に逃げればよかったんだ。そうしなかったのは私自身。

 私はとっくの昔にお父さんのことをお父さんとは思ってなかった。


「好きだから、ちゃんと月下香のこと」

「もう、さん付けはなしか」

「月下香なんて月下香って十分なんだから!」

「はいはい、俺の可愛い可愛い紫陽花……やっと手に入れた俺だけの花」


 甘い甘い月下香の香りに騙され、そっと身を委ねた。

月下香

「危険な関係』『危険な楽しみ』

「危険な関係」という花言葉は、2輪ずつ咲く花が男女を思わせることにちなみます。また、夜になると花から強い香りが放たれることが、「危険な楽しみ」の由来。

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