PHASE-13 地上に降りた魔術師(ウィザード)
わたし達、第百一分隊が地球軍の動向を探り出してから六日が過ぎようとしていた。
アルルからの情報では現時点でのレジスタンスと地球軍の共闘はありえないとの事だった。
しかし中には地球軍からの支援を受け共闘しようと言う者達もいるのも確かだと言う。
レジスタンスにも派閥があるらしいのだ。
我軍の損失率が増したのは、村にソラが来たからだろうとアルルは語っていた。
ゲリラ戦に正規の戦術、時には奇抜な発想の戦術を加え、効果的に敵を誘導し罠に追い込むといったものだったと言う。
それもフロンティア軍が配置した地雷原に巧みに追い込み、ある意味同士討ちに持ち込んだり、文字通り同士討ちをさせるというシンプルな作戦を立てたとも言っていた。
正規軍が最も恐れるのは密林でのゲリラ戦。
ソラは単なるゲリラ戦に加え、計算し尽くした戦術を加えただけなのだが、アルルの村の様に規模の小さいレジスタンスにとってAMRSは脅威そのものだっただろう。
しかしソラは我軍のAMRSについても良く知っている。なにせ彼はデブリ帯で我軍の機密を探る任務に就き、宇宙戦用と陸専用の違いはあれど、我軍AMRSの基本設計を知り尽くしている人物だ。
それこそ有線通信機、ジャイロ、IFF、メインカメラの位置から装甲の薄い部位まで。
小回りの効かないAMRSを人とバイク、武装したジープで撹乱し隙を見てメインカメラ、ジャイロ、IFFの順に無効化していく。
泥や枯れ木と生の木々など密林の条件を有効且つ効果的に使い先ずAMRSパイロットの視界を奪い、不利な状況から敵が逃れ様とする心理を利用し、味方と連携した行動を加え、我軍が埋めた地雷原へと誘導するのだと言う。
現地の人々にとっては危険な地雷の撤去と敵AMRSの撃破、一石二鳥と言うわけだ。
密林で自分の位置を見失う事はなによりも恐ろしい事だ。ましてや眼であるメインカメラを失う、または無効化される事は目隠しをして武装集団のいる迷路を行くに等しい。
おまけにジャイロ、IFFを無効かされれば尚更だ。
ジャイロなど自身の位置を知る装置を失えば自軍の方向を見失う。強力磁気を用いれば造作も無くジャイロは狂ってしまう。
またIFFも疑似の信号を発生させ敵軍を混乱させたらしい。
アルルはソラの事を何時も自慢げに話す。
AMRSを撹乱し指揮車から遠ざけ、前方のAMRSの異変に指揮車の護衛にあたっているAMRSが援護に向かったその隙を見逃さず指揮車を潰す。
指揮車を失えばAMRSのパイロット達に指揮系統が届かず混乱は増していく事だろう。
聞こえるのは敵か味方か分からない銃声だけ。
余程、修羅場を潜り抜けて来たベテランパイロットでもなければ、極度の恐怖と不安の中、精神は過敏になり、やがて恐怖に負け銃声の聞こえる方角に銃撃する。
その状況下で味方だと判断できる確信はない。
アルル達レジスタンスは、ただ銃声を密林に響かせればいい。
――撃たなければ殺られる。
その心理を利用するのだ。
先の話で用いた手段で敵軍を混乱させ、恐怖心を煽り冷静さを奪って行く、その状況下に置かれ混乱と恐怖心に押し潰されたパイロットは、判断を誤り撃たれれば撃ち返してしまうであろう。
効果的に同士討ちを誘うのだ。
他にも自然や地形を生かした古典的な罠を張ったりもしたそうだ。
AMRSが密林を行く際に倒していった木々を集め、斜面や崖の上に積み上げ転がしたり落したりして巧みに地雷源へと誘導して行ったり、穴を掘り粘土質の土で人工沼を作ったりしてAMRSの動きを封じ込めたのだとか。
AMRSは人型二足歩行である故に高性能場バランスサーを搭載している。とは言え人間以上の俊敏さを発揮する事など到底出来ない。
人間でも足元を掬われれば、容易に転ぶのだから高性能バランサーを搭載した人型二足歩行のAMRSといえど例外ではないだろう。
アルルの村の人々はソラの事を「ウィザード」と呼んでいたらしい。
そう言えば、わたしが宇宙軍事司令ステ-ションアトラスの管制官の任務に就いていた時、デブリ帯での戦闘で友軍パイロット達から「ウィザード」と呼ばれ、恐れられていた敵軍のエースパイロットの噂を耳にした事がある。
デブリ帯に浮遊している残骸やゴミと化した中にも、まだ生きている武装は腐るほどある。
それらをも巧みに利用し罠を用いて敵を追い込み撃破する。
その大胆で巧みな戦術は、まさに魔術師の様だったと聞いている。
アルルの話を聞いている内に、そのエースパイロットをソラに重ねている事に気付く。
そう言った発想と機転は実にあの人らしい。
アルルはソラと共に戦った日々を楽しげに話していた。
