第五話 勇者、胃痛で眠れない
第五話です。
勇者アレス、
ついに「自分が何をやったのか」を理解し始めました。
なお、
まだ弟子は増えます。
頑張れアレス。
よろしくお願いします。
夜。
焚き火の前。
勇者アレスは死んだ目をしていた。
(眠れねぇ……)
当然だった。
右には魔王エルセリア。
左には古龍ガルド。
どっちも国滅ぼせる存在。
しかも。
二人ともレインの弟子。
意味がわからない。
「師匠、寒くないですか?」
「師匠、肉焼けましたぞ!」
「師匠、こちらのスープもどうぞ」
「師匠、肩を揉みましょうか?」
うるさい。
最強存在たちが、
ずっと甲斐甲斐しく世話している。
レイン本人は困った顔だ。
「いやほんと気使わなくていいから」
「何を言ってるんですか」
「そうですぞ」
二人が同時に真顔になる。
「師匠のお世話は生き甲斐です」
重い。
愛が重い。
ミリアが小声で呟いた。
「……なんで魔王と古龍が同じこと言ってるんですか……」
「知らん……」
アレスは頭を抱えた。
そして。
彼は思い出してしまう。
今までの旅を。
――毒沼地帯。
普通なら全滅していた。
なのにレインが、
「この草食べると毒消えるよー」
と笑っていた。
――古代遺跡。
誰も解けなかった結界を、
レインが「押したら開いた」と言って壊した。
――災厄級魔物。
遭遇した瞬間、
なぜか急に逃げ出した。
あれ。
全部。
「……レインのせいだったのか?」
アレスの声が震える。
「はい」
エルセリアが即答した。
「師匠がいたので、
周囲の魔物は怯えて近寄れませんでした」
「え」
「ちなみに災厄級は失神してましたぞ」
「え?」
ガルドが頷く。
「師匠の殺気を感じた瞬間、
泡吹いて倒れます」
「俺そんな怖い!?」
レインが本気で引いていた。
自覚ゼロである。
アレスは胃を押さえる。
キリキリ痛い。
(俺……何追放したんだ……)
その時だった。
ザッ――。
森の奥で音がした。
全員の空気が変わる。
エルセリアの目が細まり。
ガルドの瞳が光る。
殺気。
重圧。
森が震えた。
「誰だ」
ガルドの低い声。
すると。
木々の奥から、
一人の少女が現れた。
銀髪。
眠そうな半目。
黒ローブ。
そして。
とんでもない魔力。
リリアが息を呑む。
「うそ……」
知っている。
大陸最強の魔導師。
“深淵の魔女”。
人類最高峰の天才。
セレナ・アルティア。
その怪物が。
レインを見た瞬間。
トテトテ走ってきて。
ぎゅっ。
抱きついた。
「……師匠、見つけた」
アレスの胃が、
完全に終わった。
読んでいただきありがとうございます!
今回はアレスの胃痛回でした。
今までの「なんか上手くいってた」が、
全部レインのおかげだったと判明していくの、
書いてて楽しいです。
そして新たな弟子、
“深淵の魔女”セレナ登場。
たぶん一番危ないタイプです。
次回、
師匠争奪戦が始まります。




