PHASE-12 レジスタンスの村
わたし達、第百一分隊はアルルの住む村に着くなり、熱病を発症した村人が隔離されている長屋へと案内される。
まだ伝染した者は少ない様子だったが、このまま放置すれば小さな村人全体に感染するのは時間の問題だ。
隔離は懸命な対処だと言えた。
それよりもわたし達を見る村人達の冷ややかな瞳が、身体を氷柱の様に鋭く突き刺さる様に感じた。
三機のAMRSと武装した指揮車に怯える年老いた女性や小さな子供達の眼を、わたしは恐怖に感じたのだ。
その半面レジスタンスの戦士達の眼は憎しみに満ちてわたし達を見ている。
中には自動小銃や対戦車砲を構えている者も少なくはない。その中には背丈ほどのライフルを持つ子供もいる。
『隊長。どうも雲行きが怪しいねぇ』
ローズ曹長の声が有線通信から流れる。次いで他の隊員からも通信が入ってくる。
『隊長ぉー大丈夫なんですかね? なんだか獣の檻に入れられてる気分ですよぉ』
「ジェイジェイ、俺も同感だ」
『隊長、指示を』
「皆さんは安全が確認できるまでAMRS及び指揮車で待機。わたしが一人で行きます」
『隊長。それは危険です』
「ありがとうアンダーソン軍曹。でも彼等の信頼を得るまでは危険です。言い出したのは、わたし……皆を危険な晒す訳にはいきません」
わたしは指揮車のハッチを開け車外にでた。
銃口が一斉に向けられる。
「隊長っ」
ケインの声がわたしに届いた。
「大丈夫」
自分でも声が震えている事が分かる。震えに気付くと不安が増すもので身体まで強張っていくことを感じだしたところに、インカムからローズ曹長の声が入る。
『士官学校上がりの現場を知らない甘いちゃんだと思っていたけど、なかなかの度胸じゃないかカギザキ少尉』
「そんな事ありません。ただ……目の前で救える命を見捨てたくないだけです。声も身体も震えてます」
『お気を付て。隊長』
「撃つんじゃないよ! 怯えなくてもいい。この軍人さん達は村を救いに来てくれたんだ。ソラが言っていた通りだったよ」
アルルが声を大にして訴えてくれた。
「アルル! そいつ等を信じていいのか? こっちの弱みに付け込んで村に入り込んだんじゃねぇーだろうな」
「カザフ。村を助けてくれる代わりに条件も出されている。交渉に応じてわたしが村に連れて来た。無償で来てくれる奴より信用できる」
アルルが少年を諭す様に言った。
「やっぱりそうか! そいつ等に踊らされて僕達の本拠地を聞き出すつもりなんだ騙されるなアルル! 地球軍やフロンティア軍が俺達との約束を一度でも守った事があるか?」
「ソラは……どうなんだい? なにも考えずゲリラ戦しか脳のない戦い方をしていたわたし達に戦術を、戦い方を教えてくれたのはソラだよ。ソラのお陰で無駄な犠牲を出さずに敵を追い返したり、撃退したりしたじゃない」
「ソラ、ソラ、ソラ、アルルは何時もなにかあると奴の事を口にする。あいつだって村に熱病が伝染し始めて直ぐ地球軍に戻ると言い出して逃げたじゃないか! 俺達を見捨てたんだ」
「ソラはそんな奴じゃないよっ。わたし達と一緒に自軍の部隊も追い返してくれたじゃないかっ」
「アルルはソラに惚れてるから、そんな風にあいつの事を言うんだ」
「なっっ! そんなじゃないよ……別にわたしは……」
アルルは顔を赤らめ下を向いた後、言葉を続けた。
「皆はどうなのさ。このままじゃ熱病は蔓延し村人が全滅するかも知れないんだよ? ソラも言っていた様に一時でも早い処置が必要だと思わないの? だからわたしはフロンティア軍に救護を頼みに行ったんだ」
アルルの説得でわたしに向けられていた銃口を一人、また一人と降ろしていく。
「さあ早く始めましょう。発病者は何処?」
村の離れた場所をアルルが指差した。
「あの長屋に発病者を隔離してる」
アルルは苦しそうに答えた。
「ソラがそうしろって! 少しでも伝染を防ぐためにって」
「懸命な判断ね。感染者は何人?」
「二十人くらい」
「ワクチンが足りないわ」
「そんなっ」
「大丈夫よ。本当なら村人全員に接種できれば一番いいのだけれど、感染者の様子に応じて量を調整するわ。それと村全体を消毒して経過を観察して見てみてみましょう。わたし達に出来る事はそこまで……。わたし達には重要な任務もあるからごめんね。アルル」
「ありがと……隊長さん。名前は?」
「シェラ。シェラ=カギザキ。シェラでいいわ。アルル」
「ありがと……シェラ」
わたしは指揮車に積まれているワクチンを手に持ち長屋へと向かった。
その間に村の消毒に残りの隊員が行なった。
一通りの作業を終えてから、休憩は取らず直ぐに情報を聞き出す事にする。
レジスタンスが果たして地球軍と共闘しているのかを聞き出さなければならない。素直に答えてくれるとは限らなかった。
しかし質問に答えてくれたアルルやカザフという少年とのやり取りから共闘しているとは思えなかった。
アルルもきっぱり否定した。
もう一つ、わたしが聞き出したい情報はシャトルに積載されていたコンテナの行方と持ち出した人物が誰なのかだ。
その事をアルルに尋ねると彼女は苦しげに口を開いた。
「シャトルのコンテナを持ち出したのはわたし達だよ。その後、ソラはコンテナを積んだトレーラーを何処かに隠したんだ。あれは『パンドラの箱』だと言っていたよ。今、必要な物じゃないと言っていた。それがどういう意味なのか分からないし隠した場所も知らない。ほんとだよシェラ」
「分かったわありがと、アルル」
「隊長。そろそろ任務に戻らないと監視ポイントに到達予定時間が」
「ローズ曹長分かりました。直ぐに向かいましょう」
「シェラ! 何処に向かうの? わたしが案内してあげるよ。この辺りの地理は地球軍なんかよりわたし達の方が詳しいし抜け道も知ってるよ。安全なルートでポイントまで連れて行ってあげる」
「アルル」
「ローズ曹長、聞いての通りよ。ここで失った時間を取り戻すため、アルルの申し出を受けようと思います」
「はっ。直ちに準備に掛かります。……レジスタンスの信頼を得るとわねぇ、大した隊長だよあんたは……カギザキ少尉殿」
「はい? なんでしょうローズ曹長」
「これからわたしを呼ぶ際はキャシィーで結構です」
「分かりました。ではキャシィー行きましょう」
「はっ」
夜明け前、わたし達はアルル達の村を後にし作戦ポイントへと向かった。
そして村を出た後、わたし達は索敵時に敵軍の探知に成功する。
PHASE-13 地上に降りた魔術師へつづく。




