第6話 「弟子、増えました」
六話目です。
勇者の胃が順調に壊れています。
今回は“深淵の魔女”セレナ登場回。
最強クラスが増えました。
なお師匠本人だけ、
まだ自分がヤバい存在だと理解していません。
たぶん一生気づきません。
静寂。
焚き火がパチパチと鳴る。
誰も動けない。
アレスは現実逃避を始めていた。
(夢だ)
そう。
これは夢。
都合の悪い夢。
魔王と古龍だけでも胃が爆発寸前なのに。
さらに。
“深淵の魔女”まで弟子だった。
意味がわからない。
「……師匠」
セレナはレインに抱きついたまま、
ほとんど表情を変えずに呟く。
「三年ぶり」
「あー……久しぶり?」
レインは困ったように頭を掻いた。
「元気してた?」
「してない」
「してなかったかぁ……」
軽い。
会話が軽い。
だが。
周囲の空気は重すぎた。
リリアが震える声で言う。
「セ、セレナ・アルティアって……あの、“浮遊大陸を一夜で落とした”……?」
「うん」
セレナが即答した。
「師匠に褒められたかったから頑張った」
「頑張る規模じゃないんですよ!!?」
ミリアが叫ぶ。
レインは青ざめた。
「え!? あれセレナだったの!?」
「うん」
「なんでやったの!?」
「上に浮いてて邪魔だった」
「理由が雑!!」
アレスはもう笑うしかなかった。
はは。
終わりだこの世界。
すると。
エルセリアがスッと前に出る。
「……師匠から離れてもらえますか?」
ニコリ。
笑顔。
だが目が笑っていない。
ガルドも低く唸る。
「順番待ちというものがありますぞ」
「……は?」
セレナの半目が細くなる。
「なにそれ」
「師匠への距離感です」
「私は一番弟子」
「ですが現在の側近は私です」
「師匠と添い寝した回数なら我の勝ちですぞ」
「は?」
空気が凍った。
レインが吹いた。
「ちょっ、ガルド!? 変な言い方すんな!!」
「幼少期の話ですぞ」
「紛らわしいんだよ!!」
アレスはもう限界だった。
「待て待て待て待て」
頭を抱える。
「整理させろ」
指を差す。
「魔王」
「はい」
「古龍」
「うむ」
「深淵の魔女」
「……ん」
三人とも返事した。
普通に。
「全員レインの弟子?」
「はい」
「そうですぞ」
「ん」
「……」
アレスは空を見上げた。
星が綺麗だった。
現実から逃げたかった。
その時。
セレナがふと首を傾げる。
「……で、師匠」
「ん?」
「なんでそんな弱そうなのと一緒にいるの?」
ピシッ。
空気が固まった。
アレスの心に致命傷。
「よ、弱そう……」
「実際弱い」
「言い切った!?」
ミリアが慌てる。
「ち、違うんです! アレス様は勇者で――」
「勇者?」
セレナがじっとアレスを見る。
一秒。
二秒。
「……あぁ」
興味なさそうに視線を逸らした。
「師匠の荷物持ちか」
「違う!!!!!!」
アレス、絶叫。
しかし。
誰も否定できなかった。
なぜなら。
旅の大半、
レインが全部なんとかしていたからである。
アレスの顔から血の気が引いていく。
(俺……今まで……)
勇者やってたつもりだった。
でも実際は。
化け物に守られながら旅してただけでは?
その時だった。
ゴゴゴゴゴ――。
地面が揺れる。
森の奥。
巨大な気配。
木々がなぎ倒されていく。
ミリアが青ざめた。
「な、なに……!?」
リリアが震える。
「この魔力……災厄級……!」
現れた。
全長二十メートルを超える黒い魔獣。
六つ目。
巨大な牙。
瘴気を撒き散らす怪物。
王国なら軍が出動するレベル。
だが。
魔獣はレインを見た瞬間。
ピタッと止まった。
「……?」
レインが首を傾げる。
次の瞬間。
魔獣が。
スッ――……と土下座した。
沈黙。
「…………え?」
アレスの声が裏返る。
すると魔獣は。
『ゴ、ゴメンナサイ……』
泣いていた。
レイン、困惑。
「えぇ……?」
ここまで読んでくださってありがとうございます!
アレスの精神ダメージが毎話更新されていく作品になってきました。
次回は土下座する災厄級魔物回です。
もう勇者パーティの常識が全部壊れてます。
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