ソラの話を聞いていたわたしの顔は、気付かぬ内に、きっと微笑んでいたに違いない。
「シェラ! 差し入れ持ってきたよ」
大声と共に指揮車の重厚なハッチを勢い良く叩く音が指揮車内に響く。
「隊長、静かにさせてくださいよ。あのじゃじゃ馬」
ケインがソナーのイヤホンを耳から遠ざけて文句をつける。
アルルは頻繁に、ここを訪れる。
単に遊びに来る事もあれば、村で収穫した新鮮な食料を差し入れてくれたりもするのだ。
『隊長いいのですか? 敵に気付かれては任務が……と言っても敵軍も自軍の懐で油断しているのかい? それともレジスタンスがちょっかいを掛けているとでも思って油断しているのかねぇー。この場に張り込んでから哨戒を掛けてくる部隊もないし、レジスタンスと接触する動きも見られない。それに上手い食い物を運んでくれているからねぇ。レーションにも飽き飽きしていた事だし、アルルを無碍には出来ないね』
「ローズ曹長まで」
『ケイン。大方あんたはラジオの電波でも探って音楽でも聴いてたんだろ?』
『あっはぁは。またですかケインさん』
『常習犯だからな』
「アンダーソン軍曹まで……。どう思います? 隊長? って隊長?」
「ほんと素敵な曲が流れてるわね」
「……グラウンドソナーも反応なし、じゃじゃ馬からの情報だけでも収穫ありって事で」
『だからって気を抜いてるんじゃないよ。任務は後一日残ってんだ』
「へいへい」
『ケインとジェイジェイは、そのまま警戒を続けながらレーションでも食ってな後の者達は折角の差し入れを頂くとしようか。ねぇ隊長』
「そうね」
「そんなぁ……」
『そんなぁ……』
「心配しなくていいわよ。二人の分は残しておくわ」
「シェラ、シェラってば早くぅ。わたしお腹ぺこぺこだよぉー」
『随分と懐かれていますね隊長。しかし油断は禁物です。アルルは例のソラという人物とも親しい様ですし、罠である可能性もまだ捨て切れません』
『アンダーソン。その心配はないだろうさ。罠ならとっくに発見されているだろうからね』
『ローズ曹長』
『だけど警戒はしておくに越した事はない……ね』
わたし達がアルルの差し入れた食物に手をつけ様とした時、事態は急を告げる。
「隊長っっグラウンドソナーに感。ちょっと来てください」
ケインの慌ただしく声を荒げた。
『ジェイジェイは、そのままAMRSのカメラで街道を監視。アンダーソンはAMRSで待機』
『了解しました』
『敵の奴等、折角の食事時を台無しにしてくれるねぇー、まったく』
わたしとローズ曹長は指揮車に駆け込んだ。
「隊長モニタを見てください。レンジギリギリで敵軍の機種、編成は特定出来ませんが」
わたしはケインに代わりグランドソナーの音、モニタの波形に神経を研ぎ澄ました。
モニタの波形は微弱で音紋を特定するには難しい。
音源に混じるノイズを取り除き、データバンクの音紋と照らし合わせていく。
「陸戦用ARMS……旧式量産型ARMS-AR-零三-H-1000(サウザンド)ハウンド(猟犬)四、指揮車、一、小型貨物車、一、……南東の方向に移動中」
「すげぇ……。俺も耳には自信があるんだけど有効レンジいっぱいのこの距離から機種を特定するなんて……。しかも数まで」
ケインの驚いた表情が目に浮かんだ。
わたしは自慢げに少しだけ、はにかんで見せた。
「耳では負けませんよケイン。ローズ曹長、戦闘指揮はそちら任せます」
わたしの呼び掛けでローズ曹長がARMS部隊の指揮を執り始める。
『あいよ。隊長が敵の機影を捕らえた。アンダーソン、ジェイジェイ最大望遠で確認出来るかい?』
『今、やってます』
南東の方向にはアルルの村がある。
『八時の方向、見つけました……。隊長っ大変です。部隊はアルルの村に向かっています』
「待って! グラウンドソナーに新たな音紋……北北東、一時の方向、数……多数、こちらに向かって南下中」
『隊長どうするんですか』
「一時、アルルの村付近まで撤退し動向を探りながら野戦司令部に戻ります」
『しかし、そっちには敵部隊が向かってますよ?』
「ジェイジェイ。ここから動なければ何れ発見されます」
『それはそうですが……動いても発見されますよぉぉ』
「どちらにせよ。何れ発見されるなら敵軍との距離がある内に早めに行動を起しましょう」
『隊長の言う通りだ』
「慌ただしくなってきやがったぜ」
『皆、一時アルルの村付近まで撤退するよ』
わたし達の会話を聞いていたアルルは指揮車を飛び出し、バイクに跨り村に戻って行った。
その時のアルルの表情は何処かしら嬉しげに、わたしには見えた。
PHASE-14 疑惑へつづく。